Thursday, January 26, 2012

民主的なエジプトの船出? 象が飛ぶのを見守る Watching Elephants Fly- By Thomas Friedman

"サラフィ主義政党までもが、
25%の議席を獲得した"
The Salafists' election wins have
surprised many Egyptians

1月23日エジプトでは、60年来初の自由選挙で選ばれた、
新らしい民主的議会が船出した─

Watching Elephants Fly(象たちが飛ぶのを見守る) By トーマス・L.フリードマン(1/7, NYタイムス)

 いつの日にか私は是非、今ちょうど1周年を迎えているエジプトの民衆の反乱を論ずるジャーナリズムのコースを考えたいものだ。初回のクラスの内容は、このようになるだろう: あなたは象が飛ぶのを見たなら、常に何も言わずノートをとるべきだ。エジプトで起きた反乱とは、象が飛ぶようなものだ。誰もそれを予測しておらず、それを見たこともなかった。予測もしていなかったものがどこへ行くのかを、誰が知っているだろう?だから今は、何も言わずにとにかく口を閉ざしてノートをとることが最もスマートだ。

  もしそうするなら、あなたが最初にノートに書くことは、イスラミスト政党(原理主義政党)の党員たち…即ちムスリム同胞団やサラフィ主義のAl Nour党員たちが世俗主義政党のリベラルたちを下して、エジプトの自由議会選挙で65%の議席を獲得し、ここで実際に反乱の火花を散らしたことだ。神権主義的で反・多文化主義的、女性の権利には反対する、外国人嫌いのこうしたイスラミスト政党の傾向を懸念しないのは無謀でナイーブすぎる。しかし、この国の新たな権力の中心を争って権力を掌握した彼らの責任や、国民に雇用やクリーンな政府を提供せねばならない主要課題に激突して彼らが穏健化すると思わないなら、今日のエジプトの政治的ダイナミズムを見過ごすのも同じことだ。

 私と一緒に、水曜日に私が訪ねたカイロの赤貧地区Shubra el-Khemaの、Omar Abdel Aziz schoolのぼろぼろの校舎の女性専用投票所を訪れてみるがいい…私はそこで、最後の決選投票の様子をみていた。我々は、22歳の商業科の学生で、昨年タハリール広場でHosni Mubarakの政権を倒そうと闘った、低所得地域出身の世俗主義の若者Amr Hassanのガイドでそこを訪れていた。衝撃的だったこととは─ 票を投じた後にインタビューした女性たちが悉くムスリム同胞団かサラフィー主義者に投票した、と答えたことだ(彼女らは皆ベールを被るか、目だけをスリットから出していたが)しかし彼女らの中に、宗教的な理由で彼らに投票した、という女性はほとんどいなかった。

 多くの人が、イスラミスト政党に票を投じた理由とは、彼らがその地域に住む隣人で顔見知りの人々だったからだという…リベラルな世俗主義政党の候補者たちは一度もその地域を訪れたことがなかったという。年配の文盲の女性らのなかには、投票用紙を読めないために、子供らのいうままに候補者に票を投じた、と認めた人たちもいたが。しかし現実的に、彼女らのすべてがムスリム同胞団かサラフィストの候補者に対して、よりよい誠実な政府を期待できるがゆえ(…より多くのモスク建設や、飲酒禁止令ではなく)彼らに投票したのだと語った。

  ここに一人のエジプト女性が、なぜイスラミスト政党に投票したかのインタビューがある: 「私はムスリム同胞団が好きなのだ、彼らだけが誠実な人たちだ…私はもっとよい教育政策を望むし、きれいな空気が吸いたい。私たちには適切な医療福祉制度が必要だ… 私は、私の子供たちにきちんと教育を受けさせたい…彼らには仕事がない。ムスリム同胞団は単なるイスラミストの政党ではなくて、この国のすべての問題の解決に寄与するだろう。我々は若者がもっと働いて、昇給してもらえるようになってほしい…この国の教育は、悪化するばかりだ。私が一番怖れていることは、治安の問題だ。我々は家にいるときも怖がっている。我々は息子たちが学校と家を往復する間に誘拐されるのではないか、と怖れている」

 そんな中で私は、我々のガイドの若い革命運動家Hassanに、彼が誰に投票したのかを尋ねてみた。彼は彼の投票用紙に「SCAFを打ち倒せ」、と書いたという─SCAFとは現在国を治めるエジプト軍の評議会だ。彼は、彼のような世俗的若者たちがムバラク政権を転覆させている間に、イスラミストの政党が選挙戦に立候補し、軍の司令官たち(彼らは自分たちの保身のために、ムバラクを見捨てたのだ…)が未だに政権に留まっている状況への嫌悪感を吐き捨てるように口にした!

  そしてそこに、エジプトの今日がある─ 軍部と、上り調子のイスラミスト政党と、より小さなリベラル政党、そしてタハリール広場の世俗的な若者たちの間の、4日間の勢力争いだ。彼らのすべてが、この物語の展開の行く末について意見をいうことだろう。「我々は、新しい考え方をもつ新しいエジプト政府を望んでいる」とハッサンはいった。「自分は、必要ならばいつでも再び、タハリール広場に戻る用意がある」。


人々は物価や雇用・治安への対策を求めた
   無論、いまや誰もが一層力を得たようにも感じている。軍は武力を維持しつつ、いまや国を治めている。イスラミスト政党もリベラル主義者も共に、選挙民からの委託票を獲得した。そしてタハリール広場の世俗的な若者たちは、大衆の支持を得ていると感じている─ もの事がうまくいっていないと感じたときには、いつでも闘うために仲間を動員できる…という彼らの能力が証明されたことによって。いまやこの国の「ソファに座っている党(The Party of the Couch)」と呼ばれるサイレント・マジョリティでさえもがより一層力を得たように感じ、選挙でも多くの票を投じたのだ。


会議場へ入る議員ら
   選挙についての私のお気に入りのエピソードとは、選挙の内部オブザーバーが私に語ってくれた話だ(彼は匿名を希望しているのだが)。彼の投票所がちょうど閉まり、投票用紙の詰まった箱を投票所のワーカーたちが中央の開票所に運ぶべくバスに積みこんでいると、投票を終えたばかりの一人のエジプト人女性が叫んだという、「お願いだからその投票箱を、ひとつだけ置き去りにしたりしないで。それは私たちの未来なのだから…確実に運んで、正しい場所に置いてきてほしい」、と。

ムスリム同胞団の女性議員たち
Brotherhood's female parliamentalians

 その投票箱と、多くの平均的なエジプト人たちの手でそこに詰められたすべて希望は、この国の新たな始まりにとって確かに必要なものだ。でも、まだそれは充分ではない。この国にはリーダーが必要だ─この国のトップには、いまだに大きな真空がある─これらのすべての票を、すべての希望を引き受け、すべてのエジプト人が明らかに渇望している雇用や教育制度、司法制度や治安を生み出す戦略へと融合できるような誰かが。もしそれが起こるなら、これらの投票箱は真に、エジプトにこれまでとは違う未来をもたらすだろう。それまで私はただ、ノートをとるだけだ。
http://www.nytimes.com/2012/01/08/opinion/sunday/friedman-watching-elephants-fly.html?ref=thomaslfriedman
 *ここで触れている「ガイドの若い革命家のHassan」の言葉…若者の行った革命が軍や原理主義勢力に乗っ取られつつあるとの話は、最近「アラブの春」全般について語られがちでもある…


エジプト議会選最終結果 ムスリム同胞団系47%で第1党 (1/21, Sankei)

 エジプトの選管当局は21日、昨年11月から今年1月にかけて行われた人民議会(下院に相当、公選議席498)選の最終結果を発表、同国最大のイスラム原理主義組織ムスリム同胞団傘下の自由公正党が、全体の約47%にあたる235議席を獲得し第1党となった。
 イスラム教の原点回帰を唱えるサラフ主義政党「ヌール党」は事前の予想を大きく上回り約25%を確保して第2党に躍進。主要なイスラム政党2党だけで全議席の7割超を占める結果となった。

 世俗主義政党では、中道右派の新ワフド党が約8%、政党連合「エジプト連合」が約7%の議席にとどまった。昨年2月のムバラク政権崩壊後で初となる新議会は23日に招集され、今後は新憲法の起草に関与する。議長ポストは自由公正党が得る見通し。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120121/mds12012123110007-n1.htm

エジプトで最初に民主的に選ばれた議会の混沌とした門出(1/24、NYタイムス)

 (抜粋)月曜日に、エジプトで60年来初めての自由選挙で選ばれた議会のオープニング・セッションが開かれたが、ムスリム同胞団は議長選出のための討論が罵り合いに発展するなかで、デモクラシーの扱いにくさを体験して、その日のムードに水をさした。同胞団の選ぶ、彼らの屈強なる議長候補Saad el-Katatniが、対する挑戦者を'400票'対'100票以下'の大差でうち負かすまでに夕方までを要した。…「この議長選挙において意見の違いのあることが示されつつ自分が選ばれたプロセス自体が、人々のつかんだデモクラシーだ」と、el-Katatniは演説した…

 会議場の周りの道路では、ちょうど1ヶ月前に治安勢力と抵抗者たちが軍支配に抵抗して激しく衝突した印を消すために、ペンキが塗り替えられていた。しかしお昼頃には数千人の他の群集が到着し、その多くは軍の支配者たちに即座に退陣せよと叫びを上げた─ムスリム同胞団はその要求を支持してはいないが…彼らは軍が6月末に新たに選ばれるはずの大統領に権力移譲するプランを受け容れている…

 同党の100人を超すメンバーたちは、新しいリーダーたちへの応援の声を上げつつ、いかなる暴力沙汰も阻止すべく早朝から議会の外に集まっていた。カイロ市中のテレビ画面では、新政府の国営チャンネルが議会内部の様子をライブで映し出し、C-Span(*米国の議会中継TV)のエジプト版といった様相を呈した。すると、新たな立法議員たちが彼らの誓いの宣誓を終えぬうちに分裂が映し出された。タハリール広場における反・Mubarak運動のリーダーだったZiad el-Elaimyは、現在は社会民主党の議員だが、通常のエジプトの国家と憲法への誓いを述べる代わりに、革命への誓いを述べた。 サラフィストの党(25%の議席を得た第2党)の議員らの中には、イスラム法への忠誠の誓いを付け加えようとする者たちがいた…議会の最初のセッションを仕切っていたリベラル派ラフード党の81歳の最長老議員Mahmoud el Sakkaは、即興的な発言をする者たちを黙らせようと繰り返し叫んで、妨害した。

 新たな自由公正党(*ムスリム同胞団の政党)は先週、各党にわたる合意でKatatnyが議長になる事を宣言していたが、同胞団の前幹部のEssam Sultanには、異なるプランがあった。彼は1990年代半ばに同胞団とは袂を分かち、宗教と離れた新党を立ち上げて、若いグループや幾人かの改革主義者のリーダーたちといった増加する同胞団の離反者をひきつけてきた。

  こうした離反者の一人が、今はシリアスな大統領候補であるAddel Moneim Aboul Fotoughである。このところ、Sultan氏はリベラル派の各党とサラフィスト・グループをはぎ合わせ、同胞団が牛耳る議会に対抗する連合の設立努力に力を貸していた…
 ─彼はいたずらっぽい笑みを浮かべて議場に現れると、月曜日にはKatatny氏と対抗して議長に立候補する、と述べた。Sakka氏は即座に彼に黙るようにと叫び、ムバラク時代の議会ルールでは、議長が選出される前にその選出に関していかなる発言も禁じられている、という事を確認した。

 やがて同胞団の年長者であるMohamed el-Beltagyが、Sultanに対しSakkaのいうことをきくようにと叫び、同胞団メンバーらとSultanのWassat等のメンバーらが互いに罵倒しはじめた。すると幾人かの議員らのグループがSultanの弁護の側に回り、ルールや、議長の選挙を無視して討論することはエジプトの新たなデモクラシーに対する無視である、と論じた。「あなたは自由を要求し、デモクラシーについて喋っている。それはどこにある?」…同胞団に挑戦する独立派議員のYoussef el Bdryはこう述べ、彼はそれをムバラクの旧支配政党になぞらえた。最後には、Sakkaは革命の名の下にルールを曲げて、Sultanに短いスピーチを許した。そして、常に前もって運命付けられていた政治の場においてはこの60年間で初めて、少なくとも少々サスペンスのある結末が生じた…

http://www.nytimes.com/2012/01/24/world/middleeast/new-egypt-parliament-elects-islamist-from-muslim-brotherhood-as-speaker.html?sq=egypt

エジプト政治の新議会が、ラディカルな方向にシフト(1/22, Financial Times)

  (抜粋)エジプトで新たに選ばれた議会では、これまでムバラク政権下で力をふるっていた勢力が完全に一掃されて、21年間議長をつとめていたFathy Sorourがその座を去り、新たな議長Saad al Katatnyが選任された(Katatnyの所属するムスリム同胞団は、2010年11月の意図的な不正選挙によって、最近まで議会から排除されていた)。月曜日のセッションは、革命後のエジプトで初めて「不正操作なしに」選ばれた議会による、歴史的なセッションだった。

 そこではこれから先、イスラム原理主義者たちと軍の、どちらがより大きな権力を分け合うか…という情勢の不穏さを背景に─革命のなかから生まれた…より若くて冷たく冷えた、よりモダンな勢力が置き去りにされていた─ムバラク政権を倒した1月25日の革命において先頭に立っていた若い活動家たちは、水曜日の革命1周年にm軍の評議会が7月の大統領選を待たずに直ぐ政権を議会に移譲するよう要求して反対の声をあげた。─軍幹部らは、若者らを孤立させるために(そして権力移譲が、実質的にその途上にあると印象づけるために)、議会の開会セッションを1ヵ月以上も遅らせてきたのだ。

 「革命の若者同盟(the Coalition of the Youth of the Revolution)」のリーダーであるShady al-Ghazali Harbは、軍の役割と権力を規定して大統領を選出する新たな議会令によって、 軍の評議会は大きく権益を左右されると述べる。「我々は大統領の人選がイスラム原理主義者と軍の間での取引になってほしくはない。それゆえに、権力は、市民の手にあらねばならない」。「我々は議会の合法性に関しては疑問を抱いていないが、それは、彼らだけが権力移譲を支配できる、という意味ではない。議会の合法性は革命によって生まれたものであり、彼らは革命が要求するものには責任をもたねばならない」

 活動家らは、イスラム原理主義者たち(*同胞団など)が─若者グループを外国勢力の手先として中傷したり、市民に向かって武器を使用した軍評議会を非難するのに失敗したことに憤っている。同胞団は、軍の評議会を非難はしたが、自分たちが議会における主導勢力として台頭するチャンスを妨げぬよう、目だった対立を避けてきた。しかしアナリストらは、彼らと軍評議会は新たな力の分け合いに入っており、対立の可能性があるとしている…
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/c4cd4528-44f6-11e1-a719-00144feabdc0.html?ftcamp=rss#axzz1krpBBH9y

 (*西欧の影響でアラブ諸国が民主化する?というお気に入りの題材を得たトム・フリードマンは、コラムを連続で書いていた─ 
他のコラムでも、彼はこういっている:「サウジ・アラビアやイランなどはこれまで原理主義政権が支配しつつも…豊富な石油資源があるために、国民に厳格なイスラム原理主義を強いたり、欧米に肘鉄をくらわせるかのように核開発をしたり、女性を労働力から排除しながらも、一定以上の国民の生活水準は維持して、近代化の恩恵という贅沢も享受してきた…しかしエジプトにはそんな贅沢を享受できる石油資源というものがない」。
 「…エジプトでは今後、政治化したイスラム原理主義が石油資源なしに近代化とグローバリゼーションに取組まねばならないのだとしたら、いったい何が起こるのか?それは、いまだかつてないユニークな実験になるだろう…」)

Saad Al-Katatny, who becme speaker of Egyptian Parliament

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「ムスリム同胞団」のブギーマンを恐れるなかれ
http://hummingwordiniraq.blogspot.com/2011/02/fear-not-muslim-brotherhood-boogeyman.html


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