Thursday, August 10, 2017

アフガニスタンのシルクロードに渦巻く、怖れと嫌悪 Fear and loathing on the Afghan Silk Road - By Pepe Escobar

アフガニスタンのシルクロードに渦巻く、怖れと嫌悪 
─アフガニスタンの再建を試みる者は、誰しもその仕事を中断せざるを得ない─
しかし、中国の「一帯一路構想」(BRI)の成功は、その進展しだいなのだ
By ぺぺ・エスコバル ( 2017/6/21,Asia Times)

新たなるシルクロード(New Silk Road)、またの名を「一帯一路」の計画 (Belt and Road Initiative、BRI)とは、ヒンズークシ山脈を超えることがあるのだろうか? 

そのゲームについた名前は、<向こう見ずさ>だ。たとえ、それがいにしえのシルクロードを跨ぐ戦略的な地だろうと…また実質的に、BRIの重要な結節点である中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の500億ドルの計画に続く道であろうと─アフガニスタンはいまだに戦争の泥沼のなかにある。

2011年を忘れることはかんたんだ─カザフスタンとインドネシアで、2013年に習近平首相がBRI構想の開始を宣言する前でさえ、当時の国務長官のヒラリークリントンが、チェンナイ(*東インドの都市=マドラス)における彼女自身のシルクロード計画を称賛していた。国務省の描くビジョンがヒンズークシで一敗地に塗れたことは確かだ─なぜならそれは、戦さで疲弊したアフガニスタンというものを計画の根幹に想定していたのだから。

2017年のアフガニスタンでの状況の展開は、さらに失望を招くものだった。機能不全という言葉は、2014年の対立に満ちた選挙(*アフガン大統領選)から出現して政府と称しはじめた政権というものを、描写してすらいない。

2002年以来、米政権はこの、唖然とするような未完の「限りなき自由作戦Operation Enduring Freedom」(*)のために、7800億ドルを費やした。そこには完全に、何の成果もみられなかった─アフガニスタンで10万人の犠牲者が生じたこと以外は。(*2001年9月11日のオサマ・ビン・ラディンによるNYでの同時多発テロ犠牲者の報復を含む作戦として米が宣告した対テロ作戦名)

オバマ大統領による鳴り物入りの政策として、アフガン国家再建を目標に据えて行われた2009年の米軍兵力の増派は、予想通りの大失敗だった。GWOT(”グローバルなテロとの戦い”)の枠組みを海外緊急作戦行動(OCO)として再構築したこと以外に、それが成し遂げたものは何もなかった。そこではなにも「clear, hold, and build: 掃討し、押さえ、建設する」ことなどできなかった─事実上、タリバンは至る所に舞い戻っていたのだ。

鉱物資源が掘りたい?
それなら、タリバンに聞け

トランプ政権下の新たなアフガニスタン「ポリシー」とは、同国の東部に、何らの効果も得ることなくMOAB(Mother of All Bombs)爆弾を落とすことと、ペンタゴンの命じた、より一層の兵力の増派というものだ。「限りなき自由作戦」の継続は言うまでもない。

An Afghan policeman looks at the bloodstains of victims outside
  a mosque where a suicide bomber detonated a bomb
in Kabul, June 16, 2017
これは驚くべきことではないし─また、レーダーによっても、汎大西洋主義(*NATOなどの加盟国)の主な仲間の諸国でさえも関知できなかったことだが─中国政府のリサーチャーたちは昨今、北京で外国人らと会合して「アフガニスタンの再接続」をテーマに話し合ったのだという。

タリバン政権崩壊後の初代の駐カブール中国大使であったSun Yuxiは、2001年末に爆破テロで権力から追放されて、状況をこのように正確に要約した、「もしも、アフガンを通る道や、接続の可能性が閉ざされているのなら、BRI上の重要な動脈がブロックされているのも同然の状態で、この組織の体には多くの病気をもたらすだろう」と。

アフガニスタンを、如何に再接続し/再構築し/再建するかという課題は、北京のシンクタンクCentre for China & Globalizationなどにとっても眠れぬ夜をもたらす物質のようなものだ。

誰もが、アフガニスタンが最低でも1兆米ドル相当の鉱物資源─銅、金、鉄鉱石、ウラニウムや宝石類の上に鎮座しているだろうとの予測についてはご存知だ。だが、それをどうやって安全に掘り出せるのだろう?

 北京政府が抱く投資の安全確保上のジレンマとは、現在進行中のMes Aynak銅山のサーガによって華々しく描きだされているのだ。中国冶金科工集団有限公司は、2008年にカブールの南東40キロのその銅山を買い取った。彼らの投資とは、アフガンでも最大の海外からの投資プロジェクトである。タリバンはそれをこの先8年は攻撃しないことを誓約した。

そんななか、鉄道建設の最前線─それはBRIの鍵でもある─では、2016年に史上初の貨物列車が中国からカザフ・ウズベキスタンを経由して、アフガニスタンのハーラタンに到着した。その交易のフローとは依然として無視できないものだが、未だに定期列車の便は存在しない。

ロシアと中国が主導している上海協力機構(SCO)も、最終的にそこに加わった。その最近の頂上会議では、治安の「劣化」を警告しつつも─インドとパキスタン、そして今や全SCO加盟国による協力のもとで、SCOがアフガニスタンの「全アジア的」な解決を見出すための直接的な関与を行う、と宣言した。

The “Syraq” connection「シラク・コネクション」(*シラク:Syria+Iraq)

アフガニスタンとは、新疆自治区の隣人でもある─そして、同国の深奥の近寄りがたい一部の地域とは、ウイグルの分離主義者で、アルカイダとも繋がりの深い東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)の分子を匿っている(彼らが、ISISからは無視されているために)。
問題を更に複雑化しているのは、ヒンズークシ山脈を貫かねばならない新シルクロードというものが、究極、”Syraq(シリア+イラク)”の偽のカリフ公国(ISIS)の情勢というものに直接、関係せざるを得ないということでもある。

シリア・アラブ軍(SAA)は、イラク国境に向けて仮借なく進軍している。同時に、イラクの人民動員隊ユニットIraqi Popular Mobilization Unitsは、アル・ワリードでシリア国境に到着した。彼らのなかに我々は、米軍の姿を見かける─彼らはシリアで、al-Tanafを占拠している。しかし、ダマスカスとバグダッドの両政府は、al-Tanafの国境をイラク側から閉鎖することに合意した─このことは、米軍がヨルダンに戻る以外にどこにも行けないことを意味する。

ペンタゴンは、このことを軽視できずに賭けに出る可能性がある。ロシアの国防省は、こうした米軍勢力が、最後にはイラク軍とシリア軍部隊を邂逅させぬよう、高移動性迫撃ロケット砲システムHigh Mobility Artillery Rocket System (HIMARS)を用いるだろうともみなしつつある。

レバント地方を通ってBRIを延長すること─そして、古代のシルクロード同様に中国と地中海を陸路でつなぐこと─それは、中国政府にとっての絶対的命題だ。しかし、それにも関わらず─そのことはマイケル・フリン中将自身が(記録によれば)容認したとされる、究極的な事実に正面切って衝突する─つまり、オバマ政権が「希望的決断」を行って、ダマスカスの体制転換を促進するために、「Syraq」全土にわたってISISを「スンニスタン(スンニ派優勢地域)」に到達させることを目標に据えて、ISISを跳梁跋扈させるに至ったということだ。それを翻訳するなら─ISISにレバントのBRIを寸断させる、ということだ。

米国のディープ・ステート(諜報部門)の影響力あるセクターが、このプロジェクトを放棄していないのは確かだ。同時にトランプ大統領は、ISISとの戦いを放棄しない、とも宣言している。根本的な問いとは─シリア政府を撃ち、イランにいるその支持者たちを撃つという「サウド家の方針」が、米国でも優越性を獲得するか、という事だ。

1990年代半ばに、タリバンがアフガンのパシュトゥーン部族地域の戦争領主たちを追撃した際に地方の住民は彼らを支持した─なぜなら、彼らが道路や村々の安全を守ったからだ。彼らは、メッカにいる預言者の彼の敵との戦いを助けるために、天から来た天使のようにみなされた。

この「Syraq」の軍隊どうしの出会いとはとても重要だ、なぜなら、それは新シルクロードの鍵となる結節点を再編成する効果を生むからだ─つまり、テヘラン、バグダッド、ダマスカス、ベイルートといった、結節点となる都市の再編成を─。

「タリバニスタン」をめぐる私の旅(そのうちのいくつかはAsia Timesに書いている)において、私はタリバンが冷徹で、信仰心に篤く、道徳的で、ある種の重々しい曖昧さ(不明瞭さ)に包まれ、実質的に接近不能であるということに気づいた。
しかし、ヒンズークシ地域での、リニューアルされたグレート・ゲームの主な役者たちというのは、タリバンたちからは程遠い者たちだ。それは、「Syraq」のカリファテ(カリフ公国)が崩壊した後に、ディアスポラによって四散したジハード戦士たちなのだ。

ISISはすでに、イラクとシリアの隠遁地にいるジハード主義者たちをヒンズークシに向けて送りだしている。同時に、彼らは、多くの資金と武器を持つ数十名のパシュトゥーン人たち(=何千何万もの潜在的自爆テロリストの候補者たち)をも、活発にリクルートしている。

アフガン人以外にリクルートの対象となる新たな一団とは、チェチェン人や、ウズベク人、ウイグル人らを含んでいる─彼らには皆、ペンタゴンのMOAB爆弾でさえも入り込めない山間地域の景色に溶け込める優れた能力がある。

カブールの世俗化したアフガン人たちは、すでにアフガンが新たに再び変貌したカリファテの要塞になるのではないか、と恐れている。Islamic State Khorasan (ISK)を自称する者たちに対抗する救援部隊に加われるか否かは、SCO─中国、ロシア、インド、パキスタンが主導する─次第なのだ。さもなくば、ユーラシアの統一は、中央アジアと南アジアの交差点をめぐるすべての地域で生死にかかわる危険に遭遇するだろう。
 
http://www.atimes.com/article/fear-loathing-afghan-silk-road/