米国における「ディープ・ステイト」とは
"Deep state" in the United States(Wikipedia)
米国の著名な人物たちは、何十年にもわたって、「ディープ・ステイト(deep state)」、「国家の内部の国家」といったものに対する懸念を表明してきた。彼らはそれが、民主的国家としての米国の政権を支配している政党に関わらず、公共政策に影響力や支配力を行使しているのではないか、と疑念を抱いてきた。
歴史上、「ディープ・ステイト(deep state)」という言葉は、しばしばトルコなどの国の例を引合いに語られる─その国では、影の政府が国の政策の重要な側面に影響力や支配力を行使している、とされている─米国では、トランプ政権が諜報部門からの情報のリークに直面して、官僚機構のコントロールに苦闘している状況から、この言葉が注目を浴びてきた。
フィリップ・ジラルディによれば─権力の中枢とは、軍産複合体と諜報部門、そして、ウォール街がその中心をなしているともいうが、ビル・モイヤーズはそこに金権政治家とオリガルキーの存在を挙げている。
さらに、ピーター・デール・スコット教授は、「巨大石油企業」やメディア産業などもキープレイヤーである、とする…。また、デヴィッド・タルボットは、国家安全局の官僚、特にアレン・デュレスなどの名前を挙げる。
ワシントンの元・政府職員のマイク・ロフグレンによって書かれた関連書籍(*)では、シリコンヴァレー企業や、「政府を構成する重要要素」、「ウォール街」などにも言及しながら、そこでは、「国家」の非・共犯的性格というものについても強調している。 (*Mike Lofgren "The Deep State: The Fall of the Constitution and the Rise of a Shadow Government", 2016.9)
政治家学者のマイケル・J・グレノンは、こうした傾向というものは、国家の政策が選挙によって選ばれた政府の高官ではなく、官僚組織によって形作られている─という状況の結果であると信じている。
トランプ政権における「ディープ・ステイト」
トランプ政権下で、「ディープ・ステイト」という言葉はメディアや幾人かの政治的人物に関して用いられている─特に、トランプの国家安全保障問題担当顧問に任命されたマイケル・フリン氏の辞任を招いた、ワシントン・ポストとニューヨークタイムズに対する諜報機関による情報のリークの後には─こうしたリークや、内部的離反などを通じて政策をコントロールする、諜報部門や行政執行官僚などを指して用いられている。
https://en.wikipedia.org/wiki/Deep_state_in_the_United_States
グレン・グリーンウォルドが語る:「ディープ・ステイト」のトランプへの攻撃は、
民主主義崩壊への処方箋だ
Greenwald: Empowering the "Deep State" to Undermine Trump is Prescription for Destroying Democracy (Democracy Now! 2017/2/16)
トランプが大統領補佐官の職に任命したマイケル・フリン中将が、大統領選挙期間中に、私人の立場でありながら、ロシアとの非公式の会話による交渉を行っていたという疑いで解任された。このことは、CIAとFBIがフリンとロシア側になされていた会話を傍受し、その機密情報をニューヨークタイムズとワシントン・ポストにリークしたことによって露わになった。
これに対してトランプは、こうした諜報機関の行為を極めて違法な行為だといって非難し、それを暴露したメディアをも攻撃した…。
我々は、トランプ政権が11月の選挙投票日の前後にロシアとの交渉の会話を交したとされ、拡大しつつあるスキャンダルに目を向けてみたい。
1月初旬に、民主党上院議員のチャック・シューマーは、The Rachel Maddow Showに出演して、諜報部門がドナルド・トランプに対する反撃を行っているのではないかと語った。
(ビデオの抜粋)
チャック・シューマー上院議員:
たとえば、もしもあなたが諜報機関と対決したならば…彼らは、日曜日以降に6つの手段を用いてあなたに反撃を仕掛けてくる。…だから、彼(トランプ)が鼻っ柱の強い反抗的なビジネスマンであったにせよ、彼がそんなことをするのは…実に間抜けなことであるわけだ。
エイミー・グッドマン:
…これは、1月に上院の少数党院内総務・チャック・シューマーが述べた言葉であり─
…そして我々は、ピュリッツアー賞を受賞したジャーナリストで、The Interceptの共同設立者でもあるグレン・グリーンウォルドと語ってみたい、と思う。彼は、最近のツイッターでこう述べた、「The leakers who exposed Gen Flynn’s lie committed serious and wholly justified- felonies”
(Gen.Flynnの嘘を露呈させた情報の漏洩者(リーカー)たちは、シリアスな─そして(しかし)完全に正当化される─重罪を犯したのだ)と。
グレン・グリーンウォルド:
フリンの、ロシアの大使及び他のロシア外交官たちとの会話の内容を誰がリークしたとしても、それは、法的には極めてシリアスな犯罪とみなされる─それは、民主党のオバマ政権の最後の日々においても、重要機密をリークしたチェルシー(ブラッドレイ)・マニングやエドワード・スノーデン、(トーマス)・ドレイクなどの人々が重罪として処罰を受けたのとも同様の状況なのだ。
そして、リークされたその機密情報を掲載し、公表したニューヨークタイムズや、ワシントンポスト、NBS などのメディアも同じく重罪とされている。私自身の見方では、8年間のオバマ時代やブッシュ時代もそうだったが、政府内部の人間が、公共の役に立つ情報を暴露したという場合には、たとえそれが違法であっても…それは、正義の行為…英雄的な行為として称賛されるべきものだ、と思う。民主主義の透明性を維持する為のものとして。
今回、トランプの周囲の者たちは、漏洩者をローライフ(下等なやから)といって激しくこきおろしたが、そのことは、民主党政権が行った行為と同じものでもある。NSAの盗聴能力も、このフリンの一件で証明されたわけだが、彼らは(はたして)この盗聴行為を違法に行っていたのだろうか?それとも彼らはルーティンのなかでやっていたのか…あるいはその会話をアクシデントとしてキャッチしたのか?…といったことは我々には分らない。彼らは、フリン中将をターゲットに据えて盗聴してはいなかったが、ロシア側の政府上層部の会話をターゲティングして盗聴していた、とも述べている…その真偽のほどは分らないが…)
エイミー・グッドマン:
「Breitbart News」など(のメディア)を含むトランプ支持者のなかには、米国の諜報機関が、大統領に対する”ディープ・ステイト”によるクーデターを画策した─といって非難する者たちがいる。一方で、トランプに批判的な者のなかには、そうした活動を公然と支持する者たちが存在する。
The Weekly Standard誌の創業者で、著名な共和党アナリストであるビル・クリストルも、こんなツイッターを発した…、「明らかに、(この件では自分は)ノーマルで、民主主義的で、憲法に基づく政治というものを強く志向している。しかし、もしもそれがそういうポイントに達したなら、自分はトランプの国に対抗する”ディープ・ステイト“の方を贔屓したい」、と。
グレン・グリーンウォルド:
「ディープ・ステイト」という言葉には…詳細な、あるいは、科学的な定義などありはしないが、一般的にはワシントンの恒久的な権力の中枢の党派的勢力(faction)たちを指している。彼らは、たとえ選挙で選ばれる大統領が交代しても、変わることなくそこで権力を行使し続ける。彼らは、権力というものを概して闇のなかで秘密に行使しているがために、彼らの存在というものに民主主義制度上の信頼性が問われることは…もしもあったとしても、非常に稀なのだ。
それは、CIAとかNSA、その他の諜報機関のようなものを指しているが…それは、実質的に虚偽の情報を発する…詐欺やプロパガンダのための機関としてもくろまれた長い歴史を有する、というだけでなく、世界で最悪の戦争犯罪や、残虐行為、暗殺部隊などをもくろんだ長い歴史を持つものだ。こうした存在である彼らが、政治的にはそれに従属している筈の政権上層部から分離して力を行使するということや…実際にそうした存在に反抗する形で力を行使していくことには…ビル・クリストルなどの人物だけでなく、多くの民主党員も、彼らの信義の念を吐露して協力を誓いながら…喝采を送っている。
そして、あなたにとってこれは、単なるロシアに関する問題というわけではないのだ…。これは大統領選のキャンペーンの初期の頃にまで、ずっと戻って見直さねばならない事だが、そこには、諜報機関を率いるメンバーたちがいた─例えば、Mike Morellのような人物…彼はオバマ大統領の元でのCIAの現職長官だった。そして、Michael Hayden─彼は、ジョージ・ブッシュ政権下でCIAとNSAの両方に勤めていたが、ヒラリー・クリントンへの支持を非常にはっきりと公言していた。実際、選挙期間中にMike Morell はニューヨークタイムズ紙に、Michael Haydenはワシントン・ポストにヒラリーへの賛辞を投稿して、ドナルド・トランプはロシアに雇われた、とも述べていた。CIAと諜報機関は、最初からクリントンを熱烈に支持しており、トランプに熱烈には反対していた。そしてその理由とは、彼らがヒラリー・クリントンのポリシーを、トランプのそれよりは好んでいたからだった。
過去5年間におけるCIAの主要なポリシーの一つとは、シリアにおいて、アサド政権を政権交代させるために行う代理戦争だった。ヒラリー・クリントンは、単にそれだけでなく、オバマがシリアの戦争への米国の深入りを許さなかったことへの批判的立場に立ち、飛行禁止区域を設定して、ロシアにも対抗するよう主張した。ドナルド・トランプは、これとはまさに正反対の見解だった。彼は、我々はシリアの政権を誰がとろうとも、関知すべきではないともいった─我々はロシア人のやることを許すべきであり、そしてISISやアルカイダ、その他の敵を殲滅するために彼らへの助力さえ行うべきだ、と表明した。それゆえに、トランプのアジェンダとは、CIAが望むこととは完璧に正反対といえた。
クリントンのそれは、まさにCIAの望むものだった、それだから彼らは彼女を支援した。そしてそれゆえに、彼らは選挙期間中を通じて、何か月にもわたりトランプを弱体化させようとした。そして今、彼が選挙に勝利すると、彼らは、彼の弱体化を情報リークによって陰から狙うというよりも、アクティブに、彼の転覆を狙い始めた。彼らは彼に情報を渡さないようにしている、という訴えがある─彼らは、彼がそうした情報を手にするには値しない人物で、信頼にも値しない、と考えているからなのだ。彼らはその政策を実行するために彼ら自身を強化しているというわけだ。
今や私は、トランプが大統領の地位にある事は極度に危険だ、との考えを抱き始めている。あなたはニュースを見て─ニュース放送のなかで、その主要なトピックをみては、その事の理由を幾つも目にしているというわけだ。彼らは、環境を破壊しようとしている。彼らはセーフティ・ネットを解体しようとしている。彼らは億万長者たちを力づけようとしている。彼らはモスリムや、移民や、大勢の人間に対して頑迷なポリシーを実行したがっている。それに抵抗することは重要だ。そして、そこには多くの偉大な抵抗の手段もある…例えば彼らを抑え込むために、法廷に訴えるということだ、市民の抵抗運動などに…そして、最も重要なこととしては…民主党に、大統領選のすべてのレベルで彼らが崩壊してしまったそのあとで、彼らに自己批判を行わせて、いかに米国のもっと効果的な政治勢力となるべきなのかを自らに問いかけさせる、ということがある。それは現在、抵抗勢力がやっていることではない。その代わりに彼らがやっていることというのは、ドナルド・トランプよりもたちの悪い唯一の勢力の一派と、敵対しようとしていることだ…それが、つまりディープ・ステイト、CIAであり…その残虐行為の歴史だ…そして彼ら(ディープ・ステイト)というものは、殆ど、ソフト・クーデターを手掛けているのも同然な存在だ、という…そこでは、彼らは選挙で選ばれた大統領たちがその政策を実行することを阻んでいる、と。
そして自分が思うには、それをやることは非常に危険なことだ。もしもあなたが、一方でCIAとディープ・ステイトの両方が危険な存在だと信じて、その一方でトランプ政権というものも危険な存在だと、(私もそう信じているように)信じていようと、その両者には大きな違いが存在する…つまり、トランプは民主的に選ばれた者であり、(しょせん、)民主主義による統制支配の下にある(ちょうど司法機関もその事実をデモンストレーションして、メディアもそれを示し、市民たちもそれを示しているように)。しかしその一方で、CIAとは、人々によって選ばれた存在ではない。彼らは民主的なコントロールの対象では殆どありえないのだ。
そしてそれゆえに、CIAや諜報機関が自らを強化して、選挙で選ばれた政府の部門の弱体化を企むということは、狂気じみた行為だ。それは民主主義を、それを守るという口実のもとに、一夜にして破壊する処方箋なのだ。そして…それでもそれは…それがネオコンではなくても、民主党内の多くのネオコンの同盟者たちというものが、今や要求し、喝采していることだ。そして、彼らがそんなことをするのを見ていることは、信じがたいほどワープ(飛躍)した、危険なことだ。
エミー・グッドマン:
そして、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事によれば、今や諜報機関の担当者らは、トランプ大統領に情報を全て渡すことを避けている、何故ならば、彼らは、彼が何をするのかを心配しているからだと…他の国々の諜報機関もまた、トランプが情報を手にしたら何をするかわからない、とも懸念している─特にまた彼が、ロシアにいかなる情報を共有させるかを懸念している…のは勿論のことなのだ、という。
グレン・グリーンウォルド:
…ああそうだ、そもそも、まず最初に、ここにはメディアの問題がある─もしも、あなたがウォール・ストリート・ジャーナルの記事をみたなら、それは過去6か月間に、他の色々な目立ったロシアに関する記事というものと、ほとんど同じようなものだといえて…それらの多くは、完全に嘘だったことが証明されたわけだ。そうした記事というものは、匿名の政府職員たちが極端に曖昧な事を述べたことに基づいた記事だった。ウォール・ストリート・ジャーナルは、このようにさえ述べているのだ─「我々は誰がこれを行っているのかを知らない、情報を抑えているという事を。我々はどれほどの情報開示が抑えられていたかを知らない」。
2番目に、ドラルド・トランプがロシアの何らかのエージェントかスパイである、といった説…あるいは、彼がロシアに脅迫されていて機密情報をクレムリンに渡し、米国のエージェントを故意に危険にさらしている、といった考えというものは、考えられないほどにクレージーな言い分で─そんなことが真実であったと証明されたことは、一度もない。それは、私にグレン・ベック(*註・かつてのFOXの扇動的な看板キャスターだが今は引退している…)が、オバマに関してよく言っていた事を思い出させる…彼が黒板の前に立って、そうした不安定なチャートを…こうした、証拠のないワイルドな陰謀説のチャートというものを、しばしば描いていたようなことを。
我々はロシアが、民主党大会とジョン・ポデスタのEメールをハッキングしたとか、ドナルド・トランプとロシアとの間に不適切な繋がりがある、といった訴えについては─シリアスかつ、冷静に、しっかりした構成の捜査を行わねばならない。そして、それは公表されるべきであり、それによって我々が情報を知ることができなければならないのだ。しかし、メディアのもっているこのオブセッション(強迫観念)─それが誰であったにしても、誰かがドナルド・トランプとロシアについて彼らに囁いたなら、その情報をリークする、というオブセッション (なぜならば、彼らはそれが、彼らの記者たちに膨大な数のリツイートを発させて、それが、さらにまた…自分がまさに聞きたいと思っていた事を聞いたと思った人々による膨大なリツイートのトラフィックを発生させる…ことを知っているが故に)─というのは、まさに最悪のヒステリーに火を注ぐようなもので…そしてメディアは「彼らがそれと戦うつもりだと称している…」などといった偽ニュースさえも、生じさせている。こうしたことは、シリアスな捜査にだけ値するものであり、それは我々にとってまさに今、できていないことなのだ。
ナーミーン・シェイク:
ああ、あなたの同僚たちは、The Interceptに最近の記事を書いている、「実際に、こうした全ての「ナンセンス」な事柄に対して…、トランプが、大統領としての権力を用いて、それを直ちに明らかにしてくれたならば、良いだろうに…政府が傍受した、ロシアと彼の周囲の人間たちとの間のすべてのコミュニケーションに関する機密情報を開示させてくれたなら…」と。
そう…グレンさん、あなたはトランプはそれをすべきだと思うのか?
グレン・グリーンウォルド:
私が思うには、それは面白いポイントだろうという事だ─なぜなら、たとえばそこには色々な説があるのだ…フリン中将とロシアの外交官との会話や、こうした会話の記録(トランスクリプト)が何を反映しているようにみえるのか、といった事に関しては、しかし、未だに誰もその記録を見たものはいない。我々はその小さな断片の数々を目にしてはきたけれども。我々は全体の記録は、見ていないのだ。
そしてその記事を書いた私の同僚のJon Schwarzが、そうした機密を直ちに開示する力がトランプ大統領自身にある、といっていることは、絶対的に正しい。でも、そこにはそうした決断や、それが公表される可能性への見直しなどもまったく行われていない。
その一方で、過去4年間に私自身が(*エドワード・.スノーデンによる)機密情報のリークをめぐる論議の中心人物でもあった記者として、人々が、「大統領は今や、政府が行うことの可能な、最もセンシティブな情報の傍受を実行すべきだ」…などと言うことを聞いていると、それは、本当に異様なことに聞こえる…クレムリンの内部にいるロシア政府職員の会話を、どうやって盗聴するべきか、そして、それをすることが何の問題もないかのように、その盗聴で得た情報を公共の場にポンと投げ上げよう…といったような事を、人々が言うのを聞くのは。
私は、あなたは今やここでこの酷く不快な、ダブルスタンダードを目にしていると思う、つまり、対テロ戦争以来、機密情報とは聖なるもののように扱われて、それを漏洩する者は誰であろうが、裏切者(反逆者)、悪魔的な存在とみなされ、ごく長期にわたって収監されるべきであった、というなかで…今や、そうした機密情報がおもちゃのようなものに過ぎなくなったということ…もしもそれが何らかのアジェンダに役立つのならば、我々が面白がってそれを宙空に投げ上げたりしても何らの問題もないものになっているとは。そして、私が思うには、それがこの議論が進展するに伴って私をうんざりさせていることの一つなのだ…。
https://www.democracynow.org/2017/2/16/greenwald_empowering_the_deep_state_to
Saturday, February 25, 2017
Friday, February 10, 2017
トランプの点と点を繋ぐ Connecting Trump's dots By Thomas L. Friedman
トランプの点と点を繋ぐ Connecting Trump’s Dots
By Thomas L. Friedman (2017/2/8, NYタイムス)
大統領の振る舞いは、日に日にうれうべきものになっている。彼は、ある日は彼に挑戦した連邦判事を卑しめたかと思えば、その翌日には…証拠もなしに、メディアが不正投票のあった事や、テロ事件のあった事を隠蔽している、などといって告発する。彼が社会的な制度機構や真実に対する尊敬の念をもっていない、という事実が、瞬く間に吐き出される。あなたは、彼のこういった行為が、大人の誰にとってもいかにクレージーなことであるのか─もちろん、それが大統領だったにしても─を、忘れ始める。かくして、本当の危機が我々に訪れるその時には、物事の醜悪さが増していく。そして、トランプ大統領の支離滅裂な世界観のために、危機はこのようなストーリーと化していく。
いったいどのように?─つまり、今や世界は、かつてないほど相互依存しあった状態にあるのだ。市場のグローバリゼーションや、携帯電話の普及、テクノロジーやバイオロジーの加速的な発展、新たな大量移民の動きや、気候の崩壊というものが…互いに絡み合って相互に影響を及ぼしあっているのだ。その結果として我々は、そうした多くの点と点を繋いでそれらから得られるものを最大化しつつ、最悪の影響にはクッションを敷いて我々の行くべき航路を示してくれるような大統領を必要としている。
でも、トランプは点と点を悪用する人間であって、それらを繋ぐ人間ではない。彼は幾つもの無謀な、相互にきちんとした繋がりを持っていない約束をしたのだ…ツィート以上の長さをほとんどもたないようなものを…それを利用することで、大統領に選ばれようとして─そして、今や彼はそれらの一つ一つを照合チェックしている所だ…それら同士の繋がりを真に考える事もなしに、そして、それらが引き起こす二次的影響についての心配すらもせずに。
これは、アメリカを弱体化へと向かわせる…そして、過剰な背伸び(overstretched)へと向かわせる偉大なる道なのだ。
どこから話を始めよう?トランプは、貿易と安全保障に関しては、中国に対する強硬策を講じようとしている…それは、クレージーな考え方ではない。だが、彼はそれをどうやってやるというのか?私は、太平洋沿岸で中国を取り囲む交易国による同盟を組んで、それらの国々を─米国スタイルの法の秩序を守りながら、米国の知的所有権と製品市場にもより多くのアクセスを持って、米国流の価値観(すなわち、反中国的な価値観)を推進するような国々による貿易協定へと、加盟させたいと思っている。私はすなわちそれを、環太平洋貿易協定、略してTPPと称したい。
おお、ちょっと待ってほしい。バラク・オバマ大統領はそれをやった…しかしトランプが、就任第1日目にTPPをスクラップにしたのだ─彼はそれを、(私は、そう確信しているが)全く読みもせずに。今や、我々のアジア太平洋地域の同盟国経済が、中国の経済的支配とその貿易上の「ルール」の下で、さらに一層、凋落するだろうと信じられるすべての理由がある。それが果たして、賢明なことなのだろうか?
…ところでまた、メキシコの労働力というものは、なぜ米国のそれより安いのだろうか?その一つの理由とは、メキシコでは労働者の持つ権利が弱体で、そして環境基準も緩い、ということがある。…ちょっと一瞥してみよう、TPPがメキシコや他の署名国に対して、要求するだろうものとは何か?…それはつまり、それらの国々でも我々のそれと同様の、労働者の権利と、環境基準を導入させるということだろう。
その代わり─トランプはメキシコ移民を排除するために壁を作り、(メキシコに展開する)企業に向かって、米国に戻るように強いる。思い出してほしい…9/11の事件の後に、安全の確保のためにメキシコとカナダの国境の通過が厳しく制限されたことを?それは、米国内のいくつかの工場の組立ラインをシャットダウンさせた…たとえば、フォードなどの企業を…なぜなら、同社のサプライ・チェーンはメキシコとカナダに広がっているからだ。メキシコで、より一層、低コストの仕事が行われ、そして米国でそれが、より高付加価値の労働によって統合されて…それによってヨーロッパや日本、中国における、我々の自動車メーカーの価格競争が可能になるのだ。
それならば、9/11の後に米国とカナダ,メキシコは何をしたのか?セス・スタッダー(オバマ政権の国家安全保障省の副長官)はいう─彼らは北米地域の包括的な安全保障体制(emvelope)を創り上げたと。それゆえに、もしも、あなたが中東からメキシコか、トロントに飛んだなら、我々の国家安全保障局は多分、もうその事を知っているだろう、ということだ。
「9月11日以降、我々と我々のメキシコとカナダのパートナーたちは、北米圏での安全保障のために協力して、人とモノの我が国への流入に関する情報を共有し、互いのテロリスト・データベースによる情報の照合を行い、北米に入ろうとするバッド・アクター(テロリスト予備軍)を発見するために協働してきた」、とスタッダーは言った。もしも我々が壁を建設し、メキシコにその費用を払うように強いるならば、そのことは、我々に対する協力的な効果を、どれほどのあいだ維持してくれるのだろう?
そしてもしも、トランプが、こうした米国を本拠とする多国籍企業に対して、メキシコでの操業を米国に戻すよう強制したら、それはどんなことをもたらすのだろうか?それは、メキシコの経済的暴落をもたらして、より多くのメキシコ人に北へ向かうよう試みさせるかもしれず、米国の製造業者にとっての、コストを膨らませるだろう。彼らはどうするのか?工場を米国に移しても、コスト削減のために可能な限りのロボットを雇って人間の仕事を代替させるかもしれない。
国連はいま、6千5百万人という記録的な数の、家を追われた移民や難民たちが存在し、米国やヨーロッパのような安全な場所に入ろうと試みており、その多くは発展途上国から来た人であるのだ、という。なぜなのか?それは、内戦と国家の破綻、気候変動による圧迫(ストレス)や人口爆発といったもののミックスにその原因がある。トランプは、就任後の第一週に何をしたのか?気候温暖化の否定論者を重要ポストに指名して、家族計画のオプションとしての堕胎手術を行う健康関連グループへの米国政府補助金を禁じたのだ。
トランプは、ウラジミール・プーチンとパートナーとなって、シリアのISISを打倒したがっている─それは、価値のあるゴールだ。しかし、プーチンはISISの打倒を望んだことすらない。彼は、シリアの権力の座で虐殺を行う親ロシアの独裁者のために、シリアの民主主義の打倒を試み続けている。
それが、我々にとってのゴールでもあるというのか?そして、プーチンのシリアでの同盟者とは誰だろうか?イランと、ヒズボラ、そしてパキスタンやアフガニスタンから来たシーア派の民兵勢力だ。彼らは、我々の同盟者にもなるだろうか?─否だ。我々はイラクとシリアのスンニ派勢力を味方につける、とトランプは言う。本当か?しかし、彼はたった今、彼らの米国への入国を禁じたのだ。彼らはどうやって、我々に協力できるというのか?
そして、この入国禁止令は、それ以外の誰を排除し続けるのだろう?スティーブ・ジョブスを覚えているだろうか?彼の生物学的な父親はアブドルファタハ "ジョン" ジャンダリだ。彼は1950年代にアメリカに学生として渡ってきて、ウィスコンシン大学で学んだ─そして、彼の出身地とは…シリアのホムス(Homs)だった。
設問の(マスに)チェックだけを入れて、それらの繋がりをチェックしなければ、どんなに酷い混乱を生じさせうるのか…そのことを目にすると、実に驚くばかりだ。
https://www.nytimes.com/2017/02/08/opinion/connecting-trumps-dots.html
Sunday, February 5, 2017
保守派がぶつかった知的なクライシス The conservative intellectual crisis By David Brooks
保守派の知的なクライシス
The conservative intellectual crisis
By David Brooks (2016/10/29, NYタイムス)
振り返ってみれば、私にとって、1980年代と1990年代に自分が保守派の運動に加わったことは、とてもラッキーなことだったと思う。私は、National Review誌とワシントン・タイムス、そしてウォールストリート・ジャーナルの社説ページ担当として働いていた。我々の眼前にあるロール・モデルといえば、Bill Buckleyや Irving Kristol、James Q. Wilson、Russell Kirk、そして、Midge Decterといった人たちだった。
こうした人々は政治についての論評を書く以外に、その他の多くのことについても書いた─歴史や、文学、社会学、神学、人生(生活)全般に関しても。その時代には、保守派であること(それは、尊敬される事だった)と、共和党支持者であること(それは一種の安っぽくてちゃち[cheesy]なことのように見做された)の間には、くっきりした違いがあった。
彼らの多くは貧困のなかで育ち、そのことが彼らに、反・エリート主義のポーズをとる悪癖(今日の多くの保守派の人物がとるような)を手控えさせていた…とりわけ、彼らがもしもプリンストン大出身者(Ted Cruzもそうだが)だったり、コーネル大(Ann Coulterもそうだが)やダートマス大(Laura Ingraham や Dinesh D'Souzaもそうだが)出身者などだった場合に…。年かさの文筆家たちは、文化的・都会的な教養を持つことは、エリート主義の徴しではないことを知っていた。彼らは、文化的な教養というものを社会階層的上昇のツールとして用いた。T.S.エリオットはチープな存在であり、ソフィスティケート(洗練)された会話というものは無料で手に入った。
Bucklyの時代のエスタブリッシュ層というものは、自負心をもって知的・道徳的な行動基準を実践した。それは…新右翼(New right)と共に急に現れ出て、終末論的な論争をしたJohn Birch Societyのようなネイティヴィスト(Nativist)たちをはねつけたし、また、彼らはJoe Sobran(彼は正当にもNational Reviewを解雇された)のような陰謀論好きの反ユダヤ主義者たちなども追放した。 それ以来、保守派の知的な勢力図は、三つの重要な面において変化して行ったのだ…共和党の崩壊に向かう道筋を整えながら。
まず第一に、ラジオのトーク番組やケーブルTV、インターネットなどが、保守派の意見を大衆市場むけの事業へと変貌させていった。小規模な雑誌は、Rush Limbaughや、Bill O'Reilly、 Breitbartといった存在によって圧倒されてしまった。 今日の支配的な保守派の声は、何百万もの人々に向かってアピールしようとしている。あなたはマス・メディアを通じて、社会的な憤り(鬱憤)を利用し、永久的にヒステリーな、単細胞な論客たちによって注目を集めることができる。そうした、右翼がかった聴衆(例えばAnn Coulterが獲得しているような聴衆ら)を捜し求めて、保守主義は…教育に価値を置いたり、TV向けに作られた怒りなどを軽蔑する人々に対して攻撃的な姿勢をとることで、自らを最大限に活用しようとする。
自由市場を擁護・支持するような知的な傾向が、商業主義の力によって崩壊させられたのは皮肉なことだが…しかしそれは、本質的な真実なのだ。保守思想は金銭的な収入の増大を求めた挙句に、低所得者(大衆)向けの安物になってしまった。それは、それ自身の反知性主義的な、利己的なメディア政治家たちの複合体によって飲み込まれた─Glen BeckからSarah Palin…Trumpに至るような。それ故に、現在ではHillary Clintonは大学卒の白人層の間で52%対36%(註:このコラムの書かれた2016年10月の時点の世論調査)という数字で支持されている。
2番目に、保守派のご意見番たちは、何よりもまして政治に重点的価値を置き始めた。保守思想の真の本質とは、政治を限定的な活動とみる事なのだ、そしてその最も重要な領域とは、政治以前のもの─すなわち、良心や信仰、文化、家族やコミュニティといったものだ。しかし、最近の保守思想というものは…ますます、より一層、共和党の発言部門の如きものになっている。
上流社会の保守層のあいだでは─例えば、信仰の重要性というものも、しばしば、政治の次に回されて、聖書の記述の重要性も投票ガイドの記述に劣るものとなっている。今日では多くの白人エヴァンジェリカル(キリスト教原理主義者)たちが、トランプの政治的勝利によってキリスト教的な謙譲の美徳や、慈善の精神・嗜みといったものを進んで脇に押しのけがちになっている。Public Religion Research Instituteによる世論調査では、白人エヴァンジェリカルの72%が、プライベートな生活では非道徳的であっても、効果的な国のリーダーになれると信じている、という─それは、マタイによる教えよりも一層、マキアベリズム(功利主義)的なことだ。
保守思想が、一層プロパガンダ(宣伝)的になるにつれ、パルチザン的な運動はより一層その勢いを失い、創造力や影響力も失っていく。 そのことが、3つ目の大きな変化に繋がる。共和党の硬直的な、アンチ・政府主義的なレトリックによって目を覆われ、保守派たちは我々の時代にとっての中心的な社会問題を認識することが遅れ、それに関して主張を発することにはもっと出遅れていく。
長年にわたって、ミドルクラスやワーキング・クラスの米国人は、賃金の停滞や機会の欠乏、社会的孤立や、家庭制度の断片化に苦しめられてきた。レーガン時代の古びた考え方に隠蔽され、保守思想はこうした人々に提示できるものを、何一つ持たなくなった…なぜならそれは政府というものを、社会の利益(善)のために利用する、という考え方を信じなかったからだ。そして、トランプのデマゴーグがその空隙を埋めた。
これは、悲しい筋書きといえる。しかし私は告白する…私は保守思想のリバウンド(回復)には気の触れるぐらいに楽観的なのだ。それはなぜなら、かつて文筆家Yuval Levingが書いたことのせいだ─「殆どの気の触れた進歩主義者たちというものは若く、殆どの気の触れた保守主義者たちというのは、年寄りだ。」保守思想とは今や、その老人たちによって、あるべき道から逸れている、しかし、その若者層とは、かなり偉大な存在だ。若いエヴァンジェリカルたちの間でドナルド・トランプが好きな者を見つけるのは難しい。殆どの若い保守層は民族的な多様性を好み、Fox Newsのメディア政治家の複合体には懐疑的だ。保守派たちの最良のアイディアといえば、(トランプからは全く無視されたような)野心的な政府のアジェンダの案を創造する、若々しい改革主義者のアイコンたち(youngish reformicons)たちからくるものだ。
トランプの敗退は多くの悪しき構造を洗い流して、新たな成長への立脚点を開くことだろう。私がかつての時代に若い保守派だったことは素晴らしい事だった。そして、たった今その一人になることは、偉大な事だ。
https://www.nytimes.com/2016/10/28/opinion/the-conservative-intellectual-crisis.html
By David Brooks (2016/10/29, NYタイムス)
振り返ってみれば、私にとって、1980年代と1990年代に自分が保守派の運動に加わったことは、とてもラッキーなことだったと思う。私は、National Review誌とワシントン・タイムス、そしてウォールストリート・ジャーナルの社説ページ担当として働いていた。我々の眼前にあるロール・モデルといえば、Bill Buckleyや Irving Kristol、James Q. Wilson、Russell Kirk、そして、Midge Decterといった人たちだった。
こうした人々は政治についての論評を書く以外に、その他の多くのことについても書いた─歴史や、文学、社会学、神学、人生(生活)全般に関しても。その時代には、保守派であること(それは、尊敬される事だった)と、共和党支持者であること(それは一種の安っぽくてちゃち[cheesy]なことのように見做された)の間には、くっきりした違いがあった。
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| William F.Buckley in his NYC office in 1980 |
こうした文筆家たちは、しばしば都会のリベラル主義者たちの間に住みながら、リベラルな思想や、リベラル主義の偏狭さに対する疑念を保ち続けていた。Buckleyのような人々は、あらゆる思想的傾向の友人らと付き合いながら、敵対的な雰囲気のなかで一層、シャープに研ぎ澄まされていた。彼らとは、一種のエスタブリッシュメントの裏と表であり、その両者の言葉を使って話すことが出来た。
Bucklyの時代のエスタブリッシュ層というものは、自負心をもって知的・道徳的な行動基準を実践した。それは…新右翼(New right)と共に急に現れ出て、終末論的な論争をしたJohn Birch Societyのようなネイティヴィスト(Nativist)たちをはねつけたし、また、彼らはJoe Sobran(彼は正当にもNational Reviewを解雇された)のような陰謀論好きの反ユダヤ主義者たちなども追放した。 それ以来、保守派の知的な勢力図は、三つの重要な面において変化して行ったのだ…共和党の崩壊に向かう道筋を整えながら。
まず第一に、ラジオのトーク番組やケーブルTV、インターネットなどが、保守派の意見を大衆市場むけの事業へと変貌させていった。小規模な雑誌は、Rush Limbaughや、Bill O'Reilly、 Breitbartといった存在によって圧倒されてしまった。 今日の支配的な保守派の声は、何百万もの人々に向かってアピールしようとしている。あなたはマス・メディアを通じて、社会的な憤り(鬱憤)を利用し、永久的にヒステリーな、単細胞な論客たちによって注目を集めることができる。そうした、右翼がかった聴衆(例えばAnn Coulterが獲得しているような聴衆ら)を捜し求めて、保守主義は…教育に価値を置いたり、TV向けに作られた怒りなどを軽蔑する人々に対して攻撃的な姿勢をとることで、自らを最大限に活用しようとする。
自由市場を擁護・支持するような知的な傾向が、商業主義の力によって崩壊させられたのは皮肉なことだが…しかしそれは、本質的な真実なのだ。保守思想は金銭的な収入の増大を求めた挙句に、低所得者(大衆)向けの安物になってしまった。それは、それ自身の反知性主義的な、利己的なメディア政治家たちの複合体によって飲み込まれた─Glen BeckからSarah Palin…Trumpに至るような。それ故に、現在ではHillary Clintonは大学卒の白人層の間で52%対36%(註:このコラムの書かれた2016年10月の時点の世論調査)という数字で支持されている。
2番目に、保守派のご意見番たちは、何よりもまして政治に重点的価値を置き始めた。保守思想の真の本質とは、政治を限定的な活動とみる事なのだ、そしてその最も重要な領域とは、政治以前のもの─すなわち、良心や信仰、文化、家族やコミュニティといったものだ。しかし、最近の保守思想というものは…ますます、より一層、共和党の発言部門の如きものになっている。
上流社会の保守層のあいだでは─例えば、信仰の重要性というものも、しばしば、政治の次に回されて、聖書の記述の重要性も投票ガイドの記述に劣るものとなっている。今日では多くの白人エヴァンジェリカル(キリスト教原理主義者)たちが、トランプの政治的勝利によってキリスト教的な謙譲の美徳や、慈善の精神・嗜みといったものを進んで脇に押しのけがちになっている。Public Religion Research Instituteによる世論調査では、白人エヴァンジェリカルの72%が、プライベートな生活では非道徳的であっても、効果的な国のリーダーになれると信じている、という─それは、マタイによる教えよりも一層、マキアベリズム(功利主義)的なことだ。
保守思想が、一層プロパガンダ(宣伝)的になるにつれ、パルチザン的な運動はより一層その勢いを失い、創造力や影響力も失っていく。 そのことが、3つ目の大きな変化に繋がる。共和党の硬直的な、アンチ・政府主義的なレトリックによって目を覆われ、保守派たちは我々の時代にとっての中心的な社会問題を認識することが遅れ、それに関して主張を発することにはもっと出遅れていく。
長年にわたって、ミドルクラスやワーキング・クラスの米国人は、賃金の停滞や機会の欠乏、社会的孤立や、家庭制度の断片化に苦しめられてきた。レーガン時代の古びた考え方に隠蔽され、保守思想はこうした人々に提示できるものを、何一つ持たなくなった…なぜならそれは政府というものを、社会の利益(善)のために利用する、という考え方を信じなかったからだ。そして、トランプのデマゴーグがその空隙を埋めた。
これは、悲しい筋書きといえる。しかし私は告白する…私は保守思想のリバウンド(回復)には気の触れるぐらいに楽観的なのだ。それはなぜなら、かつて文筆家Yuval Levingが書いたことのせいだ─「殆どの気の触れた進歩主義者たちというものは若く、殆どの気の触れた保守主義者たちというのは、年寄りだ。」保守思想とは今や、その老人たちによって、あるべき道から逸れている、しかし、その若者層とは、かなり偉大な存在だ。若いエヴァンジェリカルたちの間でドナルド・トランプが好きな者を見つけるのは難しい。殆どの若い保守層は民族的な多様性を好み、Fox Newsのメディア政治家の複合体には懐疑的だ。保守派たちの最良のアイディアといえば、(トランプからは全く無視されたような)野心的な政府のアジェンダの案を創造する、若々しい改革主義者のアイコンたち(youngish reformicons)たちからくるものだ。
トランプの敗退は多くの悪しき構造を洗い流して、新たな成長への立脚点を開くことだろう。私がかつての時代に若い保守派だったことは素晴らしい事だった。そして、たった今その一人になることは、偉大な事だ。
https://www.nytimes.com/2016/10/28/opinion/the-conservative-intellectual-crisis.html
*NYタイムズでは’73年以来、Watergate事件の頃から筆を振るった花形の保守派コラムニストWIlliam Saffireが、保守派が推進しイラク戦争の開戦を招いた誤情報などへの懐疑の高まった2005年に引退
─Saffireに代わり、同紙のEditorial Boardが「主力のリベラルの読者層にも受け入れられる」保守派ライターとして抜擢したというDavid brooksは、元々、ネオコンのWeekly Standardなどにもいたが、政治、社会学、心理学、教育や文化など幅広いコラムで人気のコラムニストになっている
Friday, January 13, 2017
オバマ、“トランプ後“に向けて政治活動を一新するObama retools his political operation for post-Trump
Obama retools his political operation for post-Trump
オバマ、“トランプ後“に向けてその政治活動を一新する
─彼は、彼の財団と政治グループ”Organizing for Action”を、
自らのレガシーの救済と民主党の再建のためにもちいる─
By Edward-Isaac Dovere 2017/1/09 (Politico.com)
バラク・オバマは、大統領退任後の時のすべてを割いて、対トランプの活動にばかりかまけていたくはないが─彼は自ら、それがどんなものであるべきかに関する、彼自身のビジョンを抱いている。
トランプによる勝利が、オバマの目指していた退任後の生涯にわたるプランを転覆させてしまったなかで、彼と話をしている人々は、元・大統領としての彼が後任の大統領に対する批判を控えるべきである…とされる伝統をいかに守るべきかを静かにみつめ、そうした態度を選ぼうとしているのだと話す。そして彼は、同時に自らの遺したレガシーをいかに救い出しつつ自らの党を再建するべきかの最善策をも考えようとしている、と。
「彼の思い描く彼自身の役割についての見方とは─バラク・オバマとしてそこで激烈なスピーチを発し続けたり、運動やデモの先頭に立ったりするようなものではなくなる…しかし、彼は次なるリーダーたちの世代を力づけて浮上させる役を果たしたいと願っている」と─彼のホワイト・ハウスのコミュニケーション・ディレクターを務め、2度の大統領選キャンペーンのメンバーでもあったジェン・サキJen Psakiは言う。
元・側近たちはすでにオバマの選挙戦の構造のなかから生まれ出た組織Organizing for Actionの再強化に、手を付けている。その組織とはもはや、ホワイト・ハウスのオバマのアジェンダの支持組織としてではなく─トランプの勝利とヒラリーの敗北に貢献したいくつかの要因によって再度、その形を修正するよう強いられながらも、活動家や候補者のリクルート活動の枢軸となろうとしている。
過去2か月、OFAはほとんど沈黙を守り、オフィシャルな声明を何ら発してこなかったが、そのシカゴの本拠では新たに組織のメンバーを雇い始めている─その中には過去の選挙キャンペーンにおける古株の側近らも含まれ、オバマ流スタイルの説得プログラムの実践や、様々なデータの統合、有給の戸別訪問による遊説活動などの政治キャンペーンのメカニズムにフォーカスする計画を持つ。その最初の目標とは全米でのワークショップ開催だが、すでにそこでは未来の候補者を支援していこうとの議論がなされている。
そしてオバマは、いくつかの政治課題に焦点を当てている─それらは、彼を直接引き出す可能性がある: 例えば、トランプが提唱する米国内のムスリム排斥追放のポリシー(彼はそれが実施されるのはまだ少し先だとみているが)。そしてまた、Dreamerという名称で知られる子供たち(…すなわち、未成年で不法移民の親に米国に連れてこられ…それ以来、米国に居住している若者層…)に対して彼が開始した保護法が後退させられる可能性も懸念する。
オバマは最近の私的な会合のなかで幾度もこう言ったと…会合に出席していた人々が述べる─「もしも、彼(トランプ)が何千人もの子供たちを国外追放にしたなら…」、「自分は脇に控えている状態に甘んじているかどうかは分らない」─と。
そしてまた(オバマが動き出しかねない事柄の)潜在的なリストには、これらがある─「トランプに突き動かされた、イランとの核開発交渉やパリの温暖化対策協定の無効化、あるいは、オバマケアの形態の廃止や改変…といったことが。
「それが─この国の国民である我々がどんな人々であるべきかの宣言(ステートメント)にも関わるレベルへと達して、彼(オバマ)にとって重要なレベルにまで達したなら─状況によっては彼はものを言いはじめることだろう」と、オバマの辞任後の考えに詳しい人々の一人が述べる。「しかしまた…それがいかに定義されて解釈が押し広げられようとも、民主党員としてのあるいは、進歩的なリーダーとしての次世代のステップ・アップと政治的な戦いの時とは今なのだ」。
だが、オバマと彼のアドバイザーたちはオバマVsトランプという対立のコンスタントなダイナミズムばかりに注目する見方を避ける。 オバマのプランに関して会話をした人々の一人はこう語る、「彼に近しい人々は、彼のレガシーというものが、必ずしも彼がトランプに対してどのように返答するか─で定義されて欲しくないとも考えている」。 「彼は、次なる人物や、次なるグループに立ち上がって欲しいと考えている…もしも彼が、左翼の吸い込むべき酸素をすべて吸いまくってしまったなら、それは起こりえない…とも考えている」。
オバマは、ジョージ・W・ブッシュのようにはならない─彼のように実質的に完全な隠居状態には。しかし、彼は、ビル・クリントンのように…常に選挙戦の前面に出る状態にもならないだろう。
退任後のオバマが政治と関わる部分は─そのプランに詳しい人々によれば─4つの主なカテゴリーに集約されるという:その一つは、刷新されるOFAの活動で、またシカゴを本拠とする彼の財団の一部による非党派的な草の根政治活動の訓練センターの活動、また前・司法長官Eric Holder が運営するNational Democratic Redistricting Committee(全米民主党選挙区再編成委員会)による活動、そして前・大統領としての彼の個人的なキャパシティを活かして(候補者や政策への)支持(endorsement)、候補者の選挙運動や資金集めをする活動などだ。
彼は、今後、登場してくる候補者たちへのメンタリング(指導教育)についても語っている─2020年の大統領選に形を与えて、それを補助する公式なプランへの言及はないが。 多くの民主党員はオバマが最前面に立つ役割を担うことを願っているが、少なくとも、2017年と18年の中間選挙における彼の活動は「限定的なもの」となるのはほぼ確実だ。
彼と話をしている者たちのなかの数人が、2020年の民主党大会において彼が演説してほしい、との願いを述べたが、彼らもそれまでの期間に彼が政治的表舞台に出るという可能性は、余り信じていない。
おそらく彼は、来年の早い時期から、(回想録などの)著書に関するプロモーション・ツアーを行う可能性もある─「オバマは、辞任後の1年間を執筆で過ごすと予想されるからだ」。「その場合も、彼の声とは彼自身の発する声となるとは限らない」、「それは適切な人々を適所に配置することついてのものになるだろう」…とPsakiは言う。
http://www.politico.com/story/2017/01/obama-legacy-democrats-retool-233337?cmpid=sf
Saturday, October 22, 2016
ミシェル・オバマ、ドナルド・トランプに説教す Michelle Schools Donald Trump-By Maureen Dowd
ミシェル、ドナルド・トランプに説教す
By モーリーン・ダウド (2016/10/15、NYタイムズ)
アニタ・ヒル(*1)は、彼女の戦いに敗北した。
そして、彼女に対して変態じみた振舞いを働いた気持ちの悪い男が、戦いに勝利したのだ。
セクシャル・ハラスメントの問題が爆発して全米的な注目を浴びたのは、25年前のことだ─それは、ワシントンのマッチョ主義のシンボルである…ベトナム戦没者モニュメントの影のもとで、男性が優越支配している下院議会において爆発した。
政治の表舞台で、そこまで下品さの極まる、性的に露骨な言葉づかいというものは、いまだかつて聴かれたことがなかった…それは、まるでアメリカ人の深層心理の最もセンシティブな部分へと削岩機が掘り進んで、到達したかのようだった。
1991年の、その精神的なトラウマの元となった一週間は…セクシャル・ハラスメントについて教える際の重要なチュートリアル(教材)ともみなされている。だが。そうした事実を除くなら─最後には、“領主の権利”(droit du seigneur)というものが容認された。クラレンス・トーマス(*2)は脅しに屈した上院司法委員会によって報奨をうけ、最高裁の終身判事の職を得たのだ。
トーマスへの反対票を投じる女性はいなかった─なぜなら、委員会には女性が皆無だったからだ。委員会のメンバーとは、白人の中年男性ばかりだった…彼らの多くが、ヒルとトーマスの間には何らかの合意に基づく関係があったのに違いない…などと信じながら議場を後にした。
─そのこと以外に、彼女が自分のストーリーを語るべく、何十年ものあいだ待ち続けた理由など、あっただろうか?
─そのこと以外に、トーマスが病的な好色さを見せたそのときに…あるいは少なくとも…さらなる新政権において彼が、再び司法長官の座に就任しよう…とした時にすら、彼女が彼に付き従うのをやめて辞任しなかったことの、理由があるだろうか?
男性の性的な優越性 [male entitlement]とは、男性の性的な優越性[male entitlement]に関して推し測る能力はあるが…しかし、それは女性たちが、様々な仕方で所有財産のような扱いをうけ続けて、彼女たちがそれらの恥ずべき扱いに対抗し…食い止め…克服するために、様々な方法でリアクションを起こしている…ということを推し測る能力を持たないものだ。
いまや、我々は政治の表舞台で展開される、未だかつてない俗悪さと、性的に露骨な言葉遣いのスライム粘液の、更なる一週間に浸されている。女性たちが大挙してマイクロフォンの元に名乗り出て、その気味の悪い男が彼女らに働いた変態的な行為について語っている。
だが今回、女性たちには投票権がある。トーマスはより大きな仕事を得るために戦いに勝ったかもしれないが、ドナルド・トランプは負ける。彼に関して申し立てられている逸脱行為は、女性たちをヒラリー支持へと奮い立たせた…自らの選挙キャンペーンで、ヒラリー自身にはなしえなかったような方法で。
ヒラリーには、男性が働いた性的に淫らな行為に対しては不器用な弱みがある。しかし、ミシェル・オバマは…アニタ・ヒルも決してやらなかったような方法で、報復の天使としてそこに踏み込んだ。木曜日の、ヒラリー支持者たちのキャンペーン集会で、彼女の声は嫌悪感に震えていた…ファースト・レディーは、トランプの(彼女はそこで…親切にも彼を名指しせずに済ませてやったが…)その「残酷」、かつ、「ぞっとするような」行為が、「ロッカールームの会話」だとか、「バッド・ドリーム(悪しき夢)」などといった言葉ではなぜ、済まされないのかを説明した。
「それは、恐怖(terror)の感覚、余りにも多くの女性たちが、誰かに体を摑まれたときに感じた暴行の感覚、あるいはその男が、彼自身を彼女の上に覆いかぶせて、そして…彼女らがノーといったにも関わらず、彼がそれをきかなかったときの感覚なのだ」、と彼女は言った、「それは我々が、母親や祖母らから聞かされていた話を思い出させる…彼女たちの時代には、オフィスではボスたちが何でも言える権利を持ち、オフィスの女性たちは彼の喜ぶことならば何でもさせられた…といった話を」。
この話は、私に私の母のことを思い起こさせた─母は20代の頃にはワシントンの証券会社で働いていたが…クリスマス・パーティーの席では、重役たちが恒例のように若い女性を呼び寄せては膝の上に乗せていた…といった話を。
もちろん、ミシェルによるこの奮起させるようなメッセージは─彼女の夫が、好色なビル・クリントンをホワイトハウスに呼び戻すことを先導している、という事実によって、何となくその価値を削り落とされてしまう。
トランプ・ファミリーが、セクシャル・ハラスメントに関する理解を欠くという事実は…ドナルド・ジュニア(Don Jr)が2013年に、このトピックについて尋ねられたラジオ・インタビューにおいて、こう答えたことでも明らかだ─「もしもあなたが、今日の企業労働者たちにとって、問題を生じかねないような基本的事柄を自らの手中でコントロールできないのなら、あなたは彼らの一員にはなれない」。彼は、そのとき、こうもツイートしていた、「もしも、あなたがその夜の状況においては@mark_mcgrath(*イケメン俳優の名前)のようにみえたならば…あなたもまた、誰よりも酷いやり方で他人にセクシャル・ハラスメントを働いている、というわけだ。人事課の規則など適用されはしない。ハハハ…」。
その、威張りちらす70歳の共和党指名候補者というのは、常に1959年の時代にタイムワープすることに捉われているようだ─まるで、ラス・ベガスのサウナ・ルームで、フランク・シナトラに向かって、「broads(“若い娘”)」だとか、「”スカート”」とかについての自慢話を吐きまくるみたいに。…だが、性的暴行に関する大量の告発や、逸脱行為のキス、ビューティー・コンテストの更衣室で脱衣中の女性やティーンエージャーたちを驚かせたという行為、ハワード・スターン(TV司会者)に対して…23歳のイヴァンカが「ただの糞(a piece of ass)」だった、などと認めたこと…は、洞窟に棲む男というもののイメージに、さらに胸の悪くなるような一面をつけ加えた。
トランプは、大統領候補者間の2度目のディベートの場に、ビル・クリントンの告発者らを連れていくような矛盾を冒すことはなかった… だが…ヒラリーが悪辣な態度で彼らの信用性を損ねたことは、批判されるべきだと述べた─彼もまた、自分の側のクリントン告発者たちからの信頼性を、酷く損なう行為を行いながら。
5thアヴェニューの城に閉じ込もった、気の触れた王が、企業やメディアのエリートが彼に対してもくろんでいる…というグローバルな陰謀に憤りをぶつけている…そうだ、ウエスト・パームビーチの支持集会では、ナチスのカギ十字のサインだって飛び出した…彼の反論がいかに不快なものかを、彼自身は気づいてもいない─彼を(性的暴行で)告発している女性たちは、襲うに足るほど魅力的でなかった─などと、彼が言うような時に。
トランプの第一子の誕生と、妊娠中のメラニア(夫人)に関するエピソードをMar-a-Lagoで執筆していた際に、トランプに襲われそうになったという、People誌のライター、ナターシャ・ストイノフに関して─その権力者は、ウエスト・パームビーチの聴衆に、こう言ったのだ、「見てみろよ…おい、君ら、見てみるがいい。彼女を見てみろ…彼女の言葉と比べてみろよ。君らがどう思うのかを、俺に聞かせろよ…俺は、そうは思わないぞ。」
ノースカロライナ州のグリーンズボロで、彼は… 30年前に、航空機内でトランプが性的に淫らな「蛸」のように振る舞った…とNYタイムズに話した、ジェシカ・リーズについて語った。「俺を信じろ。彼女はおれの一番の好みなんかじゃない…。それが、俺がお前に言えることだぞ」─聴衆は笑った。
その集会で、彼はヒラリーをも下品な笑いものにした─「俺が自分の演説台に立っているときに、彼女が俺の前を通る…そうだ、彼女が俺の前を横切るんだ。そして、彼女が俺の前を横切るときには…俺を信じろ、俺はまったく 何もインプレッションを受けちゃいないぞ。」
トランプは気づいていないかのようだが─彼が彼の弁護士を使って…二人の女性が彼を暴行した、というエピソードを掲載したNYタイムズを告訴する、と脅したとき─彼はすでに、それ以前にその件は自分で告白していたのだ─タイムズの尊敬すべき弁護士・デヴィッド・マクロウはこう反論した、「我々の記事とは、トランプ氏がすでに…彼みずからの言葉と行動を通じて彼自身のためにうちたてた名声に対しては、微塵の影響力も持っていない。」 http://www.nytimes.com/2016/10/16/opinion/sunday/michelle-schools-donald-trump.html?_r=0&mtrref=query.nytimes.com&gwh=DFC3A82357B2538173E1571D2950C5C8&gwt=pay&assetType=opinion
(*1) アニタ・ヒル:黒人女性弁護士、法学教授。1991年に教育省に在職中に上司のクラレンス・トーマスを職場でのセクシャル・ハラスメントで告訴し全米の注目を集めた。
(*2) クラレンス・トーマス:父ジョージ・ブッシュ大統領に指名され、’91年に合衆国最高裁首席判事に就任、現職。
★動画:キャンペーン集会でのミシェルのスピーチ
Michelle Obama's EPIC Speech On Trump's Sexual Behavior (FULL | HD)
https://www.youtube.com/watch?v=r7e3QKKOp50
★参考記事
連邦最高裁裁判官、クラレンス・トーマス
http://blog.livedoor.jp/mediaterrace/archives/12589174.html
アニタ・ヒル事件、19年目の後日談とは?
http://cache.yahoofs.jp/search/cache?c=zOt-A2VYf6wJ&p=%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%AC%E3%82%93%E3%81%99%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%B9&u=www.newsweekjapan.jp%2Freizei%2F2010%2F10%2Fpost-213.php
ミシェル・オバマの正統的パワー (Byフランク・ブルーニ)
The Authentic Power of Michelle Obama By Frank Bruni (2016/10/15, NYタイムズ)
レイシズムを不当な取引の材料につかい、女性差別主義を推し進め…バラク・オバマの出生の地についての嘘も、政治的な気運を得る梃子にもちいる…といった手段をあれこれ駆使した後に、ドナルド・トランプが止めの一発のデス・ブロウというものを…黒人女性、つまり大統領の妻から食らうとしたら、美味しすぎるのではないか?
それは、トランプが体現している唯一無二の脅威に対して、彼女が最も獰猛極まる対抗者として現れた…というこの状況のすべてに言えることだ─つまり、それはオクトパス・キラーのミシェル・オバマだ─彼女には威力がある、その理由とはすなわち─彼女が今まで、一度も戦いに挑んだことがなかったからなのだろうか?我々は、それが彼女であることを知っている。彼女は何か擁護すべきものがある場合にだけ、行動に出る。そして先週の末に彼女が、感動的で焼け焦げるようなスピーチを通して擁護したものとは─トランプの勝利によってそれが台無しにされかねない、彼女の夫のレガシーより以上のもの…つまり、それは彼女の女性としての尊厳であり、すべての女性の尊厳というものなのだ。
私は、彼女のインパクトを買いかぶるつもりなどない─トランプは、彼女が非難の嵐に加わる以前から、その勢いを喪失しつつあった。しかし彼女の雄弁さは、その取引を確実なものとして固めたのだ。最初に彼女は、7月中の木曜日にニューハンプシャーの民主党大会で…彼女が全米の良心を体現していると自ら称して、我々の最も重要な価値観のもっとも誠実な擁護者だ、とも自ら宣言していることの裏付けを得る賭けに出た。
ヒラリー・クリントンには、その役は勤まらない。彼女は余りにも多くの混乱した妥協を行い、そして余りにもしばしば、ロココ調の計算も行ってきた。ハッカーによって暴露されたジョン・ポデスタ(*)の電子メールの示唆するものとは、クリントンに関する噂を広範囲に囁く者たちの委員会が、その賢明な刀を一振りしない限り…彼女は瞬きすらもしない、という事なのだ。
(*)ヒラリー・クリントンの現・選挙参謀長、ビル・クリントン政権では大統領首席補佐官を務めた。
バラク・オバマにも、その役は勤まらない─現今の状況のもとで、ちょうど今の彼の気分からいって、そうなのだ。先週、オハイオ州での演説のなかで、彼は有権者たちに対して、主にこう訴えた─単にトランプを拒絶するよりも、共和党全体に罰を与えよ、と…そして、党の骨折りが報われるという歓喜を保証した─だから俺が言っただろう、といった調子で。
彼は共和党というものを「幾度も、幾度も、幾度も…栄養補給が施され続けてきた、気のふれた人間のたまり場」であると、激しく非難した。彼は彼らに対して─トランプというのは、あなたのアジェンダが「嘘に立脚しており、はったりの上に成り立っているとき」に、指名を受ける人物だとも言った。彼は、単に米国の未来の安全というものを守っているだけではなく…彼が行ったレベンジをも暴露していた。
ミシェル・オバマもまた、おそらく、彼女の夫(と彼女)がくぐり抜けてきた最悪の事柄へのレベンジを行いたいのだろうが…しかし、彼女の言葉の中にそれはなかった。
その主な理由とは、つまり、彼女は政治家ではない、ということの贅沢を享受していたのだ。彼女は、何に対しても立候補するつもりなどない。彼女は多くの事柄に影響力を揮おうとはしてこなかったし、意見の異なる有権者たちには潜在的に距離を置くか、あるいは、そうした者たちの前面にだけ放った矢で、武器を使い尽くして済ませてきた─あなたには、支持率というもののアップへの関心があるのだろうか?それならば大統領のオフィスを出るか、あるいは、最初からそこには踏み込まないほうがいい。
だが、そんな状況にあっても彼女は、さらに才能に磨きをかけてきたというわけだろうか?ワシントンでは、ちょっと珍しいことなのだが。さもしい根性の蔓延している状況の向こうを張って、彼女と、彼女のスピーチライターたちは、よくある非難の言葉や様々な恨みつらみの羅列に代わる…含蓄に富んだ、魂のこもった演説を楽々と行ってみせた。私は、彼女の党大会演説のなかのゴージャスな一節というものを思い起こす─ワシントンに移住して以来、黒人の奴隷たちの手によって築かれたホワイトハウスで、彼女の娘が目を覚ますのを、毎朝、その目でみてきた、という一節を。その描写は、アメリカが犯した罪への戒めでもあると同時に、この国が遂げてきた進歩というものへの感謝と称賛と、祝福の念にも溢れていた。それは、政治や政治家たちには滅多にできないことなのだ─すなわち、複雑で議論の余地のない真実というものの描写だ。
http://www.nytimes.com/2016/10/16/opinion/sunday/the-authentic-power-of-michelle-obama.html
By モーリーン・ダウド (2016/10/15、NYタイムズ)
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| 木曜日に、ミシェル・オバマは、ヒラリー・クリントンのための 選挙戦で、報復の天使を演じた |
そして、彼女に対して変態じみた振舞いを働いた気持ちの悪い男が、戦いに勝利したのだ。
セクシャル・ハラスメントの問題が爆発して全米的な注目を浴びたのは、25年前のことだ─それは、ワシントンのマッチョ主義のシンボルである…ベトナム戦没者モニュメントの影のもとで、男性が優越支配している下院議会において爆発した。
政治の表舞台で、そこまで下品さの極まる、性的に露骨な言葉づかいというものは、いまだかつて聴かれたことがなかった…それは、まるでアメリカ人の深層心理の最もセンシティブな部分へと削岩機が掘り進んで、到達したかのようだった。
1991年の、その精神的なトラウマの元となった一週間は…セクシャル・ハラスメントについて教える際の重要なチュートリアル(教材)ともみなされている。だが。そうした事実を除くなら─最後には、“領主の権利”(droit du seigneur)というものが容認された。クラレンス・トーマス(*2)は脅しに屈した上院司法委員会によって報奨をうけ、最高裁の終身判事の職を得たのだ。
トーマスへの反対票を投じる女性はいなかった─なぜなら、委員会には女性が皆無だったからだ。委員会のメンバーとは、白人の中年男性ばかりだった…彼らの多くが、ヒルとトーマスの間には何らかの合意に基づく関係があったのに違いない…などと信じながら議場を後にした。
─そのこと以外に、彼女が自分のストーリーを語るべく、何十年ものあいだ待ち続けた理由など、あっただろうか?
─そのこと以外に、トーマスが病的な好色さを見せたそのときに…あるいは少なくとも…さらなる新政権において彼が、再び司法長官の座に就任しよう…とした時にすら、彼女が彼に付き従うのをやめて辞任しなかったことの、理由があるだろうか?
男性の性的な優越性 [male entitlement]とは、男性の性的な優越性[male entitlement]に関して推し測る能力はあるが…しかし、それは女性たちが、様々な仕方で所有財産のような扱いをうけ続けて、彼女たちがそれらの恥ずべき扱いに対抗し…食い止め…克服するために、様々な方法でリアクションを起こしている…ということを推し測る能力を持たないものだ。
いまや、我々は政治の表舞台で展開される、未だかつてない俗悪さと、性的に露骨な言葉遣いのスライム粘液の、更なる一週間に浸されている。女性たちが大挙してマイクロフォンの元に名乗り出て、その気味の悪い男が彼女らに働いた変態的な行為について語っている。
だが今回、女性たちには投票権がある。トーマスはより大きな仕事を得るために戦いに勝ったかもしれないが、ドナルド・トランプは負ける。彼に関して申し立てられている逸脱行為は、女性たちをヒラリー支持へと奮い立たせた…自らの選挙キャンペーンで、ヒラリー自身にはなしえなかったような方法で。
ヒラリーには、男性が働いた性的に淫らな行為に対しては不器用な弱みがある。しかし、ミシェル・オバマは…アニタ・ヒルも決してやらなかったような方法で、報復の天使としてそこに踏み込んだ。木曜日の、ヒラリー支持者たちのキャンペーン集会で、彼女の声は嫌悪感に震えていた…ファースト・レディーは、トランプの(彼女はそこで…親切にも彼を名指しせずに済ませてやったが…)その「残酷」、かつ、「ぞっとするような」行為が、「ロッカールームの会話」だとか、「バッド・ドリーム(悪しき夢)」などといった言葉ではなぜ、済まされないのかを説明した。
「それは、恐怖(terror)の感覚、余りにも多くの女性たちが、誰かに体を摑まれたときに感じた暴行の感覚、あるいはその男が、彼自身を彼女の上に覆いかぶせて、そして…彼女らがノーといったにも関わらず、彼がそれをきかなかったときの感覚なのだ」、と彼女は言った、「それは我々が、母親や祖母らから聞かされていた話を思い出させる…彼女たちの時代には、オフィスではボスたちが何でも言える権利を持ち、オフィスの女性たちは彼の喜ぶことならば何でもさせられた…といった話を」。
この話は、私に私の母のことを思い起こさせた─母は20代の頃にはワシントンの証券会社で働いていたが…クリスマス・パーティーの席では、重役たちが恒例のように若い女性を呼び寄せては膝の上に乗せていた…といった話を。
もちろん、ミシェルによるこの奮起させるようなメッセージは─彼女の夫が、好色なビル・クリントンをホワイトハウスに呼び戻すことを先導している、という事実によって、何となくその価値を削り落とされてしまう。
トランプ・ファミリーが、セクシャル・ハラスメントに関する理解を欠くという事実は…ドナルド・ジュニア(Don Jr)が2013年に、このトピックについて尋ねられたラジオ・インタビューにおいて、こう答えたことでも明らかだ─「もしもあなたが、今日の企業労働者たちにとって、問題を生じかねないような基本的事柄を自らの手中でコントロールできないのなら、あなたは彼らの一員にはなれない」。彼は、そのとき、こうもツイートしていた、「もしも、あなたがその夜の状況においては@mark_mcgrath(*イケメン俳優の名前)のようにみえたならば…あなたもまた、誰よりも酷いやり方で他人にセクシャル・ハラスメントを働いている、というわけだ。人事課の規則など適用されはしない。ハハハ…」。
その、威張りちらす70歳の共和党指名候補者というのは、常に1959年の時代にタイムワープすることに捉われているようだ─まるで、ラス・ベガスのサウナ・ルームで、フランク・シナトラに向かって、「broads(“若い娘”)」だとか、「”スカート”」とかについての自慢話を吐きまくるみたいに。…だが、性的暴行に関する大量の告発や、逸脱行為のキス、ビューティー・コンテストの更衣室で脱衣中の女性やティーンエージャーたちを驚かせたという行為、ハワード・スターン(TV司会者)に対して…23歳のイヴァンカが「ただの糞(a piece of ass)」だった、などと認めたこと…は、洞窟に棲む男というもののイメージに、さらに胸の悪くなるような一面をつけ加えた。
トランプは、大統領候補者間の2度目のディベートの場に、ビル・クリントンの告発者らを連れていくような矛盾を冒すことはなかった… だが…ヒラリーが悪辣な態度で彼らの信用性を損ねたことは、批判されるべきだと述べた─彼もまた、自分の側のクリントン告発者たちからの信頼性を、酷く損なう行為を行いながら。
5thアヴェニューの城に閉じ込もった、気の触れた王が、企業やメディアのエリートが彼に対してもくろんでいる…というグローバルな陰謀に憤りをぶつけている…そうだ、ウエスト・パームビーチの支持集会では、ナチスのカギ十字のサインだって飛び出した…彼の反論がいかに不快なものかを、彼自身は気づいてもいない─彼を(性的暴行で)告発している女性たちは、襲うに足るほど魅力的でなかった─などと、彼が言うような時に。
トランプの第一子の誕生と、妊娠中のメラニア(夫人)に関するエピソードをMar-a-Lagoで執筆していた際に、トランプに襲われそうになったという、People誌のライター、ナターシャ・ストイノフに関して─その権力者は、ウエスト・パームビーチの聴衆に、こう言ったのだ、「見てみろよ…おい、君ら、見てみるがいい。彼女を見てみろ…彼女の言葉と比べてみろよ。君らがどう思うのかを、俺に聞かせろよ…俺は、そうは思わないぞ。」
ノースカロライナ州のグリーンズボロで、彼は… 30年前に、航空機内でトランプが性的に淫らな「蛸」のように振る舞った…とNYタイムズに話した、ジェシカ・リーズについて語った。「俺を信じろ。彼女はおれの一番の好みなんかじゃない…。それが、俺がお前に言えることだぞ」─聴衆は笑った。
その集会で、彼はヒラリーをも下品な笑いものにした─「俺が自分の演説台に立っているときに、彼女が俺の前を通る…そうだ、彼女が俺の前を横切るんだ。そして、彼女が俺の前を横切るときには…俺を信じろ、俺はまったく 何もインプレッションを受けちゃいないぞ。」
トランプは気づいていないかのようだが─彼が彼の弁護士を使って…二人の女性が彼を暴行した、というエピソードを掲載したNYタイムズを告訴する、と脅したとき─彼はすでに、それ以前にその件は自分で告白していたのだ─タイムズの尊敬すべき弁護士・デヴィッド・マクロウはこう反論した、「我々の記事とは、トランプ氏がすでに…彼みずからの言葉と行動を通じて彼自身のためにうちたてた名声に対しては、微塵の影響力も持っていない。」 http://www.nytimes.com/2016/10/16/opinion/sunday/michelle-schools-donald-trump.html?_r=0&mtrref=query.nytimes.com&gwh=DFC3A82357B2538173E1571D2950C5C8&gwt=pay&assetType=opinion
(*1) アニタ・ヒル:黒人女性弁護士、法学教授。1991年に教育省に在職中に上司のクラレンス・トーマスを職場でのセクシャル・ハラスメントで告訴し全米の注目を集めた。
(*2) クラレンス・トーマス:父ジョージ・ブッシュ大統領に指名され、’91年に合衆国最高裁首席判事に就任、現職。
★動画:キャンペーン集会でのミシェルのスピーチ
Michelle Obama's EPIC Speech On Trump's Sexual Behavior (FULL | HD)
https://www.youtube.com/watch?v=r7e3QKKOp50
★参考記事
連邦最高裁裁判官、クラレンス・トーマス
http://blog.livedoor.jp/mediaterrace/archives/12589174.html
アニタ・ヒル事件、19年目の後日談とは?
http://cache.yahoofs.jp/search/cache?c=zOt-A2VYf6wJ&p=%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%AC%E3%82%93%E3%81%99%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%B9&u=www.newsweekjapan.jp%2Freizei%2F2010%2F10%2Fpost-213.php
ミシェル・オバマの正統的パワー (Byフランク・ブルーニ)
The Authentic Power of Michelle Obama By Frank Bruni (2016/10/15, NYタイムズ)
レイシズムを不当な取引の材料につかい、女性差別主義を推し進め…バラク・オバマの出生の地についての嘘も、政治的な気運を得る梃子にもちいる…といった手段をあれこれ駆使した後に、ドナルド・トランプが止めの一発のデス・ブロウというものを…黒人女性、つまり大統領の妻から食らうとしたら、美味しすぎるのではないか?
そしてまた、何年ものあいだ政治の舞台の醜悪さからは慎重に距離を置いてきた、その後に、ファースト・レディがこのグロテスクな選挙戦にみずから乗り出してきた…なんて、面白くないだろうか?
それは、トランプが体現している唯一無二の脅威に対して、彼女が最も獰猛極まる対抗者として現れた…というこの状況のすべてに言えることだ─つまり、それはオクトパス・キラーのミシェル・オバマだ─彼女には威力がある、その理由とはすなわち─彼女が今まで、一度も戦いに挑んだことがなかったからなのだろうか?我々は、それが彼女であることを知っている。彼女は何か擁護すべきものがある場合にだけ、行動に出る。そして先週の末に彼女が、感動的で焼け焦げるようなスピーチを通して擁護したものとは─トランプの勝利によってそれが台無しにされかねない、彼女の夫のレガシーより以上のもの…つまり、それは彼女の女性としての尊厳であり、すべての女性の尊厳というものなのだ。
私は、彼女のインパクトを買いかぶるつもりなどない─トランプは、彼女が非難の嵐に加わる以前から、その勢いを喪失しつつあった。しかし彼女の雄弁さは、その取引を確実なものとして固めたのだ。最初に彼女は、7月中の木曜日にニューハンプシャーの民主党大会で…彼女が全米の良心を体現していると自ら称して、我々の最も重要な価値観のもっとも誠実な擁護者だ、とも自ら宣言していることの裏付けを得る賭けに出た。
ヒラリー・クリントンには、その役は勤まらない。彼女は余りにも多くの混乱した妥協を行い、そして余りにもしばしば、ロココ調の計算も行ってきた。ハッカーによって暴露されたジョン・ポデスタ(*)の電子メールの示唆するものとは、クリントンに関する噂を広範囲に囁く者たちの委員会が、その賢明な刀を一振りしない限り…彼女は瞬きすらもしない、という事なのだ。
(*)ヒラリー・クリントンの現・選挙参謀長、ビル・クリントン政権では大統領首席補佐官を務めた。
バラク・オバマにも、その役は勤まらない─現今の状況のもとで、ちょうど今の彼の気分からいって、そうなのだ。先週、オハイオ州での演説のなかで、彼は有権者たちに対して、主にこう訴えた─単にトランプを拒絶するよりも、共和党全体に罰を与えよ、と…そして、党の骨折りが報われるという歓喜を保証した─だから俺が言っただろう、といった調子で。
彼は共和党というものを「幾度も、幾度も、幾度も…栄養補給が施され続けてきた、気のふれた人間のたまり場」であると、激しく非難した。彼は彼らに対して─トランプというのは、あなたのアジェンダが「嘘に立脚しており、はったりの上に成り立っているとき」に、指名を受ける人物だとも言った。彼は、単に米国の未来の安全というものを守っているだけではなく…彼が行ったレベンジをも暴露していた。
ミシェル・オバマもまた、おそらく、彼女の夫(と彼女)がくぐり抜けてきた最悪の事柄へのレベンジを行いたいのだろうが…しかし、彼女の言葉の中にそれはなかった。
その主な理由とは、つまり、彼女は政治家ではない、ということの贅沢を享受していたのだ。彼女は、何に対しても立候補するつもりなどない。彼女は多くの事柄に影響力を揮おうとはしてこなかったし、意見の異なる有権者たちには潜在的に距離を置くか、あるいは、そうした者たちの前面にだけ放った矢で、武器を使い尽くして済ませてきた─あなたには、支持率というもののアップへの関心があるのだろうか?それならば大統領のオフィスを出るか、あるいは、最初からそこには踏み込まないほうがいい。
だが、そんな状況にあっても彼女は、さらに才能に磨きをかけてきたというわけだろうか?ワシントンでは、ちょっと珍しいことなのだが。さもしい根性の蔓延している状況の向こうを張って、彼女と、彼女のスピーチライターたちは、よくある非難の言葉や様々な恨みつらみの羅列に代わる…含蓄に富んだ、魂のこもった演説を楽々と行ってみせた。私は、彼女の党大会演説のなかのゴージャスな一節というものを思い起こす─ワシントンに移住して以来、黒人の奴隷たちの手によって築かれたホワイトハウスで、彼女の娘が目を覚ますのを、毎朝、その目でみてきた、という一節を。その描写は、アメリカが犯した罪への戒めでもあると同時に、この国が遂げてきた進歩というものへの感謝と称賛と、祝福の念にも溢れていた。それは、政治や政治家たちには滅多にできないことなのだ─すなわち、複雑で議論の余地のない真実というものの描写だ。
http://www.nytimes.com/2016/10/16/opinion/sunday/the-authentic-power-of-michelle-obama.html
Tuesday, April 12, 2016
When Castro Met Nixon... カストロがニクソンに出会った時 By Fred Kaplan
カストロがニクソンに出会った時─
1959年に米国を訪れたフィデル・カストロはアメリカ人たちを魅了したが…
米国・キューバの関係とは、つねに暗雲に覆われていた
When Castro Met Nixon
Fidel charmed Americans in a 1959 visit, but U.S.- Cuba relations were always doomed. By Fred Kaplan (2016/3/21, Slate.com)
オバマ大統領が、キューバと米国の間に新たに再開された貿易と外交の拡大や、その自由の増大の途を求めてキューバを旅行している今─こうした途が半世紀ほど前にいかに閉ざされたのかを想い起すことは意義深い。
それは、1959年1月1日のことだった─フィデル・カストロと彼のゲリラ勢力は、独裁者フルヘンシオ・バチスタが包囲を破って逃亡したその数時間後には、キューバの首都を行進していた─当初は、彼らとワシントンとの関係は良好だった。バチスタを毛嫌いしていた在キューバの米国大使やCIAの部門チーフの要求に応じて、ドワイト・アイゼンハウアー大統領は、カストロの革命政府を公式承認した─それを実行した国家とは、米国がベネズエラに次いで二か国目だった。
3か月後の4月には、エネルギッシュな31歳のカストロが…ふさふさとした顎髭にグリーンの兵服姿で米国へと飛んで、好い印象を与えて回った。ワシントンでは彼はナショナル・モールを散策し、コーン入りのアイスクリームを食べ、赤ん坊にキスをし、人々のサインの求めに応じたり、バスの上の学生たちに手を振って…近づいてくる誰とでも訛りは強いが流暢な英語で会話を交わした。
ニューヨークでは彼はウォールストリートの銀行家たちとランチを共にし、ブロンクス動物園でベンガル・タイガーに餌を投げ、セントラル・パークの夜の集会では3万人の聴衆を前にスピーチを行った。ヒューストンでは、彼は純血種のクオーターホース(競走馬)を寄贈されて、石油業界マンのフランク・ウォーターに革命に関する映画の製作権を与えた(ウォーターはカストロの役をマーロン・ブランドに、彼の弟ラウルの役をフランク・シナトラに演じさせたかったが、映画は製作されなかった。)
ワシントンの議会堂での上院外交委員会との会合で、カストロはこう言った─「我々は、米国の資産を侵害することには何の関心もない」。彼は彼の政府内部の共産主義者たちの存在をめぐる質問をかわして言った、「彼らの影響力は全くない」と。また、521名の人間たちを処刑した政府の銃殺部隊について詰問されたカストロは、銃殺された者たちは「戦犯」だったと主張し、キューバではまもなく報道の自由を認めて、4年以内には自由選挙も実施すると約束した。
ニューヨーク・タイムズのある社説は、「この若い男には、堂々たる貫禄がある」と訴えた─彼の訪米を取材したタイムズの記者は、彼を懐疑的な目でみていた人間さえもが「眩惑された」といって熱狂的に書きたてた…記者はカストロがその国に「別世界から…獰猛なラテンの熱情の世界から来たというのみならず…彼は別の世紀からやって来たようだ」などと書いた…おそらく彼は、サム・アダムスや、パトリック・ヘンリー、トム・ペインやトーマス・ジェファーソンなどが生きた世紀から来たのだ、と。「なぜなら、彼は長らく茫漠とした記憶にすぎなかった過去の革命の記憶を掻き立てただけでなく、ひとたびそれが深く感じられるや、新たな秩序を想い起こさせた─(「その夜明けに生きていること自体陶酔だったが…若いということは真の天国の祝福だった)‘Bliss was it in that dawn to be alive, but to be young was very heaven’」)フィデル・カストロは、彼に対する不信の念をも脇に置かせることに成功していた─少なくとも…部分的かつ一時的には。
そうした留保の状態とは、長くは続かなかった。カストロが米国で膨大な数の群衆を引きつけていたその間にも、タイムズのハバナ特派員は、キューバのあらゆる町や労働組合で共産主義者たちが組織されていると報じた。そうした報道は、カストロの訪米の前日に米国大使館が発した公電を反映するものだった。それでもなお、米国大使のフィリップ・ボンサルは公電において結論した─「まだ多くのチャンスが残っている─慎重な方法によってカストロに影響を与えるための方策が。…「我々が武器を手にするよりも前に、彼にキューバが抱えている問題を手直しさせるために、いま少しの時間を与えよう」と彼は指摘した。
アイゼンハウワー大統領は、その時、意図的に遠方にいて不在だった─彼は、カストロがワシントンに滞在していた5日間はずっと、ジョージア州のオーガスタでゴルフをしていた。しかし副大統領のリチャード・ニクソンは、キューバのリーダーと議事堂内の彼のオフィスで、日曜の午後に2時間半にわたって面会した。その会話の要約によれば─ニクソンはカストロには印象的な魅力がある、と語りつつ、彼は「共産主義というものに対しては信じられないほどナイーヴなのか、あるいは(すでに)共産主義者の規律(教義)の下にあるかのいずれかだ…私の推測ではそれは前者だろう」、と言った。そして「彼の政府や経済に関する認識とは、「私がこれまで50か国で出会った人間の誰よりも遅れている」、ともいった。それでも、ニクソンは「彼には指導者となる力がある。…我々には、彼を正しい方向に向かわせる以外に選択肢はない」、と書いた。
ニクソンの考える「正しい方向」とは─他のすべての米国政府の官僚たちの認識とも一致していた─それは、共産主義に対する冷戦状態にある西欧世界と連携し、外国投資家に対して広く門戸を広げ続け、自由貿易経済と、厳格な財政規律を維持することと引換えに、IMFからの貸付けを受けることだった。
これは、カストロがまったく意図していない方向性だった。バチスタとはアメリカの権益におもねる傀儡だったが、カストロの革命の主な信条とは、それらを断ち切ることだった。カストロが喚起した真の希望というもの(西欧の多くの人間のあいだでさえ抱かれていたようなもの…)すなわち、カリブ海の国家はいずれの超大国とも同盟を結ばないないだろう、との予測は、米国の政府官僚らにとっての深い憂慮の種だった。大使のボンサルは、カストロが共産主義に対して「慈悲深い寛容さ(”benevolent tolerance”)」を維持していることに、手をこまねいていた。国務省の地域担当専門家たちの上官も─「ナショナリズム的な中立主義」へのカストロの傾向に関して…それを共産主義者が最大限に利用する可能性もある、と警告した。
米国を訪問する前月の3月、カストロは米国人が所有していたキューバ電話会社を奪還した。彼は帰国から2週間後の5月には、農地改革法に署名した─それは外国人が所有する資産をむしばんで、外国企業はキューバ人に分け前を返さない限り、排除されることとなった。
この意味において、フィデルが常に共産主義者だったのか、あるいは彼はいつそうなったのか、物事が異なる進展をした可能性はあるのか─といったことを考えることにはあまり意味がない。
こうした懸念がもたれるさなかで、議会では砂糖条例の改正が議題となった。バチスタ政権時代に立法化されたその条例は、アメリカの砂糖輸入の70%がキューバからもたらされることを保証していた。6月には、ある省庁間のグループがその件を討議すべく会合を開いた。そこでは、米国企業はラテン・アメリカに90億ドルを投資していると指摘する者もあった。その地域圏に属する国々はいずれも、ワシントンがキューバの搾取に対していかなるリアクションをとるかを注視していた─寛容さとは、こうした他の国々でも同様に企業の資産を危険にさらす可能性があった。政府の官僚たちはアイゼンハワーに、その法律の改正を望まないようアドバイスした。
カストロが首縄を絞められたように感じるまでに長くはかからなかった。キューバは資源に乏しく、その国には砂糖と、その他の物を購入する少量の硬貨があるだけだった。彼はチェ・ゲバラをアジアとアフリカに派遣して、「非同盟」諸国からの経済的援助を得るための方策を探らせたものの、成果は得られなかった。
フィデルがワシントンに飛んだその同じ月に、キューバ軍の中にマルクス・レーニン主義者の一団を創設する援助を依頼すべく、ラウルは側近をモスクワに送った。そして、クレムリンはスペイン内戦で戦った元・将官らを派遣してきた。1959年10月には、KGBの上級エージェントが、キューバ島への資金と武器の供給について話し合うために島を来訪した。まもなくフィデルはラウルを新たな革命軍省の担当大臣に任命したが、そのことはキューバの将官たちの一団の離反(亡命)を招いた─彼らは米国に到着するや否や、(米政府に)ハバナのソ連との新たな関係に関する諜報報告を行なった。
結局、11月にはアイゼンハワー政権がキューバ政府転覆のための秘密計画を策定したが、その動きにはカストロの暗殺が伴う可能性があった。CIAの局長アレン・デュレスは、こう論じた─「カストロのいかなる後継者も、彼ほどの催眠的魅力は持たないだろう」から、フィデルの死はその体制の崩壊を「大いに促進するに違いない」と。(1970年代にチャーチ委員会が暴露したように、CIAはしばしばマフィアを仲介に用いて、数回にわたりカストロの暗殺を試みた)。
1960年8月、カストロは米国が所有していた7億4千万ドルの資産を1日にして掌握し、その行為を米国の「経済的攻撃」への報復だと正当化した─そして彼は、「ソ連やその他の共産主義諸国からの助力」を「喜んで享受している」とも宣言した。その翌月、カストロは国連総会に参加すべくニューヨークを再訪した。今回の訪米では彼は何ら気ままな散策も行わず、新聞による熱狂的な社説も書かれなかった。彼と側近たちは、ミッドタウンの高級ホテルの代わりにハーレムのテレサ・ホテルに宿泊した─そこで彼は、国務省の官僚たちや主流派メディアの記者たちと一対一の会談を行う代わりに、マルコムXと彼の住む近隣の黒人居住地域のローカル紙の記者らと会談した。国連では、カストロはソ連のニキータ・フルシチョフ首相が議会場に入ってきた瞬間に立ち上がり、大いに称賛した─フルシチョフはその返礼に、カストロを熊の如く抱擁した。
かくして、その後の数年間にはそのサイクルは頂点に達し─米国によるピッグス湾への侵攻や、第三次世界大戦の引金を引きかねない、核ミサイルをめぐるソ連と米国の睨み合い─という1960年代最大の危機を生じた。
そうした事件の多くは、おそらく避けがたいものだった─その意味で、フィデルが常に共産主義者だったのか、あるいは彼がいつそうなったのか、もしもアイゼンハワー1959年の春に彼に会っていたならば事態は異なっていたのか─といった問いにはさしたる重要性はない。彼の革命の特質を鑑みれば、カストロは米国企業の権益には屈服できず、IMFのルールブックに追従するわけにもいかなかった。そして、米国の世紀半ばの外交政策の性格を顧みても、いかなる米国大統領も、本土からこれほど近い地域でのこのような革命を看過することはできなかった。キューバの乏しい資源と経済的な自給自足の不能さゆえに、カストロはより力の強い国と何らかの連携を組まねばならなかった。そして、世界の二つの敵対的なブロックへの分離がより硬直化するにつれて、ソ連がその力とならざるを得なくなった。カストロの最初の動機がいかなるものであれ、彼は弱小国がコントロールできないグローバル・ゲームのなかに嵌め込まれた。
こうしたダイナミズムは、すでに1989年の冷戦の終焉により段階的に縮小をはじめて、2年後にはソ連が内側から崩壊した。米国は、大統領選においてしばしばフロリダが有する29人の選挙人区の決定的影響力(それは広汎な政治的影響力をもつ州の亡命キューバ人コミュニティの意向に左右された)ゆえに、その後も四半世紀にわたって国交の断絶を継続した。
オバマは、多くの第一世代の亡命キューバ人たちがすでに世を去った…という事実を認識して…その認識に従って行動した最初の大統領だった─オバマは彼ら亡命キューバ人の子供や孫たちの世代が、親たちの世代と比べればキューバとの外交関係復活への敵対心が低い、という事実や、(とりわけ多くの面で、1950年代末のタイムカプセルのなかで硬直化していたキューバ経済ゆえに)米国による投資が有効となる可能性、また、その門戸をふたたび世界に開けばキューバが西欧文化や価値観を取り入れるかも知れない可能性(カストロ兄弟がそれを望もうと望むまいと)といった認識のうえに、そうした行動にでた。
そこには、いまだに障害も存在する─それは、たとえ米国政府や亡命キューバ人たち、多くのキキューバの自国民が何らの固執を抱いていなくても…みずからの古い行動様式や認識に固執しがちなカストロ兄弟自身の問題だけではない。そこにはいまだに解決すべき、様々な問題がある─それは没収された資産の弁償の問題や、外国投資家の権利の問題、グアンタナモ基地の処遇の問題だけではない。
それらの整理には、何年もの年月を要する─真剣な論議をはじめるには、カストロ兄弟の死を待たねばならないかもしれない。しかしオバマとその側近たちは懸命にこう計算する─たとえ(もしも)彼らの希望のシナリオが楽観的すぎようと…米国にとってキューバが何ら脅威でなくなった今日、そして他の国々も出入りを開始した現状においては、その島のドアを閉ざしたままでいることは無意味なのだ。
http://www.slate.com/articles/news_and_politics/supreme_court_dispatches/2016/03/conservative_justices_attack_the_aca_s_contraception_mandate.html
1959年に米国を訪れたフィデル・カストロはアメリカ人たちを魅了したが…
米国・キューバの関係とは、つねに暗雲に覆われていた
When Castro Met Nixon
Fidel charmed Americans in a 1959 visit, but U.S.- Cuba relations were always doomed. By Fred Kaplan (2016/3/21, Slate.com)
オバマ大統領が、キューバと米国の間に新たに再開された貿易と外交の拡大や、その自由の増大の途を求めてキューバを旅行している今─こうした途が半世紀ほど前にいかに閉ざされたのかを想い起すことは意義深い。
それは、1959年1月1日のことだった─フィデル・カストロと彼のゲリラ勢力は、独裁者フルヘンシオ・バチスタが包囲を破って逃亡したその数時間後には、キューバの首都を行進していた─当初は、彼らとワシントンとの関係は良好だった。バチスタを毛嫌いしていた在キューバの米国大使やCIAの部門チーフの要求に応じて、ドワイト・アイゼンハウアー大統領は、カストロの革命政府を公式承認した─それを実行した国家とは、米国がベネズエラに次いで二か国目だった。
3か月後の4月には、エネルギッシュな31歳のカストロが…ふさふさとした顎髭にグリーンの兵服姿で米国へと飛んで、好い印象を与えて回った。ワシントンでは彼はナショナル・モールを散策し、コーン入りのアイスクリームを食べ、赤ん坊にキスをし、人々のサインの求めに応じたり、バスの上の学生たちに手を振って…近づいてくる誰とでも訛りは強いが流暢な英語で会話を交わした。
ニューヨークでは彼はウォールストリートの銀行家たちとランチを共にし、ブロンクス動物園でベンガル・タイガーに餌を投げ、セントラル・パークの夜の集会では3万人の聴衆を前にスピーチを行った。ヒューストンでは、彼は純血種のクオーターホース(競走馬)を寄贈されて、石油業界マンのフランク・ウォーターに革命に関する映画の製作権を与えた(ウォーターはカストロの役をマーロン・ブランドに、彼の弟ラウルの役をフランク・シナトラに演じさせたかったが、映画は製作されなかった。)
ワシントンの議会堂での上院外交委員会との会合で、カストロはこう言った─「我々は、米国の資産を侵害することには何の関心もない」。彼は彼の政府内部の共産主義者たちの存在をめぐる質問をかわして言った、「彼らの影響力は全くない」と。また、521名の人間たちを処刑した政府の銃殺部隊について詰問されたカストロは、銃殺された者たちは「戦犯」だったと主張し、キューバではまもなく報道の自由を認めて、4年以内には自由選挙も実施すると約束した。
ニューヨーク・タイムズのある社説は、「この若い男には、堂々たる貫禄がある」と訴えた─彼の訪米を取材したタイムズの記者は、彼を懐疑的な目でみていた人間さえもが「眩惑された」といって熱狂的に書きたてた…記者はカストロがその国に「別世界から…獰猛なラテンの熱情の世界から来たというのみならず…彼は別の世紀からやって来たようだ」などと書いた…おそらく彼は、サム・アダムスや、パトリック・ヘンリー、トム・ペインやトーマス・ジェファーソンなどが生きた世紀から来たのだ、と。「なぜなら、彼は長らく茫漠とした記憶にすぎなかった過去の革命の記憶を掻き立てただけでなく、ひとたびそれが深く感じられるや、新たな秩序を想い起こさせた─(「その夜明けに生きていること自体陶酔だったが…若いということは真の天国の祝福だった)‘Bliss was it in that dawn to be alive, but to be young was very heaven’」)フィデル・カストロは、彼に対する不信の念をも脇に置かせることに成功していた─少なくとも…部分的かつ一時的には。
そうした留保の状態とは、長くは続かなかった。カストロが米国で膨大な数の群衆を引きつけていたその間にも、タイムズのハバナ特派員は、キューバのあらゆる町や労働組合で共産主義者たちが組織されていると報じた。そうした報道は、カストロの訪米の前日に米国大使館が発した公電を反映するものだった。それでもなお、米国大使のフィリップ・ボンサルは公電において結論した─「まだ多くのチャンスが残っている─慎重な方法によってカストロに影響を与えるための方策が。…「我々が武器を手にするよりも前に、彼にキューバが抱えている問題を手直しさせるために、いま少しの時間を与えよう」と彼は指摘した。
アイゼンハウワー大統領は、その時、意図的に遠方にいて不在だった─彼は、カストロがワシントンに滞在していた5日間はずっと、ジョージア州のオーガスタでゴルフをしていた。しかし副大統領のリチャード・ニクソンは、キューバのリーダーと議事堂内の彼のオフィスで、日曜の午後に2時間半にわたって面会した。その会話の要約によれば─ニクソンはカストロには印象的な魅力がある、と語りつつ、彼は「共産主義というものに対しては信じられないほどナイーヴなのか、あるいは(すでに)共産主義者の規律(教義)の下にあるかのいずれかだ…私の推測ではそれは前者だろう」、と言った。そして「彼の政府や経済に関する認識とは、「私がこれまで50か国で出会った人間の誰よりも遅れている」、ともいった。それでも、ニクソンは「彼には指導者となる力がある。…我々には、彼を正しい方向に向かわせる以外に選択肢はない」、と書いた。
ニクソンの考える「正しい方向」とは─他のすべての米国政府の官僚たちの認識とも一致していた─それは、共産主義に対する冷戦状態にある西欧世界と連携し、外国投資家に対して広く門戸を広げ続け、自由貿易経済と、厳格な財政規律を維持することと引換えに、IMFからの貸付けを受けることだった。
これは、カストロがまったく意図していない方向性だった。バチスタとはアメリカの権益におもねる傀儡だったが、カストロの革命の主な信条とは、それらを断ち切ることだった。カストロが喚起した真の希望というもの(西欧の多くの人間のあいだでさえ抱かれていたようなもの…)すなわち、カリブ海の国家はいずれの超大国とも同盟を結ばないないだろう、との予測は、米国の政府官僚らにとっての深い憂慮の種だった。大使のボンサルは、カストロが共産主義に対して「慈悲深い寛容さ(”benevolent tolerance”)」を維持していることに、手をこまねいていた。国務省の地域担当専門家たちの上官も─「ナショナリズム的な中立主義」へのカストロの傾向に関して…それを共産主義者が最大限に利用する可能性もある、と警告した。
米国を訪問する前月の3月、カストロは米国人が所有していたキューバ電話会社を奪還した。彼は帰国から2週間後の5月には、農地改革法に署名した─それは外国人が所有する資産をむしばんで、外国企業はキューバ人に分け前を返さない限り、排除されることとなった。
この意味において、フィデルが常に共産主義者だったのか、あるいは彼はいつそうなったのか、物事が異なる進展をした可能性はあるのか─といったことを考えることにはあまり意味がない。
こうした懸念がもたれるさなかで、議会では砂糖条例の改正が議題となった。バチスタ政権時代に立法化されたその条例は、アメリカの砂糖輸入の70%がキューバからもたらされることを保証していた。6月には、ある省庁間のグループがその件を討議すべく会合を開いた。そこでは、米国企業はラテン・アメリカに90億ドルを投資していると指摘する者もあった。その地域圏に属する国々はいずれも、ワシントンがキューバの搾取に対していかなるリアクションをとるかを注視していた─寛容さとは、こうした他の国々でも同様に企業の資産を危険にさらす可能性があった。政府の官僚たちはアイゼンハワーに、その法律の改正を望まないようアドバイスした。
カストロが首縄を絞められたように感じるまでに長くはかからなかった。キューバは資源に乏しく、その国には砂糖と、その他の物を購入する少量の硬貨があるだけだった。彼はチェ・ゲバラをアジアとアフリカに派遣して、「非同盟」諸国からの経済的援助を得るための方策を探らせたものの、成果は得られなかった。
フィデルがワシントンに飛んだその同じ月に、キューバ軍の中にマルクス・レーニン主義者の一団を創設する援助を依頼すべく、ラウルは側近をモスクワに送った。そして、クレムリンはスペイン内戦で戦った元・将官らを派遣してきた。1959年10月には、KGBの上級エージェントが、キューバ島への資金と武器の供給について話し合うために島を来訪した。まもなくフィデルはラウルを新たな革命軍省の担当大臣に任命したが、そのことはキューバの将官たちの一団の離反(亡命)を招いた─彼らは米国に到着するや否や、(米政府に)ハバナのソ連との新たな関係に関する諜報報告を行なった。
結局、11月にはアイゼンハワー政権がキューバ政府転覆のための秘密計画を策定したが、その動きにはカストロの暗殺が伴う可能性があった。CIAの局長アレン・デュレスは、こう論じた─「カストロのいかなる後継者も、彼ほどの催眠的魅力は持たないだろう」から、フィデルの死はその体制の崩壊を「大いに促進するに違いない」と。(1970年代にチャーチ委員会が暴露したように、CIAはしばしばマフィアを仲介に用いて、数回にわたりカストロの暗殺を試みた)。
1960年8月、カストロは米国が所有していた7億4千万ドルの資産を1日にして掌握し、その行為を米国の「経済的攻撃」への報復だと正当化した─そして彼は、「ソ連やその他の共産主義諸国からの助力」を「喜んで享受している」とも宣言した。その翌月、カストロは国連総会に参加すべくニューヨークを再訪した。今回の訪米では彼は何ら気ままな散策も行わず、新聞による熱狂的な社説も書かれなかった。彼と側近たちは、ミッドタウンの高級ホテルの代わりにハーレムのテレサ・ホテルに宿泊した─そこで彼は、国務省の官僚たちや主流派メディアの記者たちと一対一の会談を行う代わりに、マルコムXと彼の住む近隣の黒人居住地域のローカル紙の記者らと会談した。国連では、カストロはソ連のニキータ・フルシチョフ首相が議会場に入ってきた瞬間に立ち上がり、大いに称賛した─フルシチョフはその返礼に、カストロを熊の如く抱擁した。
かくして、その後の数年間にはそのサイクルは頂点に達し─米国によるピッグス湾への侵攻や、第三次世界大戦の引金を引きかねない、核ミサイルをめぐるソ連と米国の睨み合い─という1960年代最大の危機を生じた。
そうした事件の多くは、おそらく避けがたいものだった─その意味で、フィデルが常に共産主義者だったのか、あるいは彼がいつそうなったのか、もしもアイゼンハワー1959年の春に彼に会っていたならば事態は異なっていたのか─といった問いにはさしたる重要性はない。彼の革命の特質を鑑みれば、カストロは米国企業の権益には屈服できず、IMFのルールブックに追従するわけにもいかなかった。そして、米国の世紀半ばの外交政策の性格を顧みても、いかなる米国大統領も、本土からこれほど近い地域でのこのような革命を看過することはできなかった。キューバの乏しい資源と経済的な自給自足の不能さゆえに、カストロはより力の強い国と何らかの連携を組まねばならなかった。そして、世界の二つの敵対的なブロックへの分離がより硬直化するにつれて、ソ連がその力とならざるを得なくなった。カストロの最初の動機がいかなるものであれ、彼は弱小国がコントロールできないグローバル・ゲームのなかに嵌め込まれた。
こうしたダイナミズムは、すでに1989年の冷戦の終焉により段階的に縮小をはじめて、2年後にはソ連が内側から崩壊した。米国は、大統領選においてしばしばフロリダが有する29人の選挙人区の決定的影響力(それは広汎な政治的影響力をもつ州の亡命キューバ人コミュニティの意向に左右された)ゆえに、その後も四半世紀にわたって国交の断絶を継続した。
オバマは、多くの第一世代の亡命キューバ人たちがすでに世を去った…という事実を認識して…その認識に従って行動した最初の大統領だった─オバマは彼ら亡命キューバ人の子供や孫たちの世代が、親たちの世代と比べればキューバとの外交関係復活への敵対心が低い、という事実や、(とりわけ多くの面で、1950年代末のタイムカプセルのなかで硬直化していたキューバ経済ゆえに)米国による投資が有効となる可能性、また、その門戸をふたたび世界に開けばキューバが西欧文化や価値観を取り入れるかも知れない可能性(カストロ兄弟がそれを望もうと望むまいと)といった認識のうえに、そうした行動にでた。
そこには、いまだに障害も存在する─それは、たとえ米国政府や亡命キューバ人たち、多くのキキューバの自国民が何らの固執を抱いていなくても…みずからの古い行動様式や認識に固執しがちなカストロ兄弟自身の問題だけではない。そこにはいまだに解決すべき、様々な問題がある─それは没収された資産の弁償の問題や、外国投資家の権利の問題、グアンタナモ基地の処遇の問題だけではない。
それらの整理には、何年もの年月を要する─真剣な論議をはじめるには、カストロ兄弟の死を待たねばならないかもしれない。しかしオバマとその側近たちは懸命にこう計算する─たとえ(もしも)彼らの希望のシナリオが楽観的すぎようと…米国にとってキューバが何ら脅威でなくなった今日、そして他の国々も出入りを開始した現状においては、その島のドアを閉ざしたままでいることは無意味なのだ。
http://www.slate.com/articles/news_and_politics/supreme_court_dispatches/2016/03/conservative_justices_attack_the_aca_s_contraception_mandate.html
Sunday, January 24, 2016
サウジ・アラビアからの手紙- Letter From Saudi Arabia By トーマス・フリードマン
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| Mohammed bin Salman (credit AFP) |
サウジ・アラビアという国は、遠くから描いて表わすのは簡単でも…ひとたびそこに足を踏み入れたならば、最も禁欲的で、多様性に対しては非寛容なイスラム教の湧き出る源泉によって苛々させられるような場所だ─その手のイスラム教の最も極端なバージョンは、イスラム国(ISIS)が実践するものだ。私が最も困惑するのは…その地を訪問して人々に出会えば、彼らが本当に好きになってしまうことだ…そこには、とても興味深い、拮抗する正反対のトレンドがある。
先週、私はこの地をISISのルーツを解く手がかりを求めて訪問した─ISISはそのグループの兵卒に1,000名のサウジの若者を引き込んでいる。私はISISがリクルートの対象とするような─サラフィー(*サラフィー主義=厳格派))やワッハーブ主義のイスラム教の教えにのめり込んだ、英語も話さぬ髭面の若者たちの集まるモスクに侵入してきたように装うつもりはない。だが、私が知っていることは、この地では依然として保守派の宗教家たちが駆け引きの支配権を握っている、ということだ。この地で最も人気のあるTwitterの投稿者とは、宗教的な扇動者たちだ─そしてこうした宗教指導者たちが、依然としてここでは司法制度をつかさどり、リベラルなブロガーたちに鞭打ちの刑を宣告したりしている。そして、彼らは未だに─彼らが世界にばら撒いてきたイデオロギーがいかに世の平和を妨害したのか─ということには、否定的な認識しか持っていない。
しかし、私は私の知らなかったものにも出くわした─この社会では何かが沸騰中なのだ、という事実に。これは、あなたの祖父がお馴染みだったようなサウジ・アラビアではない。「実のところそれは、もはや私の世代にとってのサウジ・アラビアですらない」─と、この国の52歳になる外務大臣のAdel-Jubeirは私に言う。
先週、私はこの地をISISのルーツを解く手がかりを求めて訪問した─ISISはそのグループの兵卒に1,000名のサウジの若者を引き込んでいる。私はISISがリクルートの対象とするような─サラフィー(*サラフィー主義=厳格派))やワッハーブ主義のイスラム教の教えにのめり込んだ、英語も話さぬ髭面の若者たちの集まるモスクに侵入してきたように装うつもりはない。だが、私が知っていることは、この地では依然として保守派の宗教家たちが駆け引きの支配権を握っている、ということだ。この地で最も人気のあるTwitterの投稿者とは、宗教的な扇動者たちだ─そしてこうした宗教指導者たちが、依然としてここでは司法制度をつかさどり、リベラルなブロガーたちに鞭打ちの刑を宣告したりしている。そして、彼らは未だに─彼らが世界にばら撒いてきたイデオロギーがいかに世の平和を妨害したのか─ということには、否定的な認識しか持っていない。
しかし、私は私の知らなかったものにも出くわした─この社会では何かが沸騰中なのだ、という事実に。これは、あなたの祖父がお馴染みだったようなサウジ・アラビアではない。「実のところそれは、もはや私の世代にとってのサウジ・アラビアですらない」─と、この国の52歳になる外務大臣のAdel-Jubeirは私に言う。
たとえば、私は私のホストであるKing Salman Youth Centerの招待を受けた─それは印象的な教育基金だ─何よりも、それはカーン・アカデミーKhan
Academy(*註)のビデオをアラビア語に翻訳し続けている。彼らは私に対して、テクノロジーの力が職場にいかに大きな影響を与えているのかをレクチャーしてほしい、との依頼で招聘した。私はどのように期待すべきかわからなかったが、そこには500人以上の観客が訪れてホールを満杯にしており…そのおよそ半分は、男性とは別に隔離された場所に座る、伝統的な黒いベールを纏った女性たちだった。サウジがサラフィー主義のイデオロギーを輸出することに批判的だったコラムニストが、なぜその意見を述べる場を与えられるのか…という反発の念による反動がTwitter上に溢れていた。しかし、私の講演に対する受け止め方は温かかった(私は無報酬だったが)─そして、聴衆からの質問とは、彼らの子供たちを21世紀のためにいかに準備させるべきなのかという…探求的で思慮に溢れるものだった。(*カーン・アカデミーKhan Academy: 2006年にサルマン・カーン (教育者)によって設立された非営利の教育ウェブサイトであり、運営NPO:ネットを通して高水高水準の教育を、誰にでも無償で、どこでも受けられるようにするというサルマンの理念を現在、Googleやビルゲイツ財団も支援する。 現在、3000本以上の教育ビデオが登録され、初等教育から大学レベルの講義まで、物理、数学、生化学から美術史、経済学、ファイナンスまで、内容は多岐に渡る~Wiki)
この国では保守主義者たちが、彼らの未来のアイデンティティにおいては、一層多くの競合に晒されそうにもみえる─いくつかの流れ(傾向)が統合しつつある、という現状のせいで。第一に、サウジ・アラビアの人口の大半とは30歳未満なのだ。第二に、アブドラ国王は、海外で学びたいと思う者には誰にでもその費用を支払うと宣言した。その結果、現在では20万人のサウジ人が海外で学んでいる(10万人のアメリカ留学者を含めて)─そしていまや、年間で3万人の者たちが欧米の学位を手に帰国して、就労人口に加わっている。いまや、どこのオフィスにでも女性の姿がみられる─幾人かの上級官僚たちが私に囁いたことによれば、かつては女性の職場参加を拒否していた…その同じ保守主義者が、自分の娘をよい学校・よい職場に入れるために、静かにロビーイング活動をするといった例があまりにも頻繁にみられる、という。
最後にこうした人口の突出した若者層の爆発と同時に、TwitterやYouTubeも爆発している、ということだ─閉じられた社会にもたらされた、神からの使者として。若いサウジ人たちはTwitterを使って政府に反発を訴えている…そして、お互いに日々の出来事を語りあっている…ひと月に5千万本ものツイートを発しながら。ここで足りないものとは、こうしたエネルギーを改革のために注ぎ込むことのできるリーダーシップなのだ。新たな国王、Salmanの息子Mohammed bin Salmanとは、30歳の副皇太子だが─彼はもう一人の穏健派の皇太子であるMohammed bin Nayefとともに…サウジ・アラビアをいかに変革すべきか…のミッションへと乗り出した。
私は、とある夕べにMohammed bin Salmanを彼のオフィスに尋ねたが…彼は私をすっかり疲れ果てさせた。跳躍するようなエネルギーを爆発させながら、彼はその計画の詳細を語ってみせた。彼のメイン・プロジェクトとは…オンライン上の政府のダッシュボードなのだという…そこには各省庁の月間目標が、K.P.I.[(Key performance indicators主要パフォーマンス指数)─に基づいて、透明度を伴って表示される。各省の大臣はその目標の達成への責任を負う。彼のアイディアとは、国全体を政府のパフォーマンス目標の達成に関与させることなのだ…大臣たちはこういう、「彼─モハメッドが就任する前には、大きな決断とは2年をかけて行われてきたが…今やそれが2週間でなされている」。
主なチャレンジ課題とは、石油に対する我々の過剰な依存と、我々が予算を準備しそれを費やす…そのやり方、そのものなのだ」、とモハメッドは説明した。彼のプランとは、サウジの富裕層に対する補助金を減らし、彼らが安いガスや電力や水道水を得られる特権を廃止すること…そしておそらくは付加価値税と、煙草や甘い飲み物に対する罪悪税をも創設し、鉱山と未開発地を民営化してそれに課税し、何十億もの利益の創出を解禁するという方向に導くことなのだ─たとえ、石油価格が1バレル30ドルに下落しようと、リヤドの政府が国を建設するために、貯蓄を削ることなく十分な収入を得られるようにと。彼はまたサウジの国民に対して、官公庁の仕事を辞めて私企業へと転職させるインセンティブの奨励金を作りつつある。 サウジ人の70%とは30歳未満なのだ、そして彼らの物の見方(パースペクティブ)とは残りの30%とは異なる」、とモハメッドはいう。「私は彼らのために、彼らが未来にそこに住みたいと望むような国を作るべく働いている。」
最後にこうした人口の突出した若者層の爆発と同時に、TwitterやYouTubeも爆発している、ということだ─閉じられた社会にもたらされた、神からの使者として。若いサウジ人たちはTwitterを使って政府に反発を訴えている…そして、お互いに日々の出来事を語りあっている…ひと月に5千万本ものツイートを発しながら。ここで足りないものとは、こうしたエネルギーを改革のために注ぎ込むことのできるリーダーシップなのだ。新たな国王、Salmanの息子Mohammed bin Salmanとは、30歳の副皇太子だが─彼はもう一人の穏健派の皇太子であるMohammed bin Nayefとともに…サウジ・アラビアをいかに変革すべきか…のミッションへと乗り出した。
私は、とある夕べにMohammed bin Salmanを彼のオフィスに尋ねたが…彼は私をすっかり疲れ果てさせた。跳躍するようなエネルギーを爆発させながら、彼はその計画の詳細を語ってみせた。彼のメイン・プロジェクトとは…オンライン上の政府のダッシュボードなのだという…そこには各省庁の月間目標が、K.P.I.[(Key performance indicators主要パフォーマンス指数)─に基づいて、透明度を伴って表示される。各省の大臣はその目標の達成への責任を負う。彼のアイディアとは、国全体を政府のパフォーマンス目標の達成に関与させることなのだ…大臣たちはこういう、「彼─モハメッドが就任する前には、大きな決断とは2年をかけて行われてきたが…今やそれが2週間でなされている」。
主なチャレンジ課題とは、石油に対する我々の過剰な依存と、我々が予算を準備しそれを費やす…そのやり方、そのものなのだ」、とモハメッドは説明した。彼のプランとは、サウジの富裕層に対する補助金を減らし、彼らが安いガスや電力や水道水を得られる特権を廃止すること…そしておそらくは付加価値税と、煙草や甘い飲み物に対する罪悪税をも創設し、鉱山と未開発地を民営化してそれに課税し、何十億もの利益の創出を解禁するという方向に導くことなのだ─たとえ、石油価格が1バレル30ドルに下落しようと、リヤドの政府が国を建設するために、貯蓄を削ることなく十分な収入を得られるようにと。彼はまたサウジの国民に対して、官公庁の仕事を辞めて私企業へと転職させるインセンティブの奨励金を作りつつある。 サウジ人の70%とは30歳未満なのだ、そして彼らの物の見方(パースペクティブ)とは残りの30%とは異なる」、とモハメッドはいう。「私は彼らのために、彼らが未来にそこに住みたいと望むような国を作るべく働いている。」
これは、果たして砂漠のオアシスの蜃気楼なのだろうか?私にはわからない。それは、より開かれたサウジ・アラビアを生み出すのか…あるいは、より効率的な保守派のサウジ・アラビアを作り出すのか?私にはわからない。だがそれは絶対に…見まもるに値するものだ。「私はこんな楽観主義をこれまでに見たことがない…」と、サウジの資本市場局(Saudi
Capital Market Authority)の長官、Mohammed Abdullah Aljadaanは私に言った。「我々は今まで見たことのない脈動を目にしている、そして我々は政府のなかに、過去には予想もしなかったようなロールモデル(役割モデル)の存在をみている」。
そして、肝心要めなことは─この国にはいまだに思想的な不寛容を輸出しているダーク・コーナーが存在している、ということだ。しかし、それらは真の競合にも晒されている…草の根から湧き出る競合と、そして実績に基づく正当性(信仰心の深さや一族の名による権威などではなく)を打ち立てようとするリーダーたちによる競合に…。あるサウジの教育者が私にこう告げたように─「そこにはいまだに、変化に対するレジスタンス(抵抗)が存在する」、しかしそこにはいまや、より多くの、「レジスタンスに対するレジスタンス(抵抗することに対する抵抗…)」がある。
モハメッドには、彼の父親であるサルマン王による重要な後ろ盾があった…彼は、政府を専門職化(プロフェッショナライズ)し、民間部門を活性化して、国家経済のうちで政府が占める役割を拡大する幅広いシフトの一環として…健康大臣や住宅大臣などの重要ポストを王族以外のビジネス・エグゼクティブたちによって挿げ替えた。新たな健康大臣とは、かつては国のもっとも重要なCEOだった国営石油会社アラムコ(Aramco)の前CEO、Khalil
al-Falihなのだ。
モハメッドは、政府の効率化とは「我々が腐敗と戦うことを助けるために」肝要なことだという…それは「我々の最も重要な挑戦の一つ」なのだと。さらに、補助金を削減したり国内でのエネルギー価格を上げることによってのみ、サウジ・アラビアはいつの日か、「原子力発電か太陽光発電」を打ちたてることができ、地域市場での競合力を得られるのだと。それは激しく求められており、そのためにはより多くのサウジの石油が、国内消費されるよりも輸出されねばならないと彼は言う。
しかし、そうした展望はすべて、トリッキーだ。サウジの労働者たちは所得税を払っていない。「我々の社会は、税金というものを受け入れない。(市民たちは)それに慣れていない」、とモハメッドは言う。それゆえに、政府が何らかの手段で増税するか、それを形づくろうとすれば、政治的な影響を生じる可能性がある─リーダーたちは、「議会制度なき租税制度というものはありえない」、といった宣言に対して耳を貸すのだろうか? (*註:サウジにはもちろん、議会が存在しない)
「社会の一部として、それを代表しないような政府は政府として継続できない」。とモハメッドはいう。「我々はアラブの春を目にした。生き延びた政府というものは人々との繋がりを持っていた政府だけだ。人々は我々の王制を誤解している。それは、ヨーロッパの国々のような王制ではない。それは部族的な形態の王制なのだ、多くの部族と、副部族と、地域というものがトップとの繋がりを持っている」。彼らの願望や関心は考慮される。「王というものは単に、朝起きれば、何をなすべきかを決意できる…といったようなものではありえない。」
今回の訪問で私の目を引いたものには、これ以外にも、小さな事柄がいくつか存在する─例えば、ある日の午後、欧米の交響楽団がサウジの国営のテレビ放送で演奏していたことや…あるいは(通信省に展示されていた…あるサウジ女性の描いた、サウジ女性の像を含む…)サウジのアーチストによる現代絵画のコレクション、といったものだ。(*サウジでは長年、宗教的な理由から女性の顔の写真や絵画を、公共メディアに晒すことが禁じられていた)
ISISに関しては─モハメッドは、それがサウジの宗教的思考の産物だとの説に反論して、こう語った、つまりそれは実際のところ、(イランに操作された)バグダッドのヌリ・アル・マリキの率いるシーア派政権の行ったイラクのスンニ派への残虐行為への反動であり…(イランに支援された)ダマスカスのシリア政府によるシリアのスンニ派弾圧への反動なのだ、と。「アメリカがイラクから去る前には、ISISは存在しなかった。その後に、アメリカが去ってイランが入り込み、そしてISISが現れた…」、と彼はいった。
彼は─ISISがサウジ・アラビアの政権を不安定にすべくモスクを爆破していたときに、国際社会はサウジがISISを触発したといって非難した─と述べた。「ISISのテロリストたちは私に、私がイスラム教徒ではないという…そして世界は私に、私がテロリストであるという。」
しかし、このことは、一方にはサラフィ-主義のイスラムというものを擁しつつ…一方には、ジハード戦士を抑え込もうとして西欧と協力しようとする別の部分を持つ、サウジの政府やその社会が生みだした数十年来のレガシーでもある。
モハメッドが論ずるには、ISISのナレティブ(言説)というものは、サウジの若者層に直接、ツイッターを通じて照射される。そして、そのメッセージとは、「西欧はそのアジェンダを君に押し付けようとする。そして、サウジ政府は彼らを助けており…イランは、アラブ世界を植民地化しようと試みている─それゆえに、我々ISISはイスラムを防御する…」、というものだ。
彼は、こう付け加えた─「我々は、西欧が我々を読み違えているというような苦言はいわない。それは、部分的には我々の失策でもある。我々は我々の状況についての説明はしない。世界は急激に変化しており、我々はその世界と共にあるためには、優先事項を再検討(re-priotize)せねばならない。今日の世界とは異なっている。あなたは、世界から孤立することはできない。世界は、あなたがたの近隣で何が起こりつつあるかを知らねばならないのだ─それはグローバル・ビレッジなのだから」。
イエメンでは、サウジが率いる湾岸諸国の同盟が、フーシの武装勢力や(イランの支援を受けた)前大統領、アリ・アブドラ・サレハに忠誠を誓う反乱勢力と戦っている。反乱勢力は、3月にイエメンのオフィシャルな政府を首都サナアから追い出し、サウジの同盟が、それを力づくで復活させようとした。これまでに米国が報じたことによれば…5,700人の人々が殺害されたが、その多くは一般市民だった。サウジの政府の官僚たちは、私に─彼らには解決策をさぐる交渉に望む準備があるといい、そこにある泥沼には嵌りたくない─ともいう。しかし、フーシの勢力は…もしも(以前彼らがあった状態と同様に)領地を失うなら、それだけでシリアスになるに違いない。
「相手方は、政治的なコンセンサスを打ち立てることに問題を生じている」と国防大臣でもあるモハメッドは言う。「しかし、地上における損害と、国際的な圧力の継続に出逢ったなら、彼らは常に交渉にシリアスになるものだ。我々はこれを終わりにしようと試みている。」
UAE、クェート、サウジを訪れたこの旅のあいだに、私が会話をしたすべての官僚たちと同じく、モハメッドは、アメリカに対してこの地域を放棄しないでほしい、との希望を述べた。「そこには、リーダーのいる時もあり…いない時もある。そして、リーダーがいない時には、カオスが引き続くものなのだ…。」
http://www.nytimes.com/2015/11/25/opinion/letter-from-saudi-arabia.html?rref=collection%2Fcolumn%2FThomas%20L.%20Friedman&_r=0
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■異例の任命、「独断」の批判
「この記念日に改めて忠誠を誓う」。1月23日、サルマン国王の即位から1年を迎えたサウジの首都リヤドには、こんな一節を添えた国王の巨大な肖像写真が並んだ。銀行や料理店、ショッピングモール。張り出したのは、政府ではなく有力王族などが経営する企業だ。多くの場合、欧米の研究者が「MBS(ムハンマド・ビン・サルマンの頭文字)」と呼ぶムハンマド副皇太子の肖像写真も一緒だ。
重々しい「忠誠」の言葉が掲げられたのは、新国王による人事に対して一部から生じていた「疑義」の裏返しにもみえる。
昨年1月に即位した国王は4月、前国王が「決して覆してはならない」と勅令で指名していたムクリン皇太子(70)を突然解任した。おいのムハンマド・ナエフ王子(56)を皇太子に据え、息子のムハンマド氏を副皇太子にした。年齢の近い異母兄弟への王位継承が続いていたサウジで、この人事は国王が属する有力王族「スデイリ家」の権力固めと受け止められた。
特に、目立った実績がなかったムハンマド副皇太子の任命は波紋を広げた。ムハンマド副皇太子は国王の息子たちのなかでは珍しく欧米への留学経験がない。人物像は謎に満ち、SNSで「粗野な問題児」と指摘する投稿も相次いだ。昨年3月に始めたイエメンへの軍事介入が長引くと、批判は強まった。国防相を兼ねる同副皇太子の「実績づくり」との指摘が当初から出ていたためだ。
副皇太子は今年1月、イランとの外交関係断絶に踏み切ったサウジの決定にも関わったとみられ、その姿勢を「独断専行」「冒険主義的」と報じた欧米メディアは少なくない。
■聖域にメス、評価も
だがサウジ国内では、ムハンマド副皇太子を「若き改革者」と評する声もある。
昨年末、政府はガソリンや電気、水道料金の大幅値上げを発表。年約1千億ドル(約11兆7千億円)を超えるとされるバラマキによる料金抑制を縮小し、痛みを伴う改革に踏み込んだ。
改革のとりまとめ役を担ったとされるのがムハンマド副皇太子だ。22閣僚を束ねる「経済・開発評議会」の委員長を務め、民間企業の意見にも耳を傾けながら案を練ったという。
サウジの大手投資銀行ジャドワ・インベストメントのチーフエコノミスト、ファハド・トゥルキ氏は「家計や企業に短期的打撃はあるが、長期的には欠かせない政策だ」と評価する。
ムハンマド副皇太子は1月発行の英誌エコノミストのインタビューで、国営石油会社サウジアラムコの一部株式を公開する考えも明かし、その理由を「腐敗をなくすため」と述べた。同社は王族の利権が絡むサウジの「聖域」。そこに切り込む姿勢は、改革への本気度を印象づけた。
日本貿易振興機構(ジェトロ)の三束尚志リヤド所長は「副皇太子は王族や官僚に加え、米英のコンサルタントと議論して決断を下していると聞く。決して独断専行型ではない」と評する。
一方、国防相として安全保障も担う副皇太子は、国交断絶で緊張が高まったイランとの関係について「サウジはイランと戦争しない」と述べ、欧米メディアの懸念を否定した。
■財政・外交、難しいかじ取り
新婚旅行で日本を訪れたことがあり、日本のアニメにも詳しい親日家としての顔も持つムハンマド副皇太子。その手腕は、原油輸入の3割をサウジに頼る日本のエネルギー政策にも影響を与えかねない。
サウジは歳入の8割以上を石油の輸出に頼る。だが、この30年で人口が4倍に急増したのに伴って石油の国内消費が増え、あと20年前後で「石油輸入国になる」との試算もある。サウジが発表した2016年予算は、10兆円以上の財政赤字を見込む。原油安が続けば、赤字幅はさらに拡大する。
一方、米国が中東への関与を減らすなか、サウジは14年に65億ドルを武器購入に投じ、世界最大の武器輸入国となった。イエメンへの軍事介入の戦費は毎月数億ドル単位とされ、財政をさらに圧迫する。
改革に取り組むムハンマド副皇太子の姿勢があだになるとの見方も出始めている。中東の地政学に詳しいアナリスト、セオドア・カラシク氏は「急激な改革を進め、結果的に国家の崩壊を招いたソ連を思い起こさせる。性急な改革が国民の反発を招く恐れもある」と警告する。
(リヤド=渡辺淳基)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12194637.html?_requesturl=articles%2FDA3S12194637.html&rm=150
モハメッド副皇太子の関連記事1
若き剛腕、サウジけん引 30歳副皇太子、軍事・経済動かす(朝日新聞、2016/2/5)
中東の大国サウジアラビアのサルマン国王が即位して1年がたった。イエメンへの軍事介入やイランとの断交など強硬な姿勢が目立つ新体制で、政府の「顔」として頭角を現したのが国王の七男ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子(30)だ。国防相として軍を動かす一方、経済政策にも影響力を持つ。謎めいた若き指導者の実像を追った。若き剛腕、サウジけん引 30歳副皇太子、軍事・経済動かす(朝日新聞、2016/2/5)
■異例の任命、「独断」の批判
「この記念日に改めて忠誠を誓う」。1月23日、サルマン国王の即位から1年を迎えたサウジの首都リヤドには、こんな一節を添えた国王の巨大な肖像写真が並んだ。銀行や料理店、ショッピングモール。張り出したのは、政府ではなく有力王族などが経営する企業だ。多くの場合、欧米の研究者が「MBS(ムハンマド・ビン・サルマンの頭文字)」と呼ぶムハンマド副皇太子の肖像写真も一緒だ。
重々しい「忠誠」の言葉が掲げられたのは、新国王による人事に対して一部から生じていた「疑義」の裏返しにもみえる。
昨年1月に即位した国王は4月、前国王が「決して覆してはならない」と勅令で指名していたムクリン皇太子(70)を突然解任した。おいのムハンマド・ナエフ王子(56)を皇太子に据え、息子のムハンマド氏を副皇太子にした。年齢の近い異母兄弟への王位継承が続いていたサウジで、この人事は国王が属する有力王族「スデイリ家」の権力固めと受け止められた。
特に、目立った実績がなかったムハンマド副皇太子の任命は波紋を広げた。ムハンマド副皇太子は国王の息子たちのなかでは珍しく欧米への留学経験がない。人物像は謎に満ち、SNSで「粗野な問題児」と指摘する投稿も相次いだ。昨年3月に始めたイエメンへの軍事介入が長引くと、批判は強まった。国防相を兼ねる同副皇太子の「実績づくり」との指摘が当初から出ていたためだ。
副皇太子は今年1月、イランとの外交関係断絶に踏み切ったサウジの決定にも関わったとみられ、その姿勢を「独断専行」「冒険主義的」と報じた欧米メディアは少なくない。
■聖域にメス、評価も
だがサウジ国内では、ムハンマド副皇太子を「若き改革者」と評する声もある。
昨年末、政府はガソリンや電気、水道料金の大幅値上げを発表。年約1千億ドル(約11兆7千億円)を超えるとされるバラマキによる料金抑制を縮小し、痛みを伴う改革に踏み込んだ。
改革のとりまとめ役を担ったとされるのがムハンマド副皇太子だ。22閣僚を束ねる「経済・開発評議会」の委員長を務め、民間企業の意見にも耳を傾けながら案を練ったという。
サウジの大手投資銀行ジャドワ・インベストメントのチーフエコノミスト、ファハド・トゥルキ氏は「家計や企業に短期的打撃はあるが、長期的には欠かせない政策だ」と評価する。
ムハンマド副皇太子は1月発行の英誌エコノミストのインタビューで、国営石油会社サウジアラムコの一部株式を公開する考えも明かし、その理由を「腐敗をなくすため」と述べた。同社は王族の利権が絡むサウジの「聖域」。そこに切り込む姿勢は、改革への本気度を印象づけた。
日本貿易振興機構(ジェトロ)の三束尚志リヤド所長は「副皇太子は王族や官僚に加え、米英のコンサルタントと議論して決断を下していると聞く。決して独断専行型ではない」と評する。
一方、国防相として安全保障も担う副皇太子は、国交断絶で緊張が高まったイランとの関係について「サウジはイランと戦争しない」と述べ、欧米メディアの懸念を否定した。
■財政・外交、難しいかじ取り
新婚旅行で日本を訪れたことがあり、日本のアニメにも詳しい親日家としての顔も持つムハンマド副皇太子。その手腕は、原油輸入の3割をサウジに頼る日本のエネルギー政策にも影響を与えかねない。
サウジは歳入の8割以上を石油の輸出に頼る。だが、この30年で人口が4倍に急増したのに伴って石油の国内消費が増え、あと20年前後で「石油輸入国になる」との試算もある。サウジが発表した2016年予算は、10兆円以上の財政赤字を見込む。原油安が続けば、赤字幅はさらに拡大する。
一方、米国が中東への関与を減らすなか、サウジは14年に65億ドルを武器購入に投じ、世界最大の武器輸入国となった。イエメンへの軍事介入の戦費は毎月数億ドル単位とされ、財政をさらに圧迫する。
改革に取り組むムハンマド副皇太子の姿勢があだになるとの見方も出始めている。中東の地政学に詳しいアナリスト、セオドア・カラシク氏は「急激な改革を進め、結果的に国家の崩壊を招いたソ連を思い起こさせる。性急な改革が国民の反発を招く恐れもある」と警告する。
(リヤド=渡辺淳基)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12194637.html?_requesturl=articles%2FDA3S12194637.html&rm=150
モハメッド副皇太子の関連記事2
サウジ副皇太子が存在感 シリアや原油、主要政策動かす(2016/2/22 日経新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM08H9P_R20C16A2FF8000/
モハメッド副皇太子の関連記事3(転載)
石油王のサウジアラビア、一気に石油に依存した経済からの脱却を目指す(2016・1/23 International Business Times)
サウジ副皇太子が存在感 シリアや原油、主要政策動かす(2016/2/22 日経新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM08H9P_R20C16A2FF8000/
モハメッド副皇太子の関連記事3(転載)
石油王のサウジアラビア、一気に石油に依存した経済からの脱却を目指す(2016・1/23 International Business Times)
サウジアラビアは、今週開催されている世界経済フォーラムにおいて、外国からの直接投資を誘致しようとアピールしている。新工場の
建設、銀行業や健康産業の促進等、外国資本が流入し、失業者のために何百万もの仕事を創出してくれることを歓迎している。同国は、石油に依存した経済から
抜け出したいと考えている。
サウジアラビアの国営石油企業、サウジアラムコの取締役会を統括するハリード・アル・ファリ(Khalid al-Falih)氏は21日、スイスのダボスで開催されたパネルディスカッションの中で、「私たちは、外国からの直接投資を大きく受け入れようとしてい る。(投資家の条件としては、)サウジアラビアにおけるこれからの発展を利用する意志があることが重要である」と述べた。同氏は、サウジアラビアの健康相 でもある。
サウジアラビア政府は、石油に依存した経済を多角化させるべきだという圧力に直面している。原油価格はここ18か月で70%下落し、今週は1バレル 27米ドル近くまで下がった。石油輸出から得る同国の収益は、急降下している。政府は、今年における財政赤字として870億米ドルを見込むと述べた。同国 における国内総生産(GDP)の13.3%に相当する金額である。昨年の財政赤字は980億米ドルであった。
サウジアラビアの指導者たちは、経済を石油以外へシフトさせようと、数十年間にわたって試みてきた。しかし、そのほとんどは成功していない。採掘、 観光、石油化学、および金融サービスといった石油以外のセクターを発展させようとした試みは、堅実で大きな石油収益という壁に直面することが少なくなかっ た。サウジアラビアの収益の80%は石油が占めている。
経済開発評議会議長を務めるムハンマド・ビン・サルマーン(Mohammed bin Salman)副皇太子は今年、いくつかの国営セクターの民営化、医療・教育・軍事部門における公共支出の大幅削減など、全面的な改革を導入することを誓約した。
世界最大のエネルギー企業であるサウジアラムコは、株の一部を資本市場で販売することや、収益を上げるために複数の子会社を上場することを検討しているという。今月初め、同社は正式にそのことを認めた。
2015年4月までサウジアラムコの社長兼CEOを務めていたアル・ファリ氏は21日、ダボスの委員会で副皇太子の戦略を賞賛し、「私たちは改革を加速させている。副皇太子には、サウジアラビアをいち早くあるべき姿にしようとする野心がある」と述べた。
同氏によると、政府の計画には、外国人労働者によって担われている役割をサウジアラビア国民自身が引き継げるように、国民を訓練することも含む可能 性がある。現在、同国における労働力の半分以上は、数千万人もの非サウジアラビア労働者が占める。その多くは最低賃金で一時契約として雇用されている。同 氏は、サウジアラビアは調薬、医療機器、医療サービスといった領域における輸入を減らし、国内生産を拡張することもできると述べた。
12月にマッキンゼー・グローバル・インスティテュートが公開したレポートによると、サウジアラビアへの外国からの直接投資は、2003年から2013年の10年間で、約3,000億米ドルだった。
しかし、近年については、外国からの直接投資のフローが減少している。地域の社会的および政治的緊張が高まっていることや、サウジアラビアの法規や 保守的な文化の影響である。同国では、男性従業員と女性従業員を職場で別々にすることが求められている。世界銀行は昨年、「ビジネスのやりやすさ」につい て、サウジアラビアを189か国中89位であると位置づけた。
国連の「2015年 世界投資報告(2015 World Investment Report)」によると、2014年、サウジアラビアへの外国からの直接投資は、総額で約80億米ドルであった。2012年における直接投資は122億 米ドルであり、34.4%減少したことになる。
ロシア直接投資ファンド(the Russian Direct Investment Fund)のCEOを務めるロシア人事業家、キリル・ドミトリエフKirill Dmitriev氏は、「ロシアはサウジアラビアの多角化戦略を利用したがっている」と指摘した。同氏はダボスの委員会で、「私たちロシアは、いくつかの プロジェクトに投資したがるでしょう」と述べた。同氏はサウジアラビアの観光部門に注目し、イスラム教の聖地・メッカ周辺のインフラ拡大を潜在的な投資分 野として挙げた。
ドミトリエフ氏は「私たちが目撃しているのは、石油から脱却して、多角化していくという本当に興味深い試みである。それは、とても急速に動いている」と述べた。
たとえそうでも、アル・ファリ氏は、サウジアラビアが世界最大の石油輸出国としての地位を明け渡すつもりはまったくないことを明確にした。同国は、世界の石油市場の10分の1以上をコントロールし、世界の石油埋蔵量の約20%を保持する。
サウジアラビアは、仲間のOPECメンバーや他の石油産出国から、1日当たりの石油生産量を減らすようにと圧力をかけられている。石油供給のだぶつきを緩和することにより、石油価格を押し上げるためである。
ベネズエラとエクアドルは、6月に予定されているカルテル内の石油生産見直し会議に先駆けて、緊急集会を要求してきた。これらの国々は、サウジアラ ビア同様、石油価格の急落の影響を受けて、石油輸出による収益が蒸発している。結果として、政府は公共支出を減らし、インフラプロジェクトを延期せざる得 なくなった。
しかし、サウジアラビアだけは、石油市場の低迷を切り抜けるための外貨準備高として、6,000億米ドルを保持している。
アル・ファリ氏は、「私たちは、他の人たちのために余地を作るためだからという理由では、(石油)生産を減らすことを受け入れないでしょう」と述べた。
*この記事は、米国版International Business Timesの記事を日本向けに抄訳したものです。(原文記事: MARIA GALLUCCI記者:「World Economic Forum: Saudi Arabia Is ‘Opening The Door’ To Foreign Investment As Kingdom Aims To Break Oil Addiction」)
http://jp.ibtimes.com/articles/1637048サウジアラビアの国営石油企業、サウジアラムコの取締役会を統括するハリード・アル・ファリ(Khalid al-Falih)氏は21日、スイスのダボスで開催されたパネルディスカッションの中で、「私たちは、外国からの直接投資を大きく受け入れようとしてい る。(投資家の条件としては、)サウジアラビアにおけるこれからの発展を利用する意志があることが重要である」と述べた。同氏は、サウジアラビアの健康相 でもある。
サウジアラビア政府は、石油に依存した経済を多角化させるべきだという圧力に直面している。原油価格はここ18か月で70%下落し、今週は1バレル 27米ドル近くまで下がった。石油輸出から得る同国の収益は、急降下している。政府は、今年における財政赤字として870億米ドルを見込むと述べた。同国 における国内総生産(GDP)の13.3%に相当する金額である。昨年の財政赤字は980億米ドルであった。
サウジアラビアの指導者たちは、経済を石油以外へシフトさせようと、数十年間にわたって試みてきた。しかし、そのほとんどは成功していない。採掘、 観光、石油化学、および金融サービスといった石油以外のセクターを発展させようとした試みは、堅実で大きな石油収益という壁に直面することが少なくなかっ た。サウジアラビアの収益の80%は石油が占めている。
経済開発評議会議長を務めるムハンマド・ビン・サルマーン(Mohammed bin Salman)副皇太子は今年、いくつかの国営セクターの民営化、医療・教育・軍事部門における公共支出の大幅削減など、全面的な改革を導入することを誓約した。
世界最大のエネルギー企業であるサウジアラムコは、株の一部を資本市場で販売することや、収益を上げるために複数の子会社を上場することを検討しているという。今月初め、同社は正式にそのことを認めた。
2015年4月までサウジアラムコの社長兼CEOを務めていたアル・ファリ氏は21日、ダボスの委員会で副皇太子の戦略を賞賛し、「私たちは改革を加速させている。副皇太子には、サウジアラビアをいち早くあるべき姿にしようとする野心がある」と述べた。
同氏によると、政府の計画には、外国人労働者によって担われている役割をサウジアラビア国民自身が引き継げるように、国民を訓練することも含む可能 性がある。現在、同国における労働力の半分以上は、数千万人もの非サウジアラビア労働者が占める。その多くは最低賃金で一時契約として雇用されている。同 氏は、サウジアラビアは調薬、医療機器、医療サービスといった領域における輸入を減らし、国内生産を拡張することもできると述べた。
12月にマッキンゼー・グローバル・インスティテュートが公開したレポートによると、サウジアラビアへの外国からの直接投資は、2003年から2013年の10年間で、約3,000億米ドルだった。
しかし、近年については、外国からの直接投資のフローが減少している。地域の社会的および政治的緊張が高まっていることや、サウジアラビアの法規や 保守的な文化の影響である。同国では、男性従業員と女性従業員を職場で別々にすることが求められている。世界銀行は昨年、「ビジネスのやりやすさ」につい て、サウジアラビアを189か国中89位であると位置づけた。
国連の「2015年 世界投資報告(2015 World Investment Report)」によると、2014年、サウジアラビアへの外国からの直接投資は、総額で約80億米ドルであった。2012年における直接投資は122億 米ドルであり、34.4%減少したことになる。
ロシア直接投資ファンド(the Russian Direct Investment Fund)のCEOを務めるロシア人事業家、キリル・ドミトリエフKirill Dmitriev氏は、「ロシアはサウジアラビアの多角化戦略を利用したがっている」と指摘した。同氏はダボスの委員会で、「私たちロシアは、いくつかの プロジェクトに投資したがるでしょう」と述べた。同氏はサウジアラビアの観光部門に注目し、イスラム教の聖地・メッカ周辺のインフラ拡大を潜在的な投資分 野として挙げた。
ドミトリエフ氏は「私たちが目撃しているのは、石油から脱却して、多角化していくという本当に興味深い試みである。それは、とても急速に動いている」と述べた。
たとえそうでも、アル・ファリ氏は、サウジアラビアが世界最大の石油輸出国としての地位を明け渡すつもりはまったくないことを明確にした。同国は、世界の石油市場の10分の1以上をコントロールし、世界の石油埋蔵量の約20%を保持する。
サウジアラビアは、仲間のOPECメンバーや他の石油産出国から、1日当たりの石油生産量を減らすようにと圧力をかけられている。石油供給のだぶつきを緩和することにより、石油価格を押し上げるためである。
ベネズエラとエクアドルは、6月に予定されているカルテル内の石油生産見直し会議に先駆けて、緊急集会を要求してきた。これらの国々は、サウジアラ ビア同様、石油価格の急落の影響を受けて、石油輸出による収益が蒸発している。結果として、政府は公共支出を減らし、インフラプロジェクトを延期せざる得 なくなった。
しかし、サウジアラビアだけは、石油市場の低迷を切り抜けるための外貨準備高として、6,000億米ドルを保持している。
アル・ファリ氏は、「私たちは、他の人たちのために余地を作るためだからという理由では、(石油)生産を減らすことを受け入れないでしょう」と述べた。
*この記事は、米国版International Business Timesの記事を日本向けに抄訳したものです。(原文記事: MARIA GALLUCCI記者:「World Economic Forum: Saudi Arabia Is ‘Opening The Door’ To Foreign Investment As Kingdom Aims To Break Oil Addiction」)
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