Tuesday, January 17, 2012

トルコ外相ダーヴトオール、中東の紛争について警告! Turkey Warns against Sunni-Shiite Civil War in Mideast- By Juan Cole

中東で話題の仲介者ダーヴトオール─ますます不穏さを増すシリアやイランの情勢に対する彼の立場とは?
 
 
 トルコの外相、中東地域のスンニ派v.s.シーア派の争いに警告を発す(1/5, By ホアン・コール from "Informed Comment")

Ahmet Davutogluトルコ外相
  トルコの外相Davutoglu Ahmet Davutoglu ダーヴトオール・アハメット・ダーヴトオール は、水曜日(1月4日) にテヘランで、中東では複数の非武装勢力によるスンニ派対シーア派の内戦が煽られつつある、との警告を発した。この地域で対立が生じているフラッシュポイントのなかでは特に、ペルシャ湾の入り口付近でのイラン/米国間の緊張が高まっている状況だ。イランはここで10日間に及ぶ軍事演習を行い、同国には世界的な交易の重要拠点の海峡を閉鎖して、世界の石油供給の6分の1を停止させる能力がある、と警告した。
 しかしこのイランと米国の対立で語られていないことは、イランに対抗して米国がサウジアラビアとバーレーン〔共にスンニ派勢力〕をバックアップしていることだ。バーレーンでは、何万人ものサウジアラビア人、パキスタン人その他のスンニ派の人々が、この島々〔バーレーンの〕のスンニ派君主から市民権を与えられているが、その市民の58%はシーア派である。バーレーンの君主は立憲君主制を要求する人々の抗議運動を強く弾圧した。サウジアラビアは、バーレーンの王Sheikh Hamad b. Isa Al Khalifahを助けるべく1000名の兵力を送った。米国はManamaに、ペルシャ湾からの石油供給の継続を任務とする基地を有し、米海軍の第5艦隊はそこを本拠としている。

 シーア派の三角地帯 Shiite Clescent

 この週末、バーレーン内陸部のシーア派地域においていくつかの反政府集会があり、一人の女性が催涙ガス弾で死亡した。

Juan Coleによる"シーア派三角地帯"?
この地図には異論も…
  トルコ外相ダーヴトオールは彼の現在の地位を、トルコが「近隣諸国との良好な関係を維持する」という立場の堅持によって獲得してきた。この彼のポリシーが2002年以降、トルコの中東諸国との貿易額を倍増させて、その結果長らくヨーロッパの方角だけを向いてきた同国が、この地域で影響力をもつ国として再び姿をあらわしたのだ。

 トルコはスンニ派が多数を占める国であり、現在政権を握る正義と発展党(Justice and Development Party)はNaqshbandi Sufi派(イラクとシリアでの重要勢力でもある)を含む強力なスンニ派の支持基盤の票田を抱えている。しかし同政府は、現状での政治的緊張にも関わらず、(シーア派の)イランとの関係の正常化にも力を尽くしてきた。トルコはイランから重要な天然ガスを輸入しており、この両国は、2011年には前年比55%増の150億ドル以上を相互に輸入し合った。トルコは韓国とも同様に、米国が意図している対イラン経済制裁による、イラン中央銀行を通じた石油・天然ガス取引停止からの除外を求めている。イランのHalkbank(ハルク銀行)はインドによるイランの石油の購買を取り仕切っている。

 スンニ派とシーア派間の緊張は、イラクにおいても高まりつつある。水曜日にはバグダッドのシーア派地域で何件もの爆破事件があり23人が死亡した─犯人は明らかに、イラクの宗派間紛争が再燃することを意図していた。そして、同時にまた政治的危機も高まっている。(イラクの)シーア派の首相Nouri al-Maliki は、スンニ派の副大統領Tariq al-Hashimi がテロ攻撃(そのひとつはal-Maliki自身の暗殺を狙っていた)に関与していたと非難した。Al-Hashimiはクルディスタンに逃れ、彼に対するいかなる法的な処分もその地で執り行われるよう望んだ。しかし、イラクの法廷の一つは彼のバグダッドにおける出頭を求めた。彼は、al-Malikiの任命した判事らによる裁判を受けるよりも他国への亡命を望んでいるようだ。Al-Malikiによるal-Hashimiの告発により、スンニ派主流のIraqiya党は統一政府への参加を停止された。Al-Malikiは、イラクでのシーア派に対するスンニ派アラブ人の暴力が、サウジアラビアの影響を受けていると非難している。

 現在のシリアの危機にも、スンニ派対シーア派の潜在的な緊張の側面がある。水曜日には治安勢力がデモ隊に発砲を続け、全国で26人の死者が出た。その死者のうち16名は、大規模な反政府集会の催されたHomsで発生した。支配勢力・バース党の上層部の司令系統は、シーア派派の異端セクトAallawi派のメンバーによって牛耳られているのだが…しかし、反政府的な集会を催している各都市の中心部の多くはスンニ派の色が濃く、それらの勢力の組織化にはムスリム同胞団が顕著な役割を果たしている。 

 トルコは、シリア政府による反政府勢力への弾圧に強い反対の立場をとり、Aallawi派のBasharal-Asad大統領にも強く反対する立場を表明している。アナトリアにおける「正義と発展党」のスンニ派支持基盤は、Syrian National Counsil(シリア国家評議会*)への支持を誘引する顕著な勢力である。同党は、その立場を急転回した─同党は2002年にダマスカスとの関係正常化を目指して政権を握ったが、昨春、民衆蜂起の起こる前まではその目標が大いに達成されていた。トルコはシリアと年間20億ドル前後の交易を行い、レバノン、シリア、ヨルダンとの間でも自由貿易地帯(free trade zone)を設立するために作業を進めていた。 (*SNC:シリアの反政府勢力の結成した組織。前記事「シリアの影の戦争」参照)
 ダーヴトオール外相は、一方に米国とサウジアラビア、もう一方にイランを置き、この両者間の仲裁を図ろうとするだろう。米国・サウジの両国とは違い、トルコは(イランと)戦争をしたくてうずうずしている、ということはない。ダーヴトオールの中東との交易拡大という画期的戦略は、シリアとイラクでの紛争というものによって甚大な不都合を蒙っている。トルコのアラブ諸国とのトラック交易は、シリアを経由してきた。Al-Arabiya紙のアラビア語の記事では、トルコがトラックをエジプトのアレキサンドリア港(彼らはその地から、アラブ世界の何処にでも物資が輸送できる)に送ることを計画している、と報じた。しかし、船舶輸送によるコストは明らかに利益を減少させるだろう。

 トルコの交易ポリシーは近隣諸国との調和的関係に依存しているため、宗派間の紛争を抑える必要性に駆られざるをえない。イランとサウジアラビアは産油国なので、経済的な繁栄を地域的な交易に絶対的に求める必要性ははなく、それ故に、もしも互いに反目し(愚かにも)戦うことを選んだとしても、独立した行動が可能になるのだ。

 ダーヴトオールの、未だに暴露されぬその特別なミッションが何であるにせよ、彼が全般的に強調する緊張の抑制という主張以上に重要なものはない。
http://www.juancole.com/2012/01/turkey-warns-against-sunni-shiite-civil-war-in-mideast.html

*上の「シーア派三角地帯」の地図はJuan Cole教授が勝手に作ったものだといい、このblog記事には地図が不正確だとの投書も噴出、教授は「それなら自分で作ってみて」などといっている…(上記リンクに複数の読者からの投書が掲載されている)

* 昨年以来のダーヴトオール関連記事

Turkey's Davutoğlu says zero problems foreign policy successful
外相ダーヴトオール、「ゼロ・プロブレム」政策は成功した、と語る (2011/9/18, Todays Zaman)

 トルコの外相ダーヴトオールは同国の「ゼロ・プロブレム」の外交ポリシー ─同国とイスラエル間の紛争の激化とシリアでの緊張の高まりで揺り動かされているその政策─は壊れてはおらず、依然トルコの外交政策として維持されている、と述べた。ダーヴトオールの言葉は、丁度トルコの外交戦略が周辺諸国との間の目にみえる関係悪化に直面して、批判の嵐を浴びていた時に発された。ウォッチャーたちはトルコの近隣諸国との間の古びた「ゼロ・プロブレム」政策がいまや…イスラエルとの怨恨(*)や、アラブの叛乱のために同国が強いられたいくつかの不恰好な妥協のために崩れ落ちたものと評していた。その最も顕著な例はシリアだ─トルコとシリアの同盟関係は…トルコによる、シリア政権の反政府運動の市民らへの軍による弾圧を止めよとの呼びかけをシリア政権が払いのけた際に限界点(ブレーキングポイント)に達した。 (*イスラエルとの怨恨:Gaza Flotilla号事件の項参照 http://hummingwordiniraq.blogspot.com/2011/07/boat-people-some-questions-for.html 及びhttp://hummingwordiniraq.blogspot.com/2010/06/letter-from-istanbul-by-thomas-l.html

 近隣との「ゼロ・プロブレム」政策のもとで、アンカラの政府は(これまで)そのシリアとの政治的結束を強化していた─1990には〔違法行為を犯したクルド労働党のメンバーをダマスカスのシリア政府が匿った事件により、〕同国と戦争寸前に至ったにも関わらず。シリアにおいて、トルコのRecep Tayyip Erdoğan首相は、Bashar al-Assad大統領と友好を深め、一度は敵対関係にあった隣人との間に、新たな政治的経済的繋がりをうち立てていた。しかし、Assadに抗議勢力の殺戮を停止し、改革を実施するように、と繰り返し要請した後で彼はいまや忍耐力を失った。

 ErdoğanはAssadと共に休暇をすごし、彼らの議会同士でのジョイント・ミーティングも開催、トルコはシリアの最大の交易パートナーとなり、隣人である両国間はビザなしで旅行できるようになり、そしてトルコは、シリアとイスラエル間の和平交渉における仲介役をも試みようとした。専門家たちは、近隣諸国とのゼロ・プロブレム政策とはその政権体制(regime)との間でのみ試みられたが、同体制が暴力的弾圧に出た際にはトルコはそれらとの関係を切り捨てたと評した。
 
 ダーヴトオールは日曜日にトルコのCNNキャスターとのインタビューで(国内問題が悪化中の)シリアを除いて、トルコは近隣との関係は未だに良好であると述べた。同外相によればトルコは、シリアの政権とその民衆とのどちらかを選択しなければならないが、「我々はシリアの民衆を支持する、なぜなら政権は無くなることもあるが、人々は常に残るからだ」と彼は述べた─シリアの民衆と共に立つことはトルコのゼロ・プロブレム・ポリシーの一部でもあり─誤っているとしばしば批判を受けがちなその政策は、これまでも今後も同国にとって常に正しいものだ、と。
http://www.todayszaman.com/newsDetail_getNewsById.action?load=detay&newsId=257118&link=257118


トルコは米国-イランの戦争をくい止められるか!?─トルコ外相ダーヴトオールが、緊張の高まる中でイランを訪問 By Noga Tarnopolsky (2012/1/4, Globalpost)

 トルコ外相ダーヴトオールが、彼のイランの対抗相手と「核開発に関する対話("Nuclear talks")」をすべくテヘランに飛んだ今日…この中東の動揺する両国は、困難な繋がりを確固たるものにすべく試みるだろう。レバノンのDaily Star紙は2日間の討議ではイランとシリア情勢の問題の進展など他の懸念も提起されるだろうと報じた。 
南部イランにてオマーン湾を望みつつイラン兵士が演習
 イスラエルの(イラン情勢および、後退するイスラエル・トルコ関係情勢を見守る)ウォッチャーたちは、彼の訪問は、トルコが(米国による経済制裁に服して、自国に不自由を蒙るよりもむしろ、)自らをイランとの緊張緩和を望む西欧諸国との仲介役となる可能性があると位置づけていることを示す、とみなしている。そんななかで、水曜日(イスラエルの)Ha'aretz紙は─イランのMahmood Ahmadinejahd大統領がイスラエルに、エルサレムを「ユダヤ化しようとの試み」はイスラエル自身の終焉を招くだろうと警告した、と報じた。イランにおけるトルコ-パレスチナ議員間の友好グループの会合におけるAhmadinejadの言葉は、イラン国営テレビによって放映されたが─彼は「宗教や、神に対してすら何の信念ももたないシオニストたちが、いまや敬虔さを主張して、神聖なるQuds(El-Qudsはエルサレムのアラビア語名)のイスラムとしてのアイデンティティを奪い去ろうとしている」と述べた。イランの大統領は、「このばかげた動きは実際に、抑圧的な植民地の警察勢力の継続であり、それはシオニストの政権を守り得ないだけでなく、その存在を終わりに近づけるだろう」とも付け加えた。イランの公営ニュース通信社IRNAは、Ahmadinejadがさらに「パレスチナ問題はこの地域の主要問題で、全世界と誰しもにとって無視できないものだ」と語った、と伝えた(後略)
http://www.globalpost.com/dispatch/news/regions/europe/turkey/120104/can-turkey-prevent-us-war-iran

アハメット・ダーヴトオール:地域のパワーブローカーなのか?独裁者の仲介役なのか?─トルコ外相は、アラブの民衆の蜂起のなかで無力化し苦闘する─(2011/6/8、The Guardian)

 近年、トルコ外相のアハメット・ダーヴトオールは、彼の近隣諸国との「ゼロ・プロブレム」政策においては、称賛と侮蔑の両方をほとんど同じ程度に受けてきた。 しかしトルコが…<大統領Bashar al-Assadがトルコ政府からの改革への要求を無視している>シリアから到来する大量の難民の受け入れを準備する間に─ ウォッチャーたちはシリアと中東全域で生じる民衆蜂起がトルコのセルフ・イメージを汚して、地域のパワーブローカーのように見せはじめた、と論じている。

 外相ダーヴトオールはシリア、リビア、イランの政権を誘引すべく使節を送り、また同様にハマス、ヒズボラ、その他…伝統的に欧米の外交官たちにとっては石の壁に隔たれ接近が困難なグループに対しても使節団を送った。しかしカダフィやアサドの如き独裁者がトルコに鼻面を押し込んでいることは、トルコの外交オフィスの無策さを露呈している、とイスタンブールのEuropean Stability Initiative代表、Gerald Knausは述べた。「最近の出来事は、トルコのその外交への自負心を相対化した。彼らがこうした政権と個人的繋がりを作ろうとしたすべての努力は彼らに彼らの望んだようなレバレッジを与えなかった」、とKnausは言う。「トルコは、その仲介外交に自己過信しすぎた」と、イスタンブールのBahcesehir大学のEU研究の教授Cengiz Aktarはのべる。「しかしその方法は初めから間違っていた。我々は歴史による教訓として、独裁者に改革を促すのは無理と知っていたはずだ」

 しかしシリアからのトルコへの洪水のごとき難民の流れは、昨年、両国の間のビザを不要にしたことの賢明さをあらわしているとKnausは言う。「トルコはムスリム国家がいかなる発展を実現できるかの力強い一例だ。もしもシリア人がトルコを訪れたなら、彼らはそこに代替手段を見るだろう、それは、グローバリゼーションは良きものと信じるイスラム教徒の首相がラディカルに経済を改革できた、との実例なのだ」日曜日の、トルコの現首相Recep Tayyip Erdoganについての世論調査では、彼はたやすく3選されそうだという。「人々はイスラム教国で、デモクラシーが可能なことを見たのだ」、とKnausは言う。

  アンカラの与党AKPの某政府担当者が個人的に語った事によれば、Erdogan政権の内部でも次に何をにすべきかで意見が分かれているという。「彼らは即興的に政策を決めている」、とKnausはいう。今後トルコはシリアの難民を歓迎する。「我々にとっては国境の閉鎖は問題外だ。我々は状況を大いなる関心を持ってみている」、とErdoganは水曜日に語った。彼はAssadに直ちに改革を実行するよう要求した。「それが市民たちを納得させる」と。Assadが聞く耳を持たず拒否したにも関わらず、首相のチーフアドバイザーのIbrahim Klainは、政府の政策は失敗ではないと述べる。「多くのアラブ世界の人々が、トルコをインスピレーションとしてみている」と、彼は言い、彼らは最近Tahir広場で活躍したエジプトの若者たちを国内にホストとして招待し、シリアの反政府グループの2つの会合をもホストしたと述べた。

 政府はシリアの改革政権を指導する明確な意思がある。シリアのクルド人少数派に一層の権利を認める新政権は、トルコの世俗政権や軍とはうまくいかないだろう〔彼らは推定1400万人のトルコ国内のクルド人に、母国語を使う全面的自由または自治権を与えることに消極的である〕。彼らは既に、米国が北部イラクでクルド人に顕著な自治権を認めたことで、高揚状態にある。〔中略〕

  トルコにおける大きな変化によって、彼らはその熾烈な過去と地の利を、足枷ではなく恩寵として受け止めつつある、とKalinはいう。「長らくトルコの政策立案者たちはその歴史と地理的条件を大きな問題と捉えてきた。人々はいつも、「我々は世界の最も難しいパートに位置する。我々は常にあらゆる紛争に取り巻かれてきた」といっていた。いまや我々は、この地理的位置を戦略的な資産だと思っている」(後略)
http://www.guardian.co.uk/world/2011/jun/08/ahmet-davutoglu-turkey-foreign

テヘランでイラン外相Ali Akbar Salehi (左)と
会見したAhmet Davutoglu