これは昨年秋以来、話題になった陰謀論のコラム
A Pump War? By Thomas Friedman(2014,10/14, NYタイムズ)
これは私のイマジネーションなのか、あるいはそこにはグローバルな石油戦争というものが…一方に米国とサウジアラビア、他方にロシアとイランの両者を競い合わせて進行中なのだろうか?米国―サウジの石油同盟が故意のものなのか…あるいは、偶然の利害の一致なのかは誰にも確言できまい─だが、もしもそれが露骨になれば…我々は明らかに、ロシアのウラジミール・プーチンとイランの最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイに、米国とサウジがソ連の最後の指導者に対して行ったのと同じことをしているのだ─つまり、pump them to death…(彼らを陥れるために…)死ぬほど石油を汲みあげるという(行為)だ─石油価格を、モスクワもテヘランも彼らの国家予算を調達しえなくなるレベルへと押し下げて…。
四つの産油国(producers)を想定してみるといい─リビア、イラク、ナイジェリア、シリア─それらは今日、動乱のさなかにあり…そしてイランは経済制裁でよろめいている。10年前にはそうしたニュースは石油価格を押し上げたかもしれない。しかし今日では反対の事が起きているのだ。グローバルな原油価格は何週にもわたって下落し、今や88ドル前後だ─一長らく、1バレル105ドルから110ドルの間にとどまっていた挙げ句に。
価格の下落とは、ヨーロッパと中国の経済の減速が…米国が世界屈指の産油国に転じたこと(ニュー・テクノロジーが、シェールの“タイト・オイル(※)”の掘削を可能にさせたお陰で…)と複合したことの結果であり…また、米国が例外を実践しはじめて、新たに見つけた石油製品の輸出を許容しはじめたことや…サウジ・アラビアが石油価格維持を目的とした石油の減産を拒否しながらも、(他のOPEC産油国に対抗してそのマーケット・シェア維持を選んだこと…)とも複合した結果なのだ。次なる結果とは、ロシアとイランにとってはその生命を困難にする─サウジと米国が、シリアで両国(ロシアとイラン)との代理戦争をしているというこの時期に…。それはビジネスとはいえ、他の手段…つまり石油においてはまるで戦争のようにも感じさせる。
ロシア人らは気づいている。彼らが気づかないことがあろうか?彼らは、かつてこの芝居を演じたことがある。ロシアのプラウダ紙は、4月3日にこんなタイトルの記事を掲載した、「Obama Wants Saudi Arabia to Destroy Russian Economy.(オバマは、サウジアラビアがロシア経済を破壊することを望んでいる)」。それはこう述べている:「そこには、ソ連の崩壊の原因ともなった、そうした共同行動(joint action)の先例が存在した。1985年にサウジは、石油生産量を1日2百万バレルから1000万バレルに急増させて、石油価格を1バレルあたり32ドルから10ドルに急落させたのだ。ソ連は、石油生産の一部をそれよりも低い価格─1バレル約6ドルで売りはじめた。サウジにとっては失うものはなかった…なぜなら、石油価格が3.5分の1に下落したときに、同国は石油生産量を5倍にしたからだ。ソ連の計画経済は輸出収入の落ち込みに対処できず、それは、ソ連崩壊の一因ともなった」。
US Sec of State John Kerry speaks with Saudi King Abdullah |
モスクワもテヘランも、明日、崩壊することはない。そして、もしも石油価格が70ドルを下回ったなら、米国の石油生産量は縮小するだろう─その石油探索には、コストに見合わないものもあり、価格は上昇するだろうから。しかし疑いなく、そうした価格下落とは、米国とサウジの戦略的利益には都合がよく、ロシアとイランには損害を与える。石油の輸出収入は、イラン政府の収入の6割にあたり、ロシアでも5割以上なのだ。
こうした価格の下落とは、アクシデントではない。10月3日のNYタイムズの記事でStanley Reedは述べている─石油価格の急落は、「サウジアラビアが価格維持よりも、市場シェアの維持に関心がある、とのシグナルを送ったことへのレスポンスとみられる。サウジの国営石油会社Aramcoは、湾岸産油国にとっての重要な成長市場であるアジア向け石油価格を、1バレルあたり1ドルに下げると発表して市場に衝撃を与え、また米国市場向けの価格を、1バレルあたり40セントとすると発表した」…と。またNYタイムズによるなら、米国が今や多くの石油・天然ガスを生産しているなかで、「最近のシティ・グループの報告によれば、米国への実質の石油輸入高は2007年以来、一日当たり8.7百万バレルも減少しており、それは、サウジとナイジェリアを合わせた石油輸出の総額にもおよそ等しい」ものだという。
この資源の横溢とは、我々がシリコン・バレーのエネルギー・テクノロジーの「噴出」に出くわしたのとも、時を同じくしているのだ─それは我々に、いまだかつてないエネルギー効率の良さと、生産性、省エネルギー性をももたらしたが…それはシェールが、我々のエネルギーのセキュリティと、グローバルな強みを確定させたことのインパクトにも等しいものなのだ。
Google はNestを通じて、AppleはiPhoneのソフトウェアのコーディングを通じて平均的な米国人に、家庭や職場でのエネルギーの節約をより容易にさせた。
最終的な結論─産油国の独裁者たちというものは、余り善いものではない。米国は今日、エネルギー省の前・副長官Andy Karsnerが、こう呼んだもの─つまり、「3つの大きなC─code(コード)、crude(原油)、capital(資本)」…というもののなかにあって拡大するアドバンテージを得ている。もしも我々が税制の改革さえ実現できれば、そしてペイロール(社員給与)と法人税において炭素税(carbon tax)を導入できれば…我々は弾力性と、そして、いかなる対抗者よりもはるかに優位な成功への方程式を手に入れることができるだろう。
(※タイト・オイル=頁岩(シェール)層などの岩盤層から採取される非在来型の原油。孔隙率、浸透率が共に低い(タイトな)頁岩層や砂岩層から生産される中・軽質油で、2009年ごろから米国でガス価格が下がり比べて原油価格が高値であったことから投資が活発化し、水平坑井掘削や水圧破砕といったシェールガスの開発技術を応用することで増産が進んだ。IEAの2012年11月の報告では、こうした非在来型原油の増産によって米国は2020年までにサウジ・アラビアを抜いて世界一の産油国になるとの見通しも示された…)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%88%E3%82%AA%E3%82%A4%E3%83%AB
(関連記事)‘Pump them to death’: The secret war on Russia http://www.news.com.au/finance/economy/pump-them-to-death-the-secret-war-on-russia/story-e6frflo9-1227160860899