Saturday, October 22, 2016

ミシェル・オバマ、ドナルド・トランプに説教す Michelle Schools Donald Trump-By Maureen Dowd

ミシェル、ドナルド・トランプに説教す
By モーリーン・ダウド (2016/10/15、NYタイムズ)

木曜日に、ミシェル・オバマは、ヒラリー・クリントンのための
選挙戦で、報復の天使を演じた
アニタ・ヒル(*1)は、彼女の戦いに敗北した。

そして、彼女に対して変態じみた振舞いを働いた気持ちの悪い男が、戦いに勝利したのだ。

セクシャル・ハラスメントの問題が爆発して全米的な注目を浴びたのは、25年前のことだ─それは、ワシントンのマッチョ主義のシンボルである…ベトナム戦没者モニュメントの影のもとで、男性が優越支配している下院議会において爆発した。

政治の表舞台で、そこまで下品さの極まる、性的に露骨な言葉づかいというものは、いまだかつて聴かれたことがなかった…それは、まるでアメリカ人の深層心理の最もセンシティブな部分へと削岩機が掘り進んで、到達したかのようだった。

1991年の、その精神的なトラウマの元となった一週間は…セクシャル・ハラスメントについて教える際の重要なチュートリアル(教材)ともみなされている。だが。そうした事実を除くなら─最後には、“領主の権利”(droit du seigneur)というものが容認された。クラレンス・トーマス(*2)は脅しに屈した上院司法委員会によって報奨をうけ、最高裁の終身判事の職を得たのだ。

トーマスへの反対票を投じる女性はいなかった─なぜなら、委員会には女性が皆無だったからだ。委員会のメンバーとは、白人の中年男性ばかりだった…彼らの多くが、ヒルとトーマスの間には何らかの合意に基づく関係があったのに違いない…などと信じながら議場を後にした。

─そのこと以外に、彼女が自分のストーリーを語るべく、何十年ものあいだ待ち続けた理由など、あっただろうか?

─そのこと以外に、トーマスが病的な好色さを見せたそのときに…あるいは少なくとも…さらなる新政権において彼が、再び司法長官の座に就任しよう…とした時にすら、彼女が彼に付き従うのをやめて辞任しなかったことの、理由があるだろうか?

男性の性的な優越性 [male entitlement]とは、男性の性的な優越性[male entitlement]に関して推し測る能力はあるが…しかし、それは女性たちが、様々な仕方で所有財産のような扱いをうけ続けて、彼女たちがそれらの恥ずべき扱いに対抗し…食い止め…克服するために、様々な方法でリアクションを起こしている…ということを推し測る能力を持たないものだ。

いまや、我々は政治の表舞台で展開される、未だかつてない俗悪さと、性的に露骨な言葉遣いのスライム粘液の、更なる一週間に浸されている。女性たちが大挙してマイクロフォンの元に名乗り出て、その気味の悪い男が彼女らに働いた変態的な行為について語っている。

だが今回、女性たちには投票権がある。トーマスはより大きな仕事を得るために戦いに勝ったかもしれないが、ドナルド・トランプは負ける。彼に関して申し立てられている逸脱行為は、女性たちをヒラリー支持へと奮い立たせた…自らの選挙キャンペーンで、ヒラリー自身にはなしえなかったような方法で。

ヒラリーには、男性が働いた性的に淫らな行為に対しては不器用な弱みがある。しかし、ミシェル・オバマは…アニタ・ヒルも決してやらなかったような方法で、報復の天使としてそこに踏み込んだ。木曜日の、ヒラリー支持者たちのキャンペーン集会で、彼女の声は嫌悪感に震えていた…ファースト・レディーは、トランプの(彼女はそこで…親切にも彼を名指しせずに済ませてやったが…)その「残酷」、かつ、「ぞっとするような」行為が、「ロッカールームの会話」だとか、「バッド・ドリーム(悪しき夢)」などといった言葉ではなぜ、済まされないのかを説明した。

「それは、恐怖(terror)の感覚、余りにも多くの女性たちが、誰かに体を摑まれたときに感じた暴行の感覚、あるいはその男が、彼自身を彼女の上に覆いかぶせて、そして…彼女らがノーといったにも関わらず、彼がそれをきかなかったときの感覚なのだ」、と彼女は言った、「それは我々が、母親や祖母らから聞かされていた話を思い出させる…彼女たちの時代には、オフィスではボスたちが何でも言える権利を持ち、オフィスの女性たちは彼の喜ぶことならば何でもさせられた…といった話を」。

この話は、私に私の母のことを思い起こさせた─母は20代の頃にはワシントンの証券会社で働いていたが…クリスマス・パーティーの席では、重役たちが恒例のように若い女性を呼び寄せては膝の上に乗せていた…といった話を。

もちろん、ミシェルによるこの奮起させるようなメッセージは─彼女の夫が、好色なビル・クリントンをホワイトハウスに呼び戻すことを先導している、という事実によって、何となくその価値を削り落とされてしまう。

トランプ・ファミリーが、セクシャル・ハラスメントに関する理解を欠くという事実は…ドナルド・ジュニア(Don Jr)が2013年に、このトピックについて尋ねられたラジオ・インタビューにおいて、こう答えたことでも明らかだ─「もしもあなたが、今日の企業労働者たちにとって、問題を生じかねないような基本的事柄を自らの手中でコントロールできないのなら、あなたは彼らの一員にはなれない」。彼は、そのとき、こうもツイートしていた、「もしも、あなたがその夜の状況においては@mark_mcgrath(*イケメン俳優の名前)のようにみえたならば…あなたもまた、誰よりも酷いやり方で他人にセクシャル・ハラスメントを働いている、というわけだ。人事課の規則など適用されはしない。ハハハ…」。

その、威張りちらす70歳の共和党指名候補者というのは、常に1959年の時代にタイムワープすることに捉われているようだ─まるで、ラス・ベガスのサウナ・ルームで、フランク・シナトラに向かって、「broads(“若い娘”)」だとか、「”スカート”」とかについての自慢話を吐きまくるみたいに。…だが、性的暴行に関する大量の告発や、逸脱行為のキス、ビューティー・コンテストの更衣室で脱衣中の女性やティーンエージャーたちを驚かせたという行為、ハワード・スターン(TV司会者)に対して…23歳のイヴァンカが「ただの糞(a piece of ass)」だった、などと認めたこと…は、洞窟に棲む男というもののイメージに、さらに胸の悪くなるような一面をつけ加えた。

トランプは、大統領候補者間の2度目のディベートの場に、ビル・クリントンの告発者らを連れていくような矛盾を冒すことはなかった… だが…ヒラリーが悪辣な態度で彼らの信用性を損ねたことは、批判されるべきだと述べた─彼もまた、自分の側のクリントン告発者たちからの信頼性を、酷く損なう行為を行いながら。

5thアヴェニューの城に閉じ込もった、気の触れた王が、企業やメディアのエリートが彼に対してもくろんでいる…というグローバルな陰謀に憤りをぶつけている…そうだ、ウエスト・パームビーチの支持集会では、ナチスのカギ十字のサインだって飛び出した…彼の反論がいかに不快なものかを、彼自身は気づいてもいない─彼を(性的暴行で)告発している女性たちは、襲うに足るほど魅力的でなかった─などと、彼が言うような時に。

トランプの第一子の誕生と、妊娠中のメラニア(夫人)に関するエピソードをMar-a-Lagoで執筆していた際に、トランプに襲われそうになったという、People誌のライター、ナターシャ・ストイノフに関して─その権力者は、ウエスト・パームビーチの聴衆に、こう言ったのだ、「見てみろよ…おい、君ら、見てみるがいい。彼女を見てみろ…彼女の言葉と比べてみろよ。君らがどう思うのかを、俺に聞かせろよ…俺は、そうは思わないぞ。」

ノースカロライナ州のグリーンズボロで、彼は… 30年前に、航空機内でトランプが性的に淫らな「蛸」のように振る舞った…とNYタイムズに話した、ジェシカ・リーズについて語った。「俺を信じろ。彼女はおれの一番の好みなんかじゃない…。それが、俺がお前に言えることだぞ」─聴衆は笑った。

その集会で、彼はヒラリーをも下品な笑いものにした─「俺が自分の演説台に立っているときに、彼女が俺の前を通る…そうだ、彼女が俺の前を横切るんだ。そして、彼女が俺の前を横切るときには…俺を信じろ、俺はまったく 何もインプレッションを受けちゃいないぞ。」

トランプは気づいていないかのようだが─彼が彼の弁護士を使って…二人の女性が彼を暴行した、というエピソードを掲載したNYタイムズを告訴する、と脅したとき─彼はすでに、それ以前にその件は自分で告白していたのだ─タイムズの尊敬すべき弁護士・デヴィッド・マクロウはこう反論した、「我々の記事とは、トランプ氏がすでに…彼みずからの言葉と行動を通じて彼自身のためにうちたてた名声に対しては、微塵の影響力も持っていない。」 http://www.nytimes.com/2016/10/16/opinion/sunday/michelle-schools-donald-trump.html?_r=0&mtrref=query.nytimes.com&gwh=DFC3A82357B2538173E1571D2950C5C8&gwt=pay&assetType=opinion

(*1) アニタ・ヒル:黒人女性弁護士、法学教授。1991年に教育省に在職中に上司のクラレンス・トーマスを職場でのセクシャル・ハラスメントで告訴し全米の注目を集めた。
(*2)  クラレンス・トーマス:父ジョージ・ブッシュ大統領に指名され、’91年に合衆国最高裁首席判事に就任、現職。
★動画:キャンペーン集会でのミシェルのスピーチ

Michelle Obama's EPIC Speech On Trump's Sexual Behavior (FULL | HD)
https://www.youtube.com/watch?v=r7e3QKKOp50

★参考記事
連邦最高裁裁判官、クラレンス・トーマス
http://blog.livedoor.jp/mediaterrace/archives/12589174.html
アニタ・ヒル事件、19年目の後日談とは?
http://cache.yahoofs.jp/search/cache?c=zOt-A2VYf6wJ&p=%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%AC%E3%82%93%E3%81%99%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%B9&u=www.newsweekjapan.jp%2Freizei%2F2010%2F10%2Fpost-213.php

ミシェル・オバマの正統的パワー (Byフランク・ブルーニ)

The Authentic Power of Michelle Obama By Frank Bruni (2016/10/15, NYタイムズ)

レイシズムを不当な取引の材料につかい、女性差別主義を推し進め…バラク・オバマの出生の地についての嘘も、政治的な気運を得る梃子にもちいる…といった手段をあれこれ駆使した後に、ドナルド・トランプが止めの一発のデス・ブロウというものを…黒人女性、つまり大統領の妻から食らうとしたら、美味しすぎるのではないか?
そしてまた、何年ものあいだ政治の舞台の醜悪さからは慎重に距離を置いてきた、その後に、ファースト・レディがこのグロテスクな選挙戦にみずから乗り出してきた…なんて、面白くないだろうか?

それは、トランプが体現している唯一無二の脅威に対して、彼女が最も獰猛極まる対抗者として現れた…というこの状況のすべてに言えることだ─つまり、それはオクトパス・キラーのミシェル・オバマだ─彼女には威力がある、その理由とはすなわち─彼女が今まで、一度も戦いに挑んだことがなかったからなのだろうか?我々は、それが彼女であることを知っている。彼女は何か擁護すべきものがある場合にだけ、行動に出る。そして先週の末に彼女が、感動的で焼け焦げるようなスピーチを通して擁護したものとは─トランプの勝利によってそれが台無しにされかねない、彼女の夫のレガシーより以上のもの…つまり、それは彼女の女性としての尊厳であり、すべての女性の尊厳というものなのだ。

私は、彼女のインパクトを買いかぶるつもりなどない─トランプは、彼女が非難の嵐に加わる以前から、その勢いを喪失しつつあった。しかし彼女の雄弁さは、その取引を確実なものとして固めたのだ。最初に彼女は、7月中の木曜日にニューハンプシャーの民主党大会で…彼女が全米の良心を体現していると自ら称して、我々の最も重要な価値観のもっとも誠実な擁護者だ、とも自ら宣言していることの裏付けを得る賭けに出た。

ヒラリー・クリントンには、その役は勤まらない。彼女は余りにも多くの混乱した妥協を行い、そして余りにもしばしば、ロココ調の計算も行ってきた。ハッカーによって暴露されたジョン・ポデスタ(*)の電子メールの示唆するものとは、クリントンに関する噂を広範囲に囁く者たちの委員会が、その賢明な刀を一振りしない限り…彼女は瞬きすらもしない、という事なのだ。

(*)ヒラリー・クリントンの現・選挙参謀長、ビル・クリントン政権では大統領首席補佐官を務めた。

バラク・オバマにも、その役は勤まらない─現今の状況のもとで、ちょうど今の彼の気分からいって、そうなのだ。先週、オハイオ州での演説のなかで、彼は有権者たちに対して、主にこう訴えた─単にトランプを拒絶するよりも、共和党全体に罰を与えよ、と…そして、党の骨折りが報われるという歓喜を保証した─だから俺が言っただろう、といった調子で。

彼は共和党というものを「幾度も、幾度も、幾度も…栄養補給が施され続けてきた、気のふれた人間のたまり場」であると、激しく非難した。彼は彼らに対して─トランプというのは、あなたのアジェンダが「嘘に立脚しており、はったりの上に成り立っているとき」に、指名を受ける人物だとも言った。彼は、単に米国の未来の安全というものを守っているだけではなく…彼が行ったレベンジをも暴露していた。

ミシェル・オバマもまた、おそらく、彼女の夫(と彼女)がくぐり抜けてきた最悪の事柄へのレベンジを行いたいのだろうが…しかし、彼女の言葉の中にそれはなかった。

その主な理由とは、つまり、彼女は政治家ではない、ということの贅沢を享受していたのだ。彼女は、何に対しても立候補するつもりなどない。彼女は多くの事柄に影響力を揮おうとはしてこなかったし、意見の異なる有権者たちには潜在的に距離を置くか、あるいは、そうした者たちの前面にだけ放った矢で、武器を使い尽くして済ませてきた─あなたには、支持率というもののアップへの関心があるのだろうか?それならば大統領のオフィスを出るか、あるいは、最初からそこには踏み込まないほうがいい。

だが、そんな状況にあっても彼女は、さらに才能に磨きをかけてきたというわけだろうか?ワシントンでは、ちょっと珍しいことなのだが。さもしい根性の蔓延している状況の向こうを張って、彼女と、彼女のスピーチライターたちは、よくある非難の言葉や様々な恨みつらみの羅列に代わる…含蓄に富んだ、魂のこもった演説を楽々と行ってみせた。私は、彼女の党大会演説のなかのゴージャスな一節というものを思い起こす─ワシントンに移住して以来、黒人の奴隷たちの手によって築かれたホワイトハウスで、彼女の娘が目を覚ますのを、毎朝、その目でみてきた、という一節を。その描写は、アメリカが犯した罪への戒めでもあると同時に、この国が遂げてきた進歩というものへの感謝と称賛と、祝福の念にも溢れていた。それは、政治や政治家たちには滅多にできないことなのだ─すなわち、複雑で議論の余地のない真実というものの描写だ。
http://www.nytimes.com/2016/10/16/opinion/sunday/the-authentic-power-of-michelle-obama.html