Tuesday, December 20, 2011

“新生リビア”の最初の過ち The New Libya’s First Mistake - By Christopher Hitchens


“新生リビア”の最初の過ち-
-ムアマール・カダフィは殺されるべきではなかった、そして彼の息子たちは生きて拘束されるべきだ-
 By クリストファー・ヒッチンズ(10/21, Slate.com) The New Libya’s First Mistake
- Muammar Qaddafi should not have been killed, and his surviving son should be captured.


 深い無力感と、一抹のばかばかしさの感覚に屈しながら、私はこの木曜日の午後にiPadを借りて、それを使って初めてのメッセージを送ってみた。そのメッセージとは、その不愉快なガマガエルのごとき態度で、リビアに生きる民衆の上に40年間以上居座り続けていたMuammar Qaddafi を、その座から引きおろすべく圧力をかけている先陣にあった目覚ましいフランス人らの一人に呼びかけたものだった。どうか頼むから、と私は書いた…(リビアの)国民暫定評議会におけるあなたの友人たちと共に、そしてまた兎に角も結成された他の革命派の裁定機関と共に、Qaddafiの家族たちをこれ以上殺すことを止めて、すでに人道に対する罪で起訴されている彼らをハーグ国際法廷の被告席に送るためのスムーズな道を確保するように仲裁してほしい─と。

 単純すぎるって?ハーグの国際犯罪法廷は彼ら自身、少し前にすでにリビアの問題に対処する仕事の準備を整えているいう声明を出していたのだ。しかし今やもう、Muammar Qaddafiは死んでしまったし、彼の息子たちの一人のMutassimも殺されたと報じられ、そしてその(殺害に関する)合法性や適切さについての何の言葉すらも聴かれていない。リビアのいかなるスポークスマンも、独裁者の醜い死に関する彼らの声明の中で、法廷については何らほのめかしてはいない。米国の大統領は、そのような罪状認否を行わせるといったオプションが一度も提起されていないかのように語っている。そこではリビアから帰国して早々の(クリントン)国務長官が彼の次に話をしているが、彼女は色々と内容の薄い言葉ばかりを発しているななかで、Qaddafiが殺されたことはリビアに変わり目をもたらす助けになるだろう、との旨の言葉を言っている。英国のDavid Cameron首相は、Quaddafiによる長年にわたるテロの国際的な犠牲者たちに言及する暇があったものの、やはり国際法廷への言及は省いていた。

 多くの事柄のなかでも特にこの無言の同意は私に、軍の部隊がQaddafiの出身地の町Sirteに近づいた際には、彼らには何ら全般的な司令が発されていなかったのだと確信させる。「どうしても必要とあれば、彼を殺すがいい、しかし彼を(また他の家族やその他の者たちの名前も挙げて)生きたまま捉えてオランダに送るよう試みよ」といった意味の司令は、何も発されていなかったのだ。いずれにせよ、たとえそのような司令が広められていたとしても、それは余り強制的なものではなかった。

 無節操な政権が終わりを告げるとき、とくにそれが、権力を譲り渡さずにむしろ社会や国家を破壊することを示してから以降、人々がエクソシズム(悪魔祓い)のようなものを期待するようになったことは自然なことだ。モンスターの解剖用の死体を見とどけて、彼がこれ以上戻ってこれないと見とったことによって人々は満足した。それはまた、悲惨さと残虐行為を長引かせるための、「狼男」のようなレジスタンスを続ける、憎悪に溢れたその頭目がもう居ない、ということの再確認だった。しかし、Qaddafiはその死の瞬間には傷ついて戦う能力を失い、恐れにおののく賤民たちの小さなグループの先頭にいた。彼にはそれ以上のいかなる抵抗もできなかった。そして、私が上に記したようなすべてのポジティブな結果といえば、彼をまずは病院に連れて行き、次に拘置所に、そしてやがては空港に連れて行くといったような単純な方策によって達成できたはずなのだ。勿論、彼の法廷の被告席でのひと騒ぎはおそらく大いにポジティブなインパクトをもたらすだろう…なぜなら彼にいまだに信頼を寄せる哀れな迷える魂のごとき人々の妄想も、マッドマンがごく数時間でも法廷でわけのわからない言葉を述べる状況の露出に大しては持ちこたえられないだろうからだ。

 そして、新たなリビアが始まるが、しかしそれは悪臭を放つリンチと共に始まる。報道メディアの特派員たちは最近、反乱勢力がQaddafi忠誠派の人間たちやその資産に対して示した全般的な自制に対しては、とても友好的に騒がしく語っている。そのことは、そのような原則が主要な事柄に生かされなかったことに対しての、より一層の遺憾の念を抱かせる。今これを書いている時点では、Muammarの息子の一人Seif-al-Islam Qaddafiの行方はいまだにわかっていない。もしも彼もまた手に負えないからと殺したなら…あるいは最低でも、NTC(国民暫定評議会)と国際社会が彼らの武装兵士らに、彼を合法的に拘留せよと命じないならば非常に恥ずべき行為だ。 (*下:Saif-Islamが11月中旬に発見、拘束された際の写真)

  このことはSeifや、他のお尋ね者リストの者たちに対する過度のシンパシーの表明ではない。しかし、とくに彼は今は亡き体制の性質に関する膨大な量の有用な情報の宝庫なのだ…そしてまたおそらくは、戦略的な物資の行方に関する情報の貯蔵庫だろう─それはリビアの民衆の正当な所有物である、違法に確保されていた巨額な現金に関していっているのではない。このような証拠の隠滅に賛成することが犯罪に相当することの理由は、ひとつではない。父親Qaddafiの有用性に関しては、この誇大妄想狂に関する検証が進んでいない段階にあって、私はそれが値段のつけ難いもの、というべきであったと思う。そうであるとはいえ、彼の無数の犠牲者たちはそのような満足を、可能な限り感じ取らねばならない… 血を流しながら、支離滅裂となった体が粗雑に引き渡される様子を、パニックのなかで、そして彼の惨めさがその国の安全に全く何も寄与しなかった一発の弾丸で消し去られた様子を目にしながら。

 私はNicolae とElena Ceausescu(ニコライとエレナ・チャウシェスク) が拙速に処刑されたとき、ルーマニアにいた、そして私はUday とQusay Hussein(ウダイとクサイ・フセイン) が、逃げ場のない家のなかで取り囲まれて致命的な射撃と砲弾に倒れたときには、モスルにいた。どちらのケースでも、一般市民たちの感じていた安堵感は手に取るように感じられた。拷問と恐怖の古いシンボルたちが排除されたことの証明には、少なくとも短期的な、(社会的束縛からの)開放の効果があった。しかし私にはこの効果には、急速な減退のゆり戻しがもたらされがちだといえる… それはイラクで、Moqtada al-Sadrの無粋な(洗練されていない)信奉者たちがSaddam Husseinの処刑執行の仕事をになったことによって、確かとなった。この失策にみちた、浅ましきエピソードのあとには、宗派間紛争のいくつもの傷跡がいまだに残されている─ そして私は、もしも同じ様な怒りが木曜日に多くのリビアの民衆のなかで醸されなかったのならば驚くべきことであると思う。それは、修復するにはすでに手遅れだ。しかし、もしもQaddafi一族らの殺害が続いて、ハーグの法廷への召喚への侮辱が無視され続けるのならば、それは恥とすべきことだ。
http://www.slate.com/articles/news_and_politics/fighting_words/2011/10/muammar_qaddafi_should_not_have_been_killed_but_sent_to_stand_tr.html


*註:Qaddafiの息子のSeif Al-Islamは11月19日にトリポリ南東の山間都市Zintanで拘束された。
http://www.nytimes.com/2011/11/20/world/africa/gaddafi-son-captured-seif-al-islam-qaddafi-libya.html?scp=1&sq=Qaddafi's%20son%20Saif%20Islam%20captur リビアの評議会はハーグの法廷の逮捕状は無視、彼は国内で裁判されるべきだと主張しているが日時は未定とか(関連記事)
http://www.nytimes.com/2011/12/21/world/africa/qaddafi-son-seif-al-islam-is-alive-and-held-by-rebels-rights-group-says.html?scp=1&sq=saif%20al%20islam&st=cse

*Legendary ColumnistのChristopher Hitchensは、2011年1月にesophagus cancerを煩っている旨を公表し、化学療法を受けていたが2011年12月16日にヒューストンの病院にて死去。Slate.comの毎週月曜日のコラムFIGHTING WORDS-A Wartime Lexiconは、11/28のものが絶筆となった(これは最終から6本前のコラム)
 http://www.slate.com/authors.christopher_hitchens.html

/////////REST IN PEACE/////////
CHRISTOPHER HITCHENS