Thursday, June 17, 2010
イスタンブールからの手紙 / Letter From Istanbul- By THOMAS L. FRIEDMAN
ガザの支援船への襲撃事件で、トルコの対イスラエル感情が最悪に?! NYTの、ユダヤ系リベラルのご意見番がイスタンブールに出張…状況を憂慮している(※写真はエルドガン大統領)
イスタンブールからの手紙 By トーマス・L・フリードマン(6/15, NYタイムス)
イスタンブールにて:
トルコという国は「ハロー!」という挨拶を交わすや否や私の心を奪ってしまった国だ。私はトルコの人々や文化、食べ物、何よりもモダンなトルコ、という考え方が好きだ─ヨーロッパと中東の繫ぎ目にあって、モダンで世俗的な国、イスラム教の国、民主主義の国であり、かつて一度はアラブ/イスラエル/西欧の三者とも良好な関係を維持していた国だ。9/11の後に私は、〔トルコ・モデルTurkish model〕というものが〔ビン・ラティン主義Bin Ladenism〕への解毒剤になる…と考えて賞賛したうちの一人だった。もちろん、私が前回トルコを訪れた2005年に同国の官僚たちと論議したのは、主にトルコのEU加盟への努力に関する話題だった。だからこそ今日トルコに戻り、この国でイスラム原理主義の現政権が… 一見すると、EUへの加盟に照準を定めるのをやめ、アラブ連盟への加盟の方にフォーカスしはじめた ─いや、訂正しよう─ 対イスラエルのハマス-ヒズボラ-イラン抵抗勢力の前線への加盟にフォーカスしはじめた、ということを見るのは実にショッキングなことなのだ。
そしていまや、それはどのように起こったのか?
ちょっと待て、フリードマン!それはずい分とひどい誇張だ…、とトルコの高官たちは言う。
そのとおりだ。私は誇張している、でもそれほど酷い誇張でもない。過去2,3年の間にトルコの国内外に生じたバキューム(真空状態)は、トルコにRecep Tayyip Erdogan首相の「正義と発展党」(Justiceand Development Party)が率いる、イスラム原理主義系の政府をもたらした─ 同国が、東洋と西洋の中間のバランス地点にあるという、その立場を忘れて。このことは、何か大きなもの示唆している。トルコのバランス地点としての役割は、国際政治にとっての最も重要な、静かなるスタビライザーのひとつだった。それが失われたときにだけ、あなたはそのことに気づく。イスタンブールにいることで、私はこれらの真空状態が間違ったものでふさがれた時に、我々はそのようなトルコを失う道の途上にあると気づかされるのだ。
最初の真空状態というものは、EU(欧州連合)のお陰によって生じた。10年間にわたってトルコ人たちに、君らがもしもEUに入りたいのなら法律を改正し、経済や、少数民族の権利、市民と軍の関係などにも改革が必要だ、などといい続けた─それはErdogan政権が実際にシステマチックに行ってきたのだが─ しかし、今やEUのリーダーたちはトルコに対して告げた、「あれ、誰も君たちに言わなかったろうか?我々はクリスチャンのクラブだよ。イスラム教徒は加盟できないのだよ」、と。EUのトルコに対する拒絶、それは大きな悪い動きだが…それはトルコが、イランやアラブ諸国に接近するように促しているキー・ファクターなのだ。
しかしトルコは、より南の方角を志向し始めたときに、そこには別の真空があることにも気づいた─アラブ-イスラム世界には、誰も指導者が存在しない、ということに…エジプトは漂流していて、サウジ・アラビアは眠っている。
シリアは余りにも小さく、そしてイラクは、余りにもか弱い。Erdoganは、イスラエルによるガザ〔ハマス主導の〕地域の封鎖に対して超強硬派の政策をとること、またガザの閉鎖を破ろうとするトルコ人の率いる支援船flotilla号を静かに支援すること(そこでは8名のトルコ人が殺されたが)などによって…アラブの民衆やアラブの市場でのトルコの影響力を大いに拡大させられるかも知れないことを発見した。 もちろん、今日のアラブ世界ではErdoganは最も人気の高いリーダーだ。不運にもそれは、彼が民主主義や近代性とイスラムの統合を推進しているからではなく、彼がイスラエルによる占領を声高に非難して、西岸に責任をもつパレスチナ自治政府<彼らの方が現実にパレスチナ国家の基礎を形づくっているのにも拘わらず>よりも、ハマスを賞賛しているがためだ。
こうした領土内において、イスラエルによる人権侵害への批判をするということは、何ら誤りではない。イスラエルがパレスチナ人の問題の解決のためにその創造力を揮うことに失敗したのは、もうひとつの危険な真空状態だ。しかしErdoganがイスラエルを殺人者として非難しながら、同時にアンカラ(首都)でスーダンの大統領Omar Hassan al-Bashir(ダルフールの流血における戦争犯罪と人道に対する罪でICCから訴追中の)を温かく迎えたり、またイランで投票の公正なカウントを要求した何千人もの人々を殺害したアフマディネジャド大統領を丁重に迎えたりしていることには、問題がある。Erdoganは彼がBashir大統領の訪問を受け入れたことについて、こういっている:「イスラム教徒がジェノサイド(民族虐殺)を行うことはありえない」、と。
あるトルコの外交政策アナリストは私にこういった、「我々は東洋と西洋の間をこれ以上、仲介することはできない。我々は、東洋の最も後退した要素のスポークスマンとなったのだ」─
最後に…トルコのなかにも、真空状態がある。世俗的な野党勢力はこれまで何十年も、ほとんど足並みが揃わなかったし、軍部は盗聴活動による脅しに屈し、報道メディアは政府の圧力でますます自己検閲へと追い込まれつつある。9月には、Erdogan政府は同国最大の、高い影響力をもち批判的な(評論を書く)メディア・コングロマリット(複合企業)であるDogan Holdingsに25億ドルの追徴課税をして、政府の意に従わせようとしている。同時に、Erdoganは昨今、国内での支持を高めるべく、そのパブリック・スピーチのなかでイスラエルをますます辛らつに批判している─イスラエル人たちを殺人者と呼んで。彼はいつも、彼の批判者たちを「イスラエルの契約業者」「テル・アビブの弁護士たち」と呼ぶ。
これは、悲しいことだ。Erdoganは賢明でカリスマ的で、とてもプラグマチックにもなれる。彼は独裁者ではない。私は彼がアラブの民衆の間で最も人気のあるリーダーになってほしいが、ハマスに迎合して、アラブの原理主義者たちよりもラディカルになってほしくはない。そして彼には、アラブの非民主主義的なリーダーたちよりも民主主義をいっそう弁護し、パレスチナとイスラエルの間のバランスある途をとりもってほしい。それはしかし、Erdoganの今いる場所ではないし、そのことが問題なのだ。おそらくオバマ大統領は、彼を週末にキャンプ・デービッドに招き、米国-トルコの関係の前の空気をクリアにして…その向かう先が絶壁であることをみせてほしい。
http://www.nytimes.com/2010/06/16/opinion/16friedman.html?hp=&pagewanted=print
*下左はパレスチナのアーチストNour al-MasriがFlotillaの事件直後に描いたガザでのErdogan大統領の絵だとか。
*今回のガザ援助船Flotillaのイスラエル軍による襲撃事件ではトルコ人8名が殺害されトルコとイスラエルとの関係は過去最悪に… Erdoganは国連のイラン制裁継続にも不支持を表明、対米関係も悪化している…
*写真はガザのハーンユニスの難民キャンプで、Flotillaの事件の1週間後に生まれたRajab Erdogan…。母親のDalia(22歳)は赤ん坊をトルコの首相にちなんで名づけ、メディア向けにトルコの国旗に包んでみせた…
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