「アフガニスタンでの麻薬戦争に勝利する方法」 By クリストファー・ヒッチンズ
─タリバンから麻薬密売の利益を奪い去る一番よい方法とは何か?それはアメリカがアフガニスタンからケシ畑を一掃しようとする努力をするかわりに、そのケシの種を全部買い取ることだ─
Christopher Hitchens
私はかつて、アフガニスタンの英国大使、シェラルド・カウパー-コールズ卿を知っていたのだが、彼のいった言葉は、フランスの代理大使から漏洩された電報に引用され、それ以来パリっ子の報道メディアにも掲載された─私はその言葉には疑いをはさんでいない。私は彼の述べた見解…「タリバンと、その他の原理主義グループ、そして犯罪者からなる勢力に対する正面きった軍事的勝利というものはありえない」といった事は正しいと思う─ こうした勢力の混合部隊というものが、この国でのNATO同盟による統治を不可能にしているのだ。
彼はまた、この国における軍事部隊の増強が歓迎されざる、かつ、意図しない結果を生む可能性についても議論している─ 「それは彼らにとって、我々自身を占領者勢力としてより強く認識させ、それによって我々が彼らのターゲットとして狙われる危険性を何倍にも増大させるだろう」と。彼のこの見解もまた、正しいと思う。
アフガニスタンとイラクの情勢がお互いに証明しあっている事があるなら、反乱勢力に対する対策における量的な理論が、不健全な論拠に基づいている、という事だろう。もしも、破滅的に指揮されたこの戦争に、新たな戦略と新たな指揮命令が与えられる以前に、莫大な数の追加部隊をバグダッドに送れば、それは穴を掘るのをやめずに同じ穴の中にとどまることを意味するし(そしてそこにはより沢山の「遺体袋」が、同じ軍服を着たターゲットとなる兵士部隊の増強がもたらした結果として、生じる事だろう)
そのようにして、我々はイラクでアル・カイダをいかに打倒するかに関し多くのレッスンで学んだ事を、アフガニスタンで活用するチャンスを得るだろう。これはまさに─アフガンでの「正しい戦争」を、メソポタミアでの悪しき泥沼戦争に対比させた、口先だけの生易しい議論とは反対の理論だ。
泥沼についていえば、そこにはすこしばかりの量的な数値(尊敬されているInternational Crisis Groupのマーク・シュナイダーが議会で行った証言中に示したデータ)がある。彼は統合参謀のマイク・ミュレンが、アフガニスタンでの自爆テロが2007年には2006年の27%増であったと報告したことを引用して、ミュレンはさらにそれが2005年に対し600%増であったこと、そしてすべての反乱勢力の攻撃件数が2005年の400%増であったことも、付け加えるべきだったといった。
この統計的な数値をさらに悪くすることとして-この証言は昨年の春に行われたものだが─ 世界食糧計画のリリーフ・ワーカーのコンボイへの数重なる攻撃、有力なアフガン女性達に対する攻撃に関するデータも加えるべきだということがある。
これらすべての攻撃件数は継続的に上昇曲線を描いている─それはタリバンの攻撃能力が同様に上昇曲線を描き、パキスタン国境をまたいで、他の都市同様に、首都の中心部(特にその古い要塞拠点であるカンダハルなど)を攻撃する能力を増していることと呼応している。
落胆を覚えさせる最後の数値は、NATOの空爆による市民の犠牲者数である:今年もその数値は大きく増加しており、それはサー・シェラルド が表明した暗い見解、つまり現今の米軍主導の戦略が「失敗の運命にある」という見解の底流の主要な懸念となっているものだ。
この失意をもたらす観測を形作るのは沢山のファクターだが、その多くの部分は、アフガニスタンが幾度もの内戦と部族間対立によって自らの大地を焦土と化し、今も極度の貧困状態にあるという事実がある。私は1,2年前に、国連機でヘラートからカブールまで飛んだ際に、その土色の大地の風景に緑の色彩が極度に少なかったことに失望した事を思い出す。30年前にアフガニスタンの最も有名な輸出商品とは何だったか?それはぶどうだった─ つねに、インド亜大陸で非常に高品質なぶどうとして尊重されていたものだ。この国はぶどう棚と果樹園の国だった。今、それらのぶどうの蔓や木すらが、殆どが燃料用に切り倒されてしまった。イラクは10年以内に非常に富裕な国になるかもしれないが、アフガニスタンははるかに遅れており、「第三世界」という経済用語の適用さえはるか先になりそうである。
これは特に我々にとって奇妙な事実─ (変だったり 殆ど自殺的でないとすれば)この国の収入経済が我々の敵によって今後も支配され続けるという奇妙な主張がされる理由だ。
国連の麻薬犯罪課は、昨年、アフガニスタンのケシ畑が193,000ヘクタールあり、世界のアヘンの93%を生産していると発表した。生産能力でいえば82億トンに値する。そして驚くなかれ、UNODCはさらにこの驚くべき量の収穫による利益がタリバンと地方の戦争領主、そしてムラー(MULLAH)たちに直接渡っていると報告している。
そんな中で、解放者の蓑を被ったNATO軍が現れて、アフガンの農民たちに彼ら自身の作物を焼くように迫る。そして米国大使館はこの同じ作物を空から撒く行為をアフガン政府によってのみ制止されている。
言い換えれば、リチャード・ニクソンによる、信用を失墜した"War on Drugs" という語が、いま、タリバンを生みアルカイダをはぐくんだ国に対して我々が賭けをし、その国を失うこととなる賭けの、教理(ドグマ)とされている、ということだ。
確かに、より賢い戦略とは、長期的にみれば、森林植栽に多くの投資をし、特にぶどうの樹を再度、植樹する事だろう。しかし短期的にみれば、強く圧迫されたアフガンの農民達に、彼らのアヘンを、タリバンの隆盛だけに役立てる犯罪者勢力だけでなく、政府に対して売ることを許可することだろう。我々は一旦それを買い取れば、もうそれを吸飲する必要はない。それは焼却するか廃棄されるか、おそらくより利益のあがる方法で、米国で今品不足となっている鎮痛剤の製造に用いられるだろう。
(そのように、我々はトルコに対し、その特定の目的でアヘン用のケシ栽培を許可しているのだ。)何故、トルコのかわりに、アフガニスタン政府にその許可を与えないのか。この一打によって、我々はこの国の金庫の中身を一杯にさせ、敵の戦争経済の引き出しを空にすることができる─そして米国から絶えて失われていた「ハート・アンド・マインド」のバランスを取り戻す事が出来るだろう。
私はこのオプションは、アフガニスタン自体の内部の上層部で議論されていることを偶然に知ったのだが、あなたにこれを議論してもらいたい─ アメリカの公衆のなかで何かの政治的抑制のようなものがその事に対する議論を妨害しているかもしれない事を。
しかしもしも我々が、我々が一度は開放したはずのこの国を何故失ったか、についての憂鬱な死因審問を行う必要があるなら、それは一つの議論が開始される場所となるだろう。
http://www.slate.com/id/2201622/
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