Wednesday, February 2, 2011

イスラエルの怖れとは? Bad news for Israel 


 エジプトの騒乱に対するイスラエル国内の空気をレポートするNYTの先月末の記事では、「ムバラク氏のイスラエルへの支持的な関係にも関わらず、右派や左派の多くのイスラエル人たちは、エジプト人たちがムバラク氏による専制政治を排除し、民主主義を打ち立てたい、との願いに共感を持っている。しかし彼らは、事態が速く動きすぎることへの怖れを抱いている…」と書いている。

 (同じことは、水曜日にイスラエルのネタニヤフ首相もそのスピーチでいっていた)

 イスラエルの某トップ官僚も「我々はそれが自由と繁栄と、機会への願いに関わるものだと知っている、そして我々は専制政治の元で生きたくない人々を支持する、しかしそれが起きた後に誰がアドバンテージを得るのか?」、…と問いかけていたという。
http://www.nytimes.com/2011/01/31/world/middleeast/31israel.html?ref=benjaminnetanyahu

(リベラル紙ハーレツにはこのような記事も見られる「As an Israeli, I want the Egyptians to win(イスラエル人として、私はエジプト人たちに勝ってもらいたい)」http://www.haaretz.com/blogs/a-special-place-in-hell/as-an-israeli-i-want-the-egyptians-to-win-1.340886  )

─以下はイスラエル在住の人たちがイスラエルが陥っている危惧を伝えている記事だ─

ムスリム同胞団への懸念:
イスラエルはエジプトの政権交代を怖れるBy Gil Yaron in Jerusalem (1/28, Spiegel Online)
<冒頭省略>

…イスラエル政府は沈黙し続けている*註 これが掲載された1/28にはネタニヤフ首相はまだ懸念表明をしていなかった

「我々は事態をつぶさにモニターし続けているが、隣国の内政に対し干渉する気はない」と、イスラエル外相は本紙 シュピーゲルに対してコメントした。

そのため、コメントを求めるジャーナリストにとってイスラエルの前産業通商大臣ビンヤミン・ベンエリエゼル(Binyamin Ben-Eliezer)が先週閣僚を辞任して、今週はフリーで野党労働党員としての見解を述べられる立場にいるのは、幸運な偶然だ。「私はその可能性(エジプトに革命が起こる可能性)はないと思う」とベンエリエゼルはIsraeli Army Radioで語った。「私は事態がもうじき鎮まることと思う」とイスラエル・アラブ関係論の専門家でエジプト諜報機関のチーフ、オマール・スレイマンの友人でもあるイラク生まれの前大臣はいう。

ベンエリゼルの言葉は、イスラエルの諜報部および中東専門家らによる現状へのアセスメント…彼らはエジプトの軍の力が強大であることを指摘する…とも一致する。彼はArmy Radioでのコメントで、エジプトの抗議運動に対するイスラエルの立場を説明した。「イスラエルはそこで起きていることに対して何もできない」、「我々ができるのはムバラク大統領への支持を表明し、暴動が静かに過ぎ去るのを待つことだけだ」。彼はエジプトがこの地域で最大のイスラエルの同盟国であることを付け加えた。

不安定な平和 Uneasy Peace

エジプトは1979年に、最初にイスラエルとの平和条約を結んだアラブ国家だったが、その近隣諸国との関係はデリケートであり続けた。よい関係性というものは政府関係者同士のサークルに限られていた。カイロの政権は、両国の市民社会がより密接な関係性を設立しようとすることを阻もうとした。例えば、両国の医師たちやエンジニアたち、法律家たちの間でプロフェッショナルな交流が行われる場合は、政府が彼らに「イスラエルとの国交関係を正常化することには寄与しない」、との宣誓をするよう求めた。

和平合意の締結から30年たった今でさえ、(エジプトの)近隣諸国との年間貿易額は1億5千万ドル(1億1千万ポンド)に過ぎない(参考までに、イスラエルのEUとの2009年の年間貿易額は200億ポンドにのぼる)。

シナイ半島の副知事を巻き込んだ最近の事件は、エジプト人たちがイスラエルのことをどう思っているのかを暴露した。沖合いの海で鮫による攻撃が起きた後、同知事はそれについて、イスラエルの諜報部がエジプトの旅行産業に被害を与えるために仕組んだ殺人魚である可能性は排除できないと述べた。アレクサンドリアで1月1日に教会が攻撃され流血の惨事の起きた後、エジプトのムスリム同胞団のスポークスマンは、キリスト教徒とイスラム教徒の不和を醸成するためにイスラエルがこれを企んだ可能性がある、との憶測を述べた。

もちろんムスリム同胞団の存在は、イスラエルが公式にムバラク政権を強く支持する、主要な理由のひとつだ。同胞団はエジプトで最もポピュラーな運動と考えられるが、イスラエルとの和平合意に関するその立場は明らかだ:彼らはそれを直ちに撤回したいと考える。「民主主義とは、何か美しいものだ」、と2003年から 2005年にかけイスラエルの駐エジプト大使であったEli Shakedはシュピーゲル・オンラインとのインタビューに答えて言った。「しかしながら、ムバラクが権力を維持することが、イスラエル、米国、及びヨーロッパにとって大きな利益がある」

イスラエルにとってそれは、現今のエジプトとの間の「冷たい」平和("cold" peace)と呼ばれるものや、同国との数千万ドルの年間貿易額よりもずっと大きなものに影響を及ぼす。「イスラエルがスンニ派アラブの国々と、今日のように密接に、戦略的な利益を一致させたことはなかった」、とShakedは主にスンニ派イスラム教徒が人口の大半を占めるアラブの国々、すなわちエジプト、サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)等に言及して語る。最近のWikiLeaksによる外交公電の公表は、彼がこのようなことを意味していたことを示唆する: アラブ諸国の大半、そして特にムバラクも、イスラエルと同様に…シーア派イランとその同盟国(即ちガザ地区のハマス、レバノンのヒズボラ等)というものを、彼らに対する脅威(existential threat)である…と考えている ということを。

深刻な潜在的危険性 Potential Serious Danger

「もしもエジプトの政権に変革が起きたならムスリム同胞団が舵を取るかもしれず、それはこの地域にはかり知れない影響をもたらす」とShakedは言う。イスラエル政府は、30年間の平和の後にもエジプト軍が、未だにイスラエルとの戦争というものを想定して軍の装備を準備し、訓練を行っているという事実を、懸念とともに指摘する。

エジプトとの平和条約の破棄は、米国製のモダンな兵器を装備した世界で11番目に大きなエジプト軍との新たな対峙(New front)を開くことになるのだ。しかしイスラエルが─何となく余り、ありそうにない─エジプトとの武力衝突よりも怖れていることとは、カイロのイスラム原理主義政権とハマス(彼ら自身をムスリム同胞団の支流とみなす組織)が同盟関係を結ぶことなのだ。

今日エジプト軍は、シナイ半島からガザ地区への(ハマスの主要な供給ルートである)武器密輸を─しぶしぶながらも─阻止しようとしている。ガザとの間の武器供給の国境線を開くようなエジプトの政権があった場合、それはイスラエルに深刻な危険をもたらす。

Shakedは西側諸国がエジプトに、より一層の開放性と民主主義を要求することを、致命的なミスだと考えている。「ムバラク政権が、民主主義に取って代わられると信じるのは妄想だ」と彼は言う。「エジプトは未だに民主主義を受け容れられるレベルにはない」と彼は─文盲率が20%を超えることなどを一例に挙げつつ付け加える。ムスリム同胞団は唯一の真の代替的選択肢(オルタナティブ)だが、それは西欧に破滅的な影響を招きかねない、と彼は嘆く。「彼らはもしも政権をとった場合に彼らのいかなる反西欧的態度をも変えない可能性がある。それはこれまでどこでも起きたことがない:スーダンでも、イランでもアフガニスタンでも(その、イスラム原理主義勢力においては。)」

究極的には、親西欧の独裁政治か反西欧の独裁政治かという問題だ、とShaked はいう。「ムバラクの周囲の親しい人間(インナーサークル)の中の誰かが彼の遺産を引き継いでくれること(いかなるコストを支払っても)が我々の利益になる」。その過程においては、短期的に大きな流血の起こる可能性も否定できない、と彼は言う。「エジプトの暴動が残酷に制圧されることは、これが初めてではない」
http://www.spiegel.de/international/world/0,1518,742186,00.html


イスラエルにとっての悪いニュース Yalla Peace: Bad news for Israel By RAY HANANIA (2/1, Jerusalem Post)

─民主主義はエジプトの人々に声を与え、彼らの声は和平合意の破棄を要求する可能性がある─

エジプトの全面的な民主的抗議運動は…中東の他の多くの国々よりも民主的な国だが、完全に民主的ではない国イスラエル…にとっての悪いニュースを意味する。
何千何万の反対者がエジプトの主要都市を埋め、終身大統領ホスニ・ムバラクの辞任を要求し─その余波はヨルダンやシリアの専制政治にも及んでいる。
ムバラクは中東で最悪のアラブの専制君主ではないものの、彼はアメリカの傀儡とみなされ─そしてアメリカは今、自身が奇妙なポジションにあることを発見している。アメリカはエジプトの民主主義を他の国々でも行ったようにバックアップするのだろうか、それともエジプトが独裁制からよりオープンな(開放的な)独裁制へと移行することを助けようとするのだろうか?

なぜアメリカ人は、エジプトの専制支配を終わらせることを阻止しようとまでするのか?何故ならエジプトは、アメリカとイスラエルの中東での外交戦略のコーナーストーン(礎石)だからだ。
エジプトの現状維持なしには、イスラエルは多くのものを失ってしまう。

平均的なエジプト人は、ムバラクの前任者アンワル・サダトが1978年9月17日にサインした(イスラエルとの)和平合意を支持してはいない。サダトは、エジプトとイスラエルの間の平和は、パレスチナ人、ヨルダン人、シリア人、レバノン人との間の平和を先導する、と論じようと試みた。…しかしヨルダンを除いては、それらの平和は未だに捉えどころのない状態にある。

サダトの暗殺の後、彼の軍事参謀の一人だったムバラクが大統領になった。外交的才能は未知数ではあったが、彼はイスラエルとの間の不人気な和平条約のケアテーカー(暫定的世話人)となった。
彼は独裁者だが、エジプト人は他のほとんどのアラブ諸国の民衆よりも多くの自由を享受してきた。

イスラエルがエジプトとの和平合意から得られる主なベネフィットとは、国交関係正常化だけでなく、それまでエジプトにより与えられていたエジプトとの戦争の脅威を取り除くことだった。 (*注:イスラエルの年間軍事費は和平合意後、締結前の約3分の1に激減した)

イスラエルにとって一旦、エジプトの合意にサインがなされるや否や地域戦争の脅威は消滅し、原理主義的なイスラムの前衛ハマスやヒズボラ(イランの代理人)や、専制的・独裁的国家との代理戦争にそれは取って代わられた。

表面的には、エジプトが民主主義に変わるのは結構なこと─それがアメリカやイスラエルをぎこちない立場に陥らせはしても、良いことであるように聞こえる:確かに彼らは民主主義を欲している…しかしイスラエルとの和平合意が損なわれなければ、の話だ。

現状におけるイスラエルとの平和とはムバラクのような独裁者によってのみ実現可能なものなのだ。民主主義は人々に声を与えるが、彼らの声とは明らかに和平合意の破棄を求めている。

もしもエジプトの政権が堕ちるならば、反イスラエル感情の唱和がアラブ世界全体に広がり、おそらく(各地で)新たな地域戦争を起こす可能性がある。ヨルダンではすでに反体制デモがおき、シリアの専制君主バシール・アル・アサドも同じような反対デモの阻止策を即時に講じた。

そうなれば、イスラエルはこの地域で自らが1960年代の状態に立ち戻ったことを発見し、アラブ世界の国々の間で孤立し、より一層の戦争の危険性に恒常的に脅かされることになろう。

アラブ世界は、西欧とイスラエルの友であり敵である独裁者の足下に置かれるかも知れないが、しかしアラブの民衆は、イスラエルに関しては長年にわたるニセの約束と悪い取引交渉を通じて、そのことを見通す賢さを持っているだろう。

もしも民主主義がエジプトを席巻し人々が実権を握ったなら、イスラエルは重要な転換の軸に直面する:平和を拒絶する従来の方向性をとるか、中東のコミュニティの真のメンバーとなるために、パレスチナ人たちとより真剣に交渉を行うか、の。

民主主義は良いものだ、しかしそれによって現状維持の都合の良さを破壊するという代価を購わねばならないのだ」。

最大のルーザーとは独裁者たちと、西欧の外交政策と、おそらく、イスラエルだ。

(*筆者のRAY HANANIA氏は、パレスチナの大統領に立候補しているというパレスチナの知識人http://www.yallapeace.com/
http://www.jpost.com/Opinion/Columnists/Article.aspx?id=206277