Tuesday, June 7, 2011

悪い駆け引き Bad Bargains - By THOMAS L. FRIEDMAN

911の本当の黒幕、としてのサウジのワッハーブ派批判を、トム・フリードマンはしばしば訴える…

悪い駆け引き Bad Bargains - By トーマス・L.フリードマン(5/10, NYタイムス)

 というわけで、オサマ・ビン・ラディンはパキスタンの特別に建てられた別荘に住んでいた。私は、彼がどのようにしてその家を買う金を得たのかに興味がある。彼はサウジ・アラビアからの年金401(k)を、キャッシュにでも換金したのだろうか?たぶん、パキスタンのサブプライム・ローンの担保金なのか?否、私はそのすべてが、アル・カイダのほとんどの資金と同じ出所からきたことを…我々は発見するだろうと思う─パキスタン軍の用心深い目の許で、サウジの複数の個人からの献金を結合した資金が用いられたのだろうと。

 なぜ、我々はそれを気にする必要があるのか?それは、これが問題の中心だからなのだ。つまり、我々による、9月11日のテロを惹起したビン・ラディンの殺害は正当であり、戦略上でもきわめて重大だった。私は… その資金をまかない、主な計画立案者たちや末端の歩兵らを送りこみその攻撃を真に可能にした…二つの悪しき駆け引きの排除が、簡単なものであれば良いのにと望んでいる。我々は今、サウジ・アラビアとパキスタンの支配者らの駆け引き(彼らは今もつつがなく生き延びているが)のことを話しているのだ。

 サウジ・アラビアの支配者が行った駆け引きとは、アル・サウド一族とワッハーブ主義の宗教的セクトとが交わした古いパートナーシップのことだ。アル・サウド一族は、どんなにその宮殿の壁の背後に隠れている必要があろうとも権力の座に留まり続け、その見返りとしてワッハーブ派のセクトの追随者たちが、その国の宗教的慣習やモスク、教育システムを支配している。

 ワッハーブ派はサウジの政権をひとつの選挙も行わずに祝福し、そしてその政権が、彼らに金と宗教的なフリーハンド(やりたい放題)を与えて祝福している。唯一のマイナス点とは、そのシステムが、「座っているだけの男たち(“sitting around guys” )」─宗教教育を受けただけで、何の職業的スキルももたない若いサウジ男性たちを、安定的に、確実に供給し続けている点だ…そしてこうした男たちは9/11スタイルのハイジャッカーたちや、イラクの自爆テロリスト要員としてリクルートされるに至った。

 そのことを、『イスラムの揺り籠(“Cradle of Islam” )』を書いた文筆家で、サウジ・アラビアの前石油大臣の娘でもあるMai Yamani以上に巧みに説明した者はないだろう。「西欧の10年にわたるテロとの戦いにも関わらず、そしてサウジ・アラビアの米国との長期的な同盟にも関わらず、王国のワッハーブ主義の宗教エスタブリッシュメントは引き続き、世界中でイスラム過激派の思想を援助し続けた」、とYamaniは今週、レバノン紙のデイリー・スターに書いた。

 「サウジで生まれ教育を受けたビン・ラディンは、その倒錯的な思想の申し子だ」、とYamaniは付け加える。「彼は、宗教的な改革者などではない。彼はワッハーブ主義の申し子として、後にワッハーブの体制側からジハード戦士として輸出されたのだ。1980年代には、サウジ・アラビアはワッハーブの教義の宣伝活動に750億ドル以上を費やし…パキスタンからアフガニスタン、イエメン、アルジェリア、そしてそれ以遠のイスラム世界全体において学校やモスク、慈善事業の設立を援助した…驚くなかれ、何千ものアンダーグラウンドのジハード戦士のウェブサイトに扇動された国際的なイスラム主義の政治運動は、サウジ王国に起源を持っている。同じくサウジからのワッハーブ主義の輸出品である9/11のハイジャッカーたちの如く、サウジ・アラビアには未だに潜在的なテロリストの予備役らが残っている─なぜならワッハーブの狂信的な思想工場が無傷で残存しているからだ。故に、本当の戦いはビン・ラディンとの戦いだったわけではなく、それはサウジの国家が援助する思想工場との戦いだった」

 これはパキスタンも同様だ。パキスタンの支配層の行う駆け引きとはパキスタン軍が仕組んでお膳立てしたもので、それはこのように言う:「我々はこの国を君ら文民が支配しているように見せかけ、そして実際には国家予算の25%近くを費やして全ての重要事の支配権を握り…そのすべてをパキスタンにとっての真の安全保障上の挑戦─インドとそのカシミール占領に対して必要な経費だ…として正当化する」。ビン・ラディンが、米国のパキスタン軍への援助を発生させるためのサイド・ビジネスと化すのを見ながら。

 アル・カイダに関するエキスパートLawrence Wrightが今週号のThe New Yorker誌で彼の見解を論じている─パキスタン軍の諜報部門は、「これまで“ビン・ラディン探し”のビジネスに従事していたが、もしも彼らを見つけたなら、それ以降は仕事がなくなることになった」。9月11日以来─と、Wrightはつけ加える、「米国はパキスタンに110億ドルを与えたが、そのうち膨大な額を軍事的援助が占め、多くは同国のインドに対する防衛のための武器購入に不適切に費やされた」

 (アフガニスタンのHamid Karzai大統領もまた、同様なゲームを行った。彼は“アフガニスタンの“安定を模索するビジネス”のなかに居る。しかし彼は、我々が資金援助をし続ける限りは、その探索というものを続けていくだろう)

 この両国に必要なのもは、ショック療法だ。パキスタンにとっては、その不当に大きな部分を軍事援助にあてていた米国からの援助を、K-12(*)の教育プログラムへと振り向け、同時に米国のアフガニスタンへの介入を減らしていく、という意味だ。そして同時に我々が送るべきメッセージとは…我々がパキスタンのその真の敵(我々の真の敵でもある)─との戦いを助ける準備がある、ということ…つまり、無知と文盲、腐敗したエリート層、そして宗教的な反啓蒙主義(蒙昧主義)との戦いだ…しかし我々は、パキスタンがインドに脅かされているがためにアフガニスタンでの「戦略的縦深性(ストラテジック・デプス)」やタリバンとの連携を必要とする、というようなナンセンスな主張に騙されることには興味がない。

 それはサウジ・アラビアも同様だ。我々はアル・サウード家とワッハーブ主義者たちのménage à trois(夫婦と三角関係のもう一人が同居する世帯)に住んでいるのだ。我々がアル・サウード家にセキュリティを提供する代わりに、彼らが我々に石油を提供する。ワッハーブ主義者たちはアル・サウード家に法的正当性を提供し、アル・サウード家は彼らに、金(我々から得た)を提供する。それは、アル・サウード家にとっては実に上手く機能する、しかし我々にとっては上手く働きすぎるということはない。そこから脱出するための唯一の策とは、どちらのグループからも提案されていないこと…つまり、米国の新たなるエネルギー政策だけなのだ。

 それゆえ、私の結論はこうだ:我々は確かにビン・ラディンが死んでより安全になった、しかし、誰も安全になる者はないだろう…もちろん、まともな未来を獲得するに値するサウジ・アラビアやパキスタンの多くの穏健派ムスリムたちにとっても、安全は得られない─イスラマバードとリヤドの支配者たちが、異なる駆け引きを行わない限りは。
http://www.nytimes.com/2011/05/11/opinion/11friedman.html?ref=thomaslfriedman

*K-12:幼稚園(KindergartenのK)から始まり高等学校を卒業するまで無料教育の受けられる13年間の教育期間」のこと[米国・カナダ]

(写真は2009年6月、オバマ大統領のサウジ訪問)