Tuesday, August 30, 2011

ノルウェー銃乱射事件への性急な回答 A Ridiculous Rapid Response: Why did so many "experts" declare the Oslo attacks to be the work of Islamic terrorists? By C.Hitchens


ばかげた性急な回答─なぜ、こんなに多くの"エキスパート"たちが、オスロの攻撃はイスラム過激派の仕業だと宣言するのか? By クリストファー・ヒッチンズ (7/24, Slate.com)

 オクラホマ・シティの爆破テロ事件から16年がたった今、我々は一般市民の大量虐殺がおきた際に、すぐさまその犯行の動機を究明しようと反応する癖を、もう少し洗練させているべきだったのだろう。ノルウェーにおける最近の事件において示された、数多くの対照的な要素というものは、その作業をより一層困難にする代わりに、わずかに容易にする。その最新の大惨事の現場に集ったコウモリやトロールたち、それに…Stieg LarssonやHenning Mankell筆者のSlateマガジンの同僚のコメンテーターら)などの人物を加えた多くの人々が、複数の爆発現場についてのより広範な見方を許容しつつも、犯行動機について論ずるための、幅広い分析材料を呈示している。

 世俗的なスカンジナビアの社会民主主義というものが、ここにある─それは現在、アフガニスタンとリビアの地において、西欧の軍事的努力を提供しているもの(NATO勢力として)でもある。これによって、事件の発生当初には、よりオーソドックスな保守派たちがその事と、事件との繋がりに関しても非難するに至った─しかし、たとえそのように勘ぐっても…たとえばノルウェーのジハード主義者たちのグループが…Muammar Qaddafiに対して、また彼の最近のNATO軍への自爆攻撃の呼びかけに対して共鳴しているといえるのか、どうかは分からない…。

 そしてさらに、死傷者を出したその攻撃とは、ノルウェーの与党による若者の運動に対して行われたものなのだ…その頑強なる多文化主義が生み出してくれる…堅固な砦のごとき「グッド・フィーリング(いい気分)」や、ムスリム移民たちに手を差し伸べよう、とする運動というものに、反抗したのだ。これはノルウェーを軍事的なチェスのゲームボードから外そうと奮闘する、テロ勢力の思い描くような第一の目的ではないかもしれない。

 すると再び、この大虐殺の第一容疑者、Anders Behring Breivikが、そこに…彼自身のジャレド・ラフナー(Jared Loughnerの読書リストをともなった完璧な姿で、ノルディック白人勢力の熱狂を背景に現れる。私は、ある人々が、Braivikのフリーメーソンかぶれを「右翼的」だとみなしている事を、印象的に思った。昔は…カソリックのファシズムは、メーソン主義者というものを、ユダヤ人と同じぐらい憎んでいたのだ。(たとえば、チリの大統領、Salvador Allendeはフリーメーソンだった…伝統的な左翼による教会の聖職者の権威への抵抗主義(anti-clericalism…それが死に絶えつつあることが、私には残念なのだが)の中に立ち上がって。そして最後に─それはこの鏡の荒野においては最後とはいえないかも知れないが─ Breivikは、彼自身が熱狂的なシオニスト支持者であり、あらゆるイスラム化を目の仇にしている、とも明確に宣言していた。この後者の側面とはもっと注目されてもよいことだ。ヨーロッパの本当の「ネオ・ナチ」ギャングいうものは、通常、彼らの死ぬほど露骨な反イスラム主義とともに、暴力的な反ユダヤ主義を抱いているものなのだが、オランダのGeert Wilders(*)の一党のような、反移民のポピュリスト政治家たちにしても、それぞれイスラエル擁護の立場に立とうとしているのだ─左翼の多文化主義者からの批判にも関わらず。

 こうしたさまざまな事柄に対する読み間違いや、そして似たようなインジケーター(指標)の数々により、オクラホマ・シティの事件以後におきた反イスラムの魔女狩りよりも一層の、知的なカオスが引き起こされている。スペインの与党の保守派たちは、これとは逆の間違いを犯して…国内のイベリア地方のギャング・グループが、ヨーロッパでの最も致命的な政治的・軍事的ジハード運動のひとつに責任があるのだと(…すなわち、NATO諸国での総選挙の結果に影響を及ぼした結果、イラクでの軍事同盟にも深刻なダメージを与えた"作戦"に関与しているのだという)、誤った非難をした。

 このことへの問いを表現する、ひとつの方法とはこうだ:過激なジハード主義者と、彼らにとってのもっとも毒のある敵対勢力というのは、本当に共生関係(symbiotic relations)をもっているのだろうか?ロンドンやハンブルグでのモスクの祈祷や礼拝のテープからは、あなたは女性を家財道具として扱う必要性への訴え(すなわちホモセクシュアリティの病を根絶するための)や、国際金融でのユダヤの戦略を妨げよとの訴え…その他の”第三帝国”的な思考のファンタジーがもたらす…すべてのマニフェストを発見するだけなのだ。これらによるロジカルな、または病的な結論を急いで推し進めるなら…それはヨーロッパの人間も米国の人間もこれまで見たことのないものを巻き込むだろう::つまり、多民族的な民主主義に対して攻撃を行うには、異なる形態のファシズムの間のどれが最も効果的かという葛藤だ。

 このような思考方法が跋扈しているというきざしは、2001年の9月11日のすぐあとに、Jerry FalwellやPat Robertsonその他の扇動家たちが「オサマ・ビン・ラディンは、神の手業をなぞるために用いられた」Osama Bin Laden being used to trace the finger of God などと主張したときにもみられた。そして、Timothy McVeighを信奉するファンの末裔たちもまた、「9/11 Truth」などの不可解なメディアを通じて、非合法的なグローバル・パワーによる「橋渡し」のセオリーoverarching theory of illegitimate global powerをこしらえようと試み…それが911には世界にむけて露呈し、挑戦を受けたのだ…などといっていたのだ。しかしまた我々は、CIAやモサドが、実際のところはそのターゲットを恣意的に選定したり操作しつつ、共謀(なれ合い)や協力関係を組織してその華麗な仕事を実行し、一方ではより下級のアル・カイダの分子たちは放置して、彼らがより下等な爆破任務を実行するのにまかせているのにも気づかされる。そしてこの悲しき、自己嫌悪の世界というものは…Abbottabad の別荘の静止画像が分解していくのを目にする…彼がかつて大物であった愛すべき失われた日々を思い出しながら、TVのチャンネル・チェンジャーをかちかちさせている、その姿と共に消えてゆくのを…。

 それはさらにまた、オスロのジハード主義者たちのウェブサイトでも、浅ましいスペクタクルに達している─そのサイトとは、当初…自分たちの聖なる戦いも巻き込まれるかもしれない、と感じた者たちによる喜びの投稿の数々と共に準備も万端になっていた…しかしその犯罪の実行者はその日多くの若者を虐殺することを、全く異なる理由から欲していた負け犬だった…ということが明らかになった時に…それは終息して攻撃を止めた。新聞のヘッドラインのライターや、ニュースキャスターたちは、何かを宣言する前に待つべきだったのだ。その殺戮者らが…選択的になった選り好みのうるさい人間たちかも知れない、などと指摘する無神経さを犯すよりも前に。いわゆる「エキスパートたち(専門家)」と呼ばれる人たちは、その犯罪の手口から動機を分析して、模倣(reverse-engineer the motive)するような行為は恥とすべきだった… オクラホマの事件の折にも、Steve Emersonが─このような暴力の極大化には、「中東に関係する特徴がみられる」、などと述べたときのような、誤ちを冒す前に。Ultima Thule(古代の北の最果ての地…)から、ヨハネの啓蒙の黙示録に関する独自の見解を携えてやってくる青ざめたクリスチャンの騎手でさえ…彼がそれまでにそんなものを何ら自慢してもいなかったような…「中東に関係する特徴…」とやらを備えていると言われるのかもしれない。

 そんななかで、シリアの街角や広場の数々、リビアの市民的な抵抗勢力の委員会には、熱意と心配に溢れた人々が満ちている─彼らは、彼らが民主的政治体制への移行や平和的な戦術というものに、また、これまで奪われてきた資金が、長らく放置された社会再建に透明性をもって配分されることや、寄生的な軍や警察のカースト制度を除去することなどに対して賭けを行い、ときには、彼らの生命をも賭けてきたことは、ナイーブではなかったのかどうかを知りたがっている。長らくこのような言葉で懇願をしつづけている中東の人々を前に、我々は、彼らがその実行に同意した際にはすっかり躊躇するばかりなのだ。そんな折に、外国の大使ら*がHamaの街に一晩滞在したということは、明らかに我々にとっての「赤い武功章(red badge of courage )」ものだったに違いないのだが… この過去1ヶ月の間に西欧と国連が続けてきたためらい、というものは、近年の歴史上でももっとも信条に欠けた、幕合いの中間劇というべきなのだ。この大使らの行為が、我々のできる唯一のことであったのなら、それは激しく非難されることだろう。
http://www.slate.com/id/2299959/

註:*Jared Loughner:今年1月アリゾナでG.Giffords上院議員らを死傷させた銃乱射犯。(彼が影響されたと思われる「読書リスト」の件も報道された)
*Geert Wilders(ギート・ウィルダース):過激なイスラムで有名なオランダの極右上院議員
*Jerry L. FalwelやPat Robertson…両者とも米国の超保守的なキリスト教徒政治活動団体のカルト伝道師
*9/11 Truth:911のテロは本当は米政府の陰謀だと主張するネット運動
*Timothy McVeigh:1995年のオクラホマ・シティ連邦ビル爆破テロ犯として2001年に処刑された(が真犯人の囮だったと信じる人もある)
*Abbottabad: 米軍がオサマ・ビン・ラディンを殺害したパキスタンの山岳都市
*外国公使ら:2011年7月7日、南シリアのHamaで50万人の反政府デモがあった直後、米・仏の駐シリア大使ら(Robert FordとEric Chevallier) が同市を訪問してアサド政府を緊張させた
→参考記事US ambassador visits southern Syria

http://middle-east-online.com/english/?id=47767