Sunday, March 20, 2011

「地中海クラブ」の戦い/The Club Med war - By Pepe Escobar

「地中海クラブ」の戦い・The Club Med war - By ペペ・エスコバル (3/19, Asia Times)

 国連安保理が、包囲ただなかの反ムアマール・カダフィ運動の人々を支持するために「飛行禁止区域」を設置し、後方支援や食糧・人道的支援・武器供給等をも行う、という決議案1973号を採決したことを思うと、本当に気持ちが高揚してくる。 それは米国の国連大使スーザン・ライスの言葉によれば、「国際社会」が真に「リビアの民衆の、普遍的な人権への追求とともに」立っている、ということの証明なのかもしれない。

 しかしここではもっと、より正しく(道義的に)なってみるべきなのだ。おそらくこの火曜日、ドイツのTV局とのインタビューでアフリカの王の中の王・カダフィ大佐が─「欧米諸国の企業は、それが飛行禁止区域設定に反対するドイツ人たちでない限りは、リビアによるエネルギーの大盤振る舞いにキスしてお別れができるだろう」─と保証した、そのときが形勢の変わる転機だった、と歴史は記録することだろう。(*1)カダフィは露骨にもいった、「我々は彼らの企業を信頼しない、彼らは我々に対し共謀ばかり働いてきた…われわれの石油の契約は、ロシアや中国、インドの企業に与えられるだろう」…それは言葉を変えれば:BRICS諸国のメンバーに、ということだ。

 国連決議案・1973号が賛成10票、反対票ゼロ、棄権5カ国によって採決されたことは興味深い。これらの棄権国とはまさにBRICの4カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国)と、それに加えてドイツだった。ブラジルとドイツは何日間にも及ぶ軍事行動への深い疑念を口にして、外交的な解決の方を望んだ:しかしロシアとインド、中国の場合には、他のエネルギー関連の思惑も動機だったかもしれない。BRICSのトップの4カ国は(その拡大グループのメンバーとして4月に正式参加する南アフリカは決議案に賛成したが)、どんな大きな決議に際しても同調して投票する傾向がある。

私を石油に連れていって Fly me to the oil
 それゆえ、皮肉屋(シニカルな批評家)たちは、時の試練に耐えてきた信条を呼び覚ます権利があるかもしれない─「それは石油だ、愚か者!」というような。

 リビアはナイジェリアやアルジェリアにもまさるアフリカ最大の石油経済国だ。同国には少なくとも、465億バレルの石油埋蔵量が確認されている (エジプトの10倍に相当する)。それは全世界の埋蔵量の3.5%にあたる。リビアは1日に140万から170万バレルの石油を生産するが、さらにそれを 300万バレルに伸ばしたいとも考えている。その石油は特に、1バレルにつき約1米ドルという極めて安い生産コストのお陰で珍重されている。

 カダフィが欧米の石油メジャーを脅迫したときに彼が意味したのは、フランスのTotalや、イタリアのENI、英国のBP、スペインのRepsol、 ExxonMobilやChevron、Occidental Petroleum、Hess、そして Conoco Phillips などの企業との取引のショーはもうすぐ終わるだろう、 ということだった─しかし、中国の国営石油公社China National Petroleum Corp(CNPC)は、そこには含まれてはいなかった。 中国はリビアを、そのエネルギーの安全した供給の要としてランクしている。中国はリビアの石油輸出の11%を獲得しており、CNPCは3万人以上の中国人労働者(BP社の場合の40人と比べてほしい)を、静かにリビアから本国へと帰国させた。

 イタリアの石油巨大企業ENIは1日に24万バレルの石油を生産しているが、それはリビアの全輸出量の25%ほどを占めている。リビアの石油の85%近くがEU諸国に向けて販売されている。

 それなら、国連が認可を下した、リビアに対する米国/NATO/アラブ連盟の軍事行動というもので(理論の上で)利益を享受する者たちのWho’s who(人名録)には、EUとアングロサクソン系米国石油大手が含まれるに違いない。ウォールストリートはいうまでもないことだ─西欧諸国の銀行に預けられたこうした何十億ドルものリビアの金について考えてみたまえ、そしていまそれは没収されたのだ: そしてもちろん米国とEUの兵器製造企業というものも含まれるだろう。

 それがどのように実施されようと、またカダフィがどんなに長く抵抗しようとも、国連決議1973号はEU、とくにイタリア、フランス、ドイツへの石油の供給を深刻に破壊することと親密に関連し、またそのことはあらゆる地政学的な事柄(特に、米国とEUとの関係にはじまるような)への示唆にも関連してくる。 誰もがカダフィ以後のエネルギー供給の環境においてよいポジションを得たいと願っている。

 国連決議1973のキー・ポイントとは、4番目のポイントだ:「すべての必要な手段を講じて…リビア・アラブ・ジャマヒリーヤ国(ベンガジを含む)での攻撃を通じて、市民と市民らの居住地域を保護すること─しかしその際に、リビア領土内でのいかなる形態の外国の占領軍の活動も排除する」。その「すべての必要な手段を講じる」ということが、飛行禁止区域の枠を超えることの可能性を強調していることは肝要だが、その際にも、地上での軍事侵攻は思い止まるとしている。それは結果においては空からの攻撃をすべてカバーする、例えば巡航ミサイルを発射して、ベンガジへの道路上にあるカダフィ軍の戦車を攻撃することもすべて含んでいる。それはまた、トリポリのカダフィ政権の軍事施設や、彼の本部への空爆さえも含むものだ。カダフィがもしも最後まで戦うならば、その統治の終わりは政権交代によってしか起こりえない。

だが、バーレーンはどうなっているのか? But what about Bahrain?
 ヒポクラシー(偽善)の警報No.1が発令された。アラン・ジュッペAlain Juppeがフランスの外相に返り咲いて、人道主義の価値についてお説教をのたまうのを見るのは喜ばしいことだ。独裁者ベン・アリを追放する民衆の戦いが巻き起こっていた最中のチュニジアで休暇を過ごしていた、シャネル・ブランドの象徴のミシェル・アリヨ・マリーMichele Alliot-Marieに代わる後任として。

 バラク・オバマ政権は─少なくとも公けには─国務長官のヒラリー・クリントン(飛行禁止区域に賛成する)への支持と、ペンタゴンの最高権威者ロバート・ゲイツ(それに反対する)への支持の間でまっ二つに割れていた。オバマ大統領は、彼の持ち札を最後の瞬間まで明かさなかった(カダフィは去るべきだ、と述べたこと以外には。)

 そのように振舞いつつも彼は─ 国連が<アラブ諸国やレバノンと協調しつつ、決議の草案を磨いていた英米(アングロ)諸国とフランスのデュオの協力のもとで>─その主導権をとるようにと、プッシュした。 大統領がそのような方向性を貫いて、彼自身への信頼性を見境いなく主張しつつも、それと同時に彼は「自由を支持するための決断力のある行動に欠けていた」、といわれることのなかに、辛らつな批評家たちが見たのは、それがおそらく狡猾な影絵芝居だということであり─そこでは…それに不快な呼び名を付与することは避けがたいが…国連が新たなる国際的な「有志連合(*イラク戦争当時のもの)」、というものを正当化した(西欧諸国による介入というものに代わって)という印象が残るのだ。人道主義にもとづく非帝国主義、などというものについて誰かアイディアがあるのなら、手を挙げて言ってほしい!

 今やそれはNATOがいかにして、地中海沿岸のフランス軍基地と、シシリーのイタリアの空軍基地、海軍基地を用いて週に3億ドルものコストをかけて作戦を遂行するか、ということにかかっている。ペンタゴンのゲイツ長官は、既にリビアの近海にある米海軍の軍備をも再配備している。 そして彼はオバマに、ペンタゴンにその能力があると確約した─そうでない可能性がどうしてあるのか?─つまり、第3の戦線を開くということが可能でないということが?

 偽善警報No.2を発するときがきた:サウジ・アラビアとUAE、カタール、そしてヨルダンはみな米国/NATOの反カダフィ勢力に協力するかもしれない。 そのうちの3カ国とは、ペルシャ湾岸の湾岸協力会議(GCC)のメンバー国だ。アラブ連盟の加盟国として彼らは先週、飛行禁止区域の設定に賛成票を投じた。こうした4つの専制君主国が、彼らのバックヤードでも彼らの政権に逆らって正義と尊厳と民主主義を求めている抗議勢力と、同じ種類の勢力に対して、彼らの利益のために軍事作戦を支持するなどということは、何と宇宙的な皮肉なのだろう?

 エジプトの暫定軍事政府は、よりセンシブルなことに、既に彼らがこの軍事作戦に参加しないことを宣言している。その代わり、エジプト軍は攻撃用ライフルと砲弾を─ワシントンの同意のもとに─東部リビアとの国境をまたいで送り出している。

 それならば、この問いは避けられなくなる。もしも、サウジアラビアがバーレーンの民衆を抑圧すべく、戦車や軍隊をCausway Bridgeの舗装道路を通じ隣国に送らぬよう、「ノー・ドライブ・ゾーン(運転禁止地域)」を設置しようとしていたなら(バーレーンは既に、サウジ軍に侵攻されてしまっているが)はたして国連は同じような熱意をもって、これに票を投じていただろうか?(*2)
 偽善警報No.3を発するときだ:ワシントンは、オバマ政権のニュー・ブランドのドクトリンによれば、「米国が手を伸ばす範囲(US outreach)」というものを、カダフィのような「邪悪な」「独裁者」に対する民衆の叛乱の場合のみに限定する、といっている。そうした叛乱は結局、国連の支持を得る。そうすれば、ワシントンはバーレーンのal-Khalifas(王族)や、サウード王家のような「われわれの」ろくでなしどもと関わりながら、 「政権の代替」を説くことができる。そして独裁者たちは、殺人を犯しながら逃亡する。

 地中海のボール(又は火花)は今や、カダフィの庭にある。彼の防衛大臣は既に、全ての地中海の航空輸送と海上輸送は危険に晒されている、と警告した─そして、すべての市民と軍事目標が攻撃可能な獲物となると。カダフィは彼のサイドでポルトガルのTV局RTPに対してこう語った、 「もしも世界が我々に対してクレージーになるなら、我々もクレージーになるだろう。我々は反撃する。我々は彼らの命を地獄に晒すだろう、 なぜなら彼らは我々の命を地獄に晒すからだ。彼らには平和は訪れない」

 だから、警戒せよ。偉大なる2011年のアラブの叛乱は、クレージーな状況に入ろうとしている。この地中海クラブ(Club Med)の戦いは爆風か─あるいは怒りの、流血の騒乱になるかもしれない。
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/MC19Ak02.html

*1:
http://www.upstreamonline.com/live/article248510.ece?WT.mc_id=rechargenews_rss
Gaddafi blasts Western oil players

*2:
http://www.nytimes.com/2011/03/15/world/middleeast/15bahrain.html?scp=8&sq=bahrain&st=cse
Saudi Troops Enter Bahrain to Help Put Down Unrest
バーレーンのカリファ国王は戒厳令を発した2日後にサウジおよび周辺の国々から2000人の兵力を自国に送った(1200人の兵力をサウジから、800人をUAEから)この兵力は湾岸六カ国(バーレーン、サウジ、クウェイト、UAE,オマーン、カタール)からなる湾岸協力会議のバナーの下にあったが、同会議が初めて行った派兵であり、シーア派のイランはこれを強く非難している(3/14、NYT)
*バーレーンではスンニ派である政府が弾圧しているシーア派住民が多数派を占めているが、同様にサウジにおいても人口の約12%のシーア派住民が石油の豊富な東部地域に住んでおり、サウジ政府はバーレーンの動乱が彼らを刺激することを恐れている。バーレーン政府・サウジ政府にとってはシーア派住民は湾岸の共和主義勢力ともいえ、イランのようなシーア派革命の勃発を恐れている。彼ら共和主義のシーア派住民は単に、この国が立憲主義王政への移行することを求めているが、これらの二カ国は依然、絶対王政を維持している。イラクのシーア派の領袖であるムクタダ・サドルはバーレーンのシーア派に対する 弾圧的な外国兵力介入を強く非難しているが、 イラクのスンニ派の有力者はこの動きは背後でイランが手を引いていないわけがないといっている。http://www.juancole.com/2011/03/sunni-shiite-tension-boil-in-iraq-gulf-over-bahrain.html

*The Proxy Battle in Bahrain
http://www.nytimes.com/2011/03/20/weekinreview/20proxy.html?_r=1&scp=4&sq=bahrain&st=cse

Libya: allied military assets and initial attack sites (3/20, The Guardian)
http://www.guardian.co.uk/world/interactive/2011/mar/08/libya-nato-no-fly-zone-interactive-map