Sunday, March 8, 2009

ハリリ暗殺事件の特別法廷の近況とは?/”Lebanese split over Hariri tribunal” By Andrew Coombes


ハリリ元大統領暗殺事件をめぐる捜査の結果はどうなっているのか?

「ハリリ暗殺事件の特別法廷をめぐるレバノン人の分裂」 By アンドリュー・クームズ (3月5日、Al-Jazeera)

2005年2月14日にベイルートの海岸沿いで爆発した爆弾は、同時に内戦後のレバノンの歴史上に最も震撼すべき転換点をもたらした。
レバノンの前の首相で、有力なビジネスマンでもあったラフィク・アル・ハリリは、他の22人の人とともにこの大爆発で亡くなった。この暗殺の後、ハリリの何千もの支持者がベイルートで集会を行い、シリアを指差してののしった。ダマスカスは何千もの兵力とセキュリティ・エージェントをレバノンに送っていたが、レバノンのナショナリストであったハリリは、このシリアと仲違いをしたのだといわれる─ 彼の暗殺へのシリアの関与は道理に適っている。
レバノンの民衆からの大きな圧力の中で、シリアは29年にわたって継続した、軍と諜報機関のレバノン駐留を終わらせた。そのすぐ後に、国連はハリリの暗殺に関する調査の実施を要求した。

法廷の役割


それから4年近くたった今、この調査の一環として国際特別法廷がハーグで召集されている─しかしこの法廷の果たすべき役割については、意見の相違がある。
ダマスカスのシリア政府は、米国がこの国連の徹底的な調査活動を通じて、シリアのこの地域への影響力を削ごうとしているのだろう─ シリアの暗殺関与への説得性のある証拠がないにも関わらず─ と主張している。
レバノンでは、政治家たちが3月14日連合(反シリアの政党連合)の名の下に集まり、ハリリの暗殺について、シリアを非難すべきだと訴えている。
しかし一方で、レバノンでシリアの援助を受けているシーア派イスラム教徒のグループ:ヒズボラは、この国際法廷の実施に対して反対を唱えているのだ。

カリフォルニア州立大の政治学教授アサド・アブ・カリルは、レバノンにおける国際法廷への見方には、宗派や政治勢力のラインによって大きな分裂がみられる、という。
─「<3月14日連合>の内側では、"我々はシリアが確かにハリリの暗殺の背後にいることを知っている。まずは、国際法廷が何を言うかをみてみよう"、とのメッセージを発しているのだが、これは、この事態全体の裏に何らかの政治的なものがあることを意味している、と私には思われる」─とアブ・カリルはいう。
─「もしも、あなたがシーア派の地域を訪れたなら、ハリリの暗殺の後ですら多くの人々がこういっていたのをみたことだろう… "我々は、何百万のレバノンの納税者の思いとして、これは単に鬱陶しいと感じるだけなのだ─ 他の多くのレバノン人もイスラエルによって殺されているのに(ハリリが殺された時ほどに注目を浴びる事もなく)、単にハリリ暗殺の犯人を見つけ出そうという事ばかりに、努力が注がれるという状況に対して…。"」

政治的な次元

国連の調査は完全に独立性を有しているから、"<3月14日連合>は、国連法廷がハリリの暗殺にシリアが関与した事を肯定しようと否定しようと、その判決を支持するだろう"、とラフィク・ハリリの息子、サアド・アル・ハリリは述べている。
しかし外交アナリストは、この裁判がいずれにしても政治的な局面(次元)のあるものだとしている。
「多くの人々、特に、ブッシュ政権にいた人々(ハリリが殺されたとき政権の座にあった人達)たちが、この点に期待を抱いている」、とオクラホマ大学の中東研究センターのディレクター、ジョシュア・ランディスはいう。
「ワシントンのネオコン達は、この裁判がシリアとの対話の再開への努力を阻んでくれる事を望んでいる。」
国連のIIIC(独立調査委員会)の最初のレポートは、”シリアが国家テロリズムに関与していた”というブッシュ政権による従来の主張を支持しているようにみえる。
この暗殺事件のキーは2人の目撃者、フサム・フサムとモハメッド・シディクの行った証言である─ 彼らはシリアとレバノンの政府関係者がハリリの車列への攻撃を計画したといっている。

リークされた報告書

しかし(IIICの初代コミッショナーだった)メフリスが個人的に、シリアがこの爆発に関与していたことを確信したのは、2005年10月のレポートの電子版をみたときだという。
この電子版のレポートを見たジャーナリストは、ワープロのページ上で「Undo」のオプション・ボタンをクリックした時、そこに暗殺に関与されたと噂される数人のシリア高官の名前が現れたのをみつけたという。
しかし国連の発行したオフィシャルなレポートには個人名はなく、その理由も未だに不明だという。
メフリスによるリークが意図的なものであろうとなかろうと、それは国連の調査が、シリアの暗殺へのアクティブな役割関与の証明に迅速に向かっていた事を示している。しかし2005年10月の内部向けレポートが公式に発行されるまでの幾週間かの間に、フサムとシディクの証言は信用に足らないとされた─ フサムはその情報をレバノンの報道メディアに売ろうとしたが故に彼自身の信頼性を失った─またシディクはIIICによって偽証罪で逮捕された。

「もしもデトレフ・メフリスの時代に出されたレポートを読んだなら、あなたはその男がしばしば拙速な結論を導くくクセがあると知っただろう」とアブ・カリルはいう。(*メフリスはそのことで非難追及された)
「特に面白いのは、彼が違う方向に向かって沢山のダーツの矢を放っていることだ。例えば一つは、メフリスがレバノンのPeople's Front for the Liberation of Palestine-General Command(レバノンの殆どのパレスチナ難民キャンプで堅固に組織されているグループ)を名指ししたりもしたが、後には彼らは関係ない、ともいっている。彼はこうして法廷の信頼性を損ねてしまった。」

低姿勢なアプローチ

セルジュ・ブランメルツが2006年1月に設置した調査委員会に加え、国連はより熟考の伴う、熱心な活動を継続している。
この喚問でのベルギー人調査担当者のマネージャーは、メフリスよりも低姿勢なアプローチをとっている。時間の経過とともに、シリアは、ICCのメイン・フォーカスから消えつつあるようにみえる。
「ブランメルツと他の人間達がのちに訪れたとき、彼は彼のストーリー(語り口)を繰り返そうとはしなかった─彼らは多くの目撃者の証言に基づく証拠を消した─ハリリに近い関係のあった者達からの指導を受けた彼らからの証言を。」とランディスはいう。
「それがわれわれにシリア人たちの主張したストーリー(語り口)から離れさせた。それに続いて、我々は国連の人間たちがこういい始めたのをみた…彼らはある種の犯罪ネットワークの存在を否定するための証拠をうち立てているところだと。」

非-政治化

米国のシリアとの関係性についてのInternational Crisis Group (ICG)のレポートによれば、調査法廷の側は昨今、徐々に非・政治化しようとしているという─ レバノンが国連によって命じられた調査義務を完遂しつつあることの結果として。
ブッシュ政権が元々、ハリリ暗殺事件の件をダマスカスへの圧力行使のために利用しようとしたという明白な認識により、ある匿名の米国高官がICGに対して語ったのによると:<3月14日連合…レバノンにおける米国の同盟者たち>にとっては、同法廷がこれ以上シリアの暗殺の陰謀への共犯性を自動的に弾劾するということを考えることは不可能になったという。
「昨年この事件を検証した人間たちは、"ハリリ暗殺事件"とイスラム原理主義グループのリンクに焦点をあてた調査活動への転機が訪れたという考えを抱いた。」とアブカリルはいう。「もしもそれが本当なら、それは<3月14日連合>のあり方と信頼性に大きな打撃を与えることになるだろう。」

シリアが調査に対して抱く不信

国連の特別法廷において、ドラマチックな公的声明を出して影響力を行使しようとしたことが批判されているのは、米国と<3月14日連合>だけではない。
シリアは最近、サウジアラビア(米国と<3月14日連合>との緊密な同盟者)との友好関係回復に向かっているが、そんななかでダマスカスは国連特別法廷を政治化しようとしている、とアナリストは言う。
「シリアのオフィシャル・メディアが、国連の調査への不信感の喚起を狙ったということは顕著な事実だ─ 彼らはメフリスの母親に関する勝手に作ったストーリーを流布し、偽の目撃者たちなどもうちたてた。」と、ロンドンのMiddle East and North Africa programme at Chatham Houseのナディム・シェハディはいう。
「レバノンの親シリアの野党は、暗殺事件に関して最初にイスラエルの責任を追及し、そして国際法廷の設置には暴力的に反対して、2008年3月に首都ベイルートの道路を占拠した。シリアが事件に関与したという結論が出される可能性が強まるにつれ、レバノンではこうした暴力行為への心配がより高まった。」とシェハディはいう。

しかし、ランディスは、特別法廷がシリアの高官たちをハーグの法廷室に出頭させるべく試みるなら、シリアには使うべきカードがある、とする。
「この法廷のキーは、IIIC委員会の調査官達が持っていた権限を持たないだろうということだ。
彼らはシリアの個人が証言するように命令することはできる。今、シリアがもし、何らかの非倫理的行為(犯罪性)があるとみるなら、シリアが自らその国民を裁判にかけるだろう」と彼は言う。そしてダマスカスは法廷に対し、シリア人はハーグに出頭する義務はもたない、と告げたという。
ランディスは、ダマスカスが協力を拒むなら、国連とハーグの調査官は国連の安全保障委員会を動かしてシリアに協力を命じ、経済制裁を課すための国連決議を行うべき申し立てもできるだろうと信じている。「然しそれはとても困難になるだろう─ 何故なら我々はブッシュ政権下での政治的環境とは異なる環境にいるからだ。」と彼はいう。


残る緊張と挑戦

法廷が調査によって発見した事項を検討している間、<3月14日連合>そしてその国際的同盟者達と、ヒズボラ、そしてシリアの間には緊張が続く。レバノンは<3月14日連合>とヒズボラの率いる野党との何ヶ月もの政治的不和の後、6月に議会選挙を迎える─そうした選挙は時々暴力沙汰を招く。
法廷はこうして数多くの挑戦に直面している。それは、そこに影響力を及ぼそうとする勢力に阻害されてきたことへの非難を軽減(帳消しに)しつつ、独立した信頼性のある裁定を下さねばならない。同時に、法廷で働いてきたものは最後の裁定がレバノンの多数の勢力を危険な衝突に導く可能性をも、深く考慮しなければならない。
「私は法廷が独立的に、プロフェッショナルなやり方で行動することを望んでいる。それ以外の全ての懸念払拭して。」とジョージタウン大学のダウド・ケイララ教授はいう。
「この法廷が、それを創設した者達の政治的な手先機関であるのではと疑っている人々がいる。告発のレベルでも裁判のレベルでも、関係者全てはこのことに注目せざるをえず、完全に独立性と競合性をたもち、正義だけを唯一の目的にすべきなのだ…。」
http://english.aljazeera.net/focus/2009/03/2009337554205393.html

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★先日ベイルートでは、ハリリ大統領の追悼セレモニーが開かれた─
その地を訪れた クリストファー・ヒッチンズは「ハムラ・ストリート」で夜半、
「酔いのあまりに」親シリア政党 SSNP のポスターにイタズラな落書きをし、袋叩きに
あって負傷したというのだが

Christopher Hitchens on Beirut attack: 'they kept coming. Six or seven at
first'
http://www.guardian.co.uk:80/media/2009/feb/19/christopher-hitchens-beirut-attack

...when the controversial author, journalist and broadcaster defaced a
political poster on a visit to Beirut last week, he found himself at the
wrong end of a bruising encounter that has left him walking with a limp and
nursing cuts and bruises.

Bizzare Beirut
http://christopherhitchenswatch.blogspot.com/2009/02/bizzare-beirut.html

オバマに求められる対イラン政策/"Plunging into the Middle East" - By David Ignatius

ダボス会議での不公平なモデレーターとしてトルコのエルドアン首相を立腹させた、デヴィッド・イグナチウス… やはり、イスラエルとパイプのある保守派のコラムニストなのだろうか?

「オバマに求められる中東への急降下」By デヴィッド・イグナチウス http://www.denverpost.com/viewpoints/ci_11854422

原則的には、米国とその中東の敵対的国家との間の「対話推進」のポリシーは、広範な支持をうけている。オバマ政権は対話を求める、としており、イランやシリアの高官もこれと同様なことをいっている。しかし、ここに複雑な事態が始まる。

その対話とはゆっくりと忍耐強いものであるべきなのか、もしくは緊急のタイムテーブルで行うべきものなのか?米国は前もってそのキー・イシューに関して、譲歩を示すべきなのか?または、その使節たちはいかなる事前の設定条件もなく交渉の席について、討議を開始するべきなのか?そのレトリックとはどんなものになるのか?

─イランの最高指導者のアヤトラ・アリ・ハメネイ師が先週、”バラク・オバマは前任の大統領と同じ「歪んだやり方」を踏襲していた”とか、”イスラエルは「がん細胞」だ”などと述べた今、イランは本当に米国と交渉を開始することなど想像できるのだろうか?

これは対話を開始する、というよりも停止するためのレシピ(方策)に他ならない。イランでの、米国とどう対峙するかに関する集中的な議論のレポートを読むにつけ、これはハメネイ師が意図して行ったことに違いないと思う。

シリア人による食糧強奪に関するイランの挑発的なレトリックにも関わらず、イランの政権は依然として対話を望んでいる。先週、ヒラリー・クリントンがイランに招待され、アフガニスタンとの会議に参加したことは、その最新のシグナルでもある。しかし米政府高官はイランとシリアの外交ポリシーを省みて、交渉課程の進展を形成すべき幾つかのキーイシューにも焦点をあてている。

まずはイランから始めよう。最初のチャレンジは「TWO CLOCKS(二つの時計)」の問題というものだ。

米政府高官はゆっくりした時計の進行を望んでいる─それは彼らが、直接的対話の持続のためには注意深いプロセスを好むからだ。しかし彼らは、同時にイランの核開発ではより速い時計が時を刻んでいると感じており、彼らは来年までにイラン人は核爆弾を製造するに充分な核燃料を得るだろうと実感している。

イスラエルのスパイ機関モサドの前チーフであるエフライム・ハレヴィーは、最近、私にくれたメールの中で、この問題を強調してみせた。「(米国とイランの)対話戦略は、イラン人が、この世界でのすべての時間において対話をもつことが可能なわけではない、と知る事によってのみ成功するだろう─」と。彼は米国がこの対話をほんの短い1,2ヶ月だけに限定するべきだ、と論じている。「あるイスラエルの高官も、先週のインタビューで同じ事をいっている:もし対話がしたいのなら、今やるがいい、確実な日程で─と。」
しかしオバマ・チームは、対話に特定の時間的期限をもつことを好んでおらず、また政府高官たちはイランが時間的プレッシャーを和らげるためにも自ら行動を開始すべきだ、と信じている。「もし彼らがより気ままな対話プロセスを望むならば、彼らはその時計を止めるための、幾つかのステップを踏む必要に駆られるだろう。」とある米政府高官は言う。オバマ政権はこうしたステップがどんなものになるかを決めてはいない、しかし彼らはそれをIAEAの要求、つまりイランに核開発への新規の査察を受け入れ、より透明性を高めることへの要求に協力させる事から始めるかもしれない。

この2つの時計の問題以上に、核問題の交渉の場では、決めるべきより大きな事項がある。1,2年前まで、米国とイスラエルは、イラン人が核燃料の精製に成功する前に核開発プログラムをストップさせたいと願っていた。しかし最後の1、2ヶ月の間にその努力は失敗したようにみえた。この後退的な立場において出来る事は、イラン人が核兵器製造の敷居をまたがぬように命じる事、そして彼らがIAEA査察官をしてイランのウラニウム精製が低レベルな平和利用目的に適合したものだ、と証明させる事である。

あるイスラエル高官によれば、この敷居のオプションは、テヘランのアリ・アクバル・ヴェラヤティ(前・外務大臣で現在はハメネイ師のシニア・アドバイザーを勤める)を含めたある一派によっても、支持されているという。

しかしその高官はイスラエルは(これは代わりにイランのテクノロジー開発の巻き返しをもたらす、として)このアプローチに反対している、という。

シリアでの交渉の道はより複雑でもある、しかし同国も同じように段階的に進行する事柄に直面している。シリアのアサド大統領は、シリアがイスラエルとの直接交渉に出るより前に、イスラエルがゴラン高原を返還するだろうとの確信を得たいと願っている。
米国とイスラエルもまた、シリアが「ゴラン高原カード」を用いる前に、そのハマスとヒズボラへのサポートを穏健化(軟化)させてくれる事への確信を得たいと願っている─ 両サイドが、相手側の好意的な態度表明を待ち望んでいるのだ。

オバマは先週、この対話のプロセスを開始するために、アサド大統領と対話すべく2人の特使を派遣した。シリアでの道における戦略的な理念とは、ダマスカスをテヘランから分離させ、年長者の親分国としての米国に接近させる事である。

米政府高官は、この件が米国による対話の「開始点」ではない、と警告しており、そして「シリアが西欧との接触にベネフィットがあると思った場合は、時間的流れの中ではテヘランとの決裂も起こりえる」、としている。こうした外交戦略の微妙さは重要でもあるが、余り考えすぎても仕方がない。

「時間は我々のサイドにはない。」とある政府高官はいう─ もしもオバマが対話を望むなら、現実問題として、彼は近々に急降下を決める必要がある─ そしてそのプロセスがどこに行き着くかを、見とどける必要がある。