Sunday, September 10, 2017

シャルロッツヴィルに現れた、軍隊でもないのに武装した迷彩服の男たちとは誰なのか?Who were the armed, camouflaged men in Charlottesville who have nothing to do with the military?

Yingling, in sunglasses     
シャルロッツヴィルに現れた、軍隊でもないのに武装した迷彩服の男たちとは誰なのか?
 By Hanna Kozlowska (2017/8/15, Quartz.com)


先週の末、バージニア州・シャルロッツヴィルでの白人至上主義者らによる集会で起きた暴力事件では、松明やナチの記章を振りかざす…落ち着きのない白人の男らの集団から、群衆に突っ込む車が人々を宙に飛ばす有様に至るまでの光景が、多くの人々にショックを与えた。ソーシャル・メディアに拡散した画像の一つとは、迷彩服に身を包んで重武装した男たちが、まるで戦場に出た兵士らのごとく居並んでいる光景だった。

何と驚いたことに!彼らは米軍の一部などではない。彼らは、3年前の今月にファーガソンでの(黒人に対する警察暴力への)抗議デモの前に出現した、重武装の法の執行機関(武装警察)の一員ですらないのだ。彼らは武装した民兵組織(militia)であり…シャルロッツヴィルの抗議デモの秩序を守るために来た、と自称している。彼らがそこで一体何をしていたのかに関して、ここに正確な説明がある─

Who are these guys? この男たちは誰なのか?

これらの武装した準軍事的集団は、強固な反政府的信条を抱きつつ、自らを米国憲法の保護者だとも位置づけている。民衆のあいだでの彼らの人気は共和党政権の時期におおむね減退したものの、専門家らはトランプ政権下における彼らの活動は衰えていない、とも言う。

この民兵組織のリーダーChristian Yinglingをインタビューしたワシントン・ポスト紙によると─これらの光景に映っていた男たちとは、彼がソーシャル・メディアやオンライン・フォーラムを通じて、東海岸の異なるユニットからリクルートしてきた32の民兵組織のメンバーなのだという。イングリング自身はペンシルバニアのLight Foot 民兵団の司令官であり、崩壊した家庭を逃れ、海軍に入隊したという。彼は似たような民兵団をそれ以外の右翼組織の集会でも組織しており、バージニアの民兵団の司令官が彼にシャルロッツヴィルへの出動を依頼したのだ、という。

ある民兵団ウォッチャーは、今回の抗議デモには、これら以外にも他の数グループが参加していたという。

シャルロッツヴィルの事件に参加していた愛国的民兵組織のチャート
Chart of Patriot militias involved in #Charlottesville, via @MilitiaWatch:
https://t.co/HjwZmFUsZr pic.twitter.com/oAA8StmUfN
? Hampton Stall ?????? (@HamptonStall) August 14, 2017


Whose side are they on? 彼らはどちらの側を支持するのか?

インリングはシャルロッツヴィルのデモ隊に関しては、両者の側を「jackass(のろま、間抜け)」と呼び、彼らのグループが、そこに、単に言論の自由の権利を謳う憲法修正第一条(First Amendment)を守るために居たのだと語る。彼は、彼の呼びかけに応じた者の数は多くなかった(白人至上主義者と間違われる事を嫌う者が多かったために)という。

シャルロッツヴィルにいたことが報じられた別の民兵団、「Three Percenters(3%たち)」は、抗議デモの発生に際して「解隊(隊列を解いて解散)せよ」という命令を出し、メンバーが一人でもネオ・ナチや白人主義者のデモに参加することは、非難糾弾したと、”The Trace”は報じている。

非常に広範な地域に広がる緩やかな民兵組織である、「Three Percenters(3%たち)」は、最終的には彼ら自身、白人至上主義者からは距離を置くことを決断した。

これらのグループは、長らく右翼的な反政府運動勢力(2016年に野生生物保護区を占拠したグループなども含めた─)と連帯していた。シャルロッツヴィルのデモの起きたその日に、FBIは23歳の男、Jerry Drake Varnellを逮捕した─彼は「Three Percenters(3%たち)」のフォロワーだったと報じられ、オクラホマ銀行で自動車爆弾を爆発させようと計画していた。という。


Why were they able to be so intensely armed? 彼らはなぜそこまで、重武装ができたのか?

民兵組織が軍隊にそこまで酷似している理由とはその武器だ─そこには攻撃用ライフルも含まれ─イングリングによれば─それには実弾も装填されている。バージニアでは、銃器の携帯への法的規制が非常に緩いのだ。そこでは、何の許可もなく公然と銃器を携帯でき、州への登録義務もない。バージニアでは攻撃用武器に対する規制も非常にわずかなのだ。

市民の動乱を規制するため、ほぼ30年ぶりに動員されたバージニアの州兵は、人々が民兵のメンバーを彼らと混同することを非常に懸念し、ツイッターでその識別方法を発信した:

.@VaNationalGuard ready to assist local law enforcement in #Charlottesville, can be identified by MP patch #cvilleaug12 pic.twitter.com/xkz2SqZlAR

シャルロッツヴィルで地元の法的執行組織(警察)に協力するバージニアの州兵組織はMPパッチで識別できる
? Va. National Guard (@VaNationalGuard) August 12, 2017


What was their role? 彼らの役割とは何か?

地元の法的執行組織(警察)は、暴力への対処において精彩を欠いていたことで批判を浴びた。ProPublicaの記者によれば、ニューヨーク州からきた民兵のメンバーは、言い争いなどを解消させるために警察よりもアクティブな役割を果たしたという。バージニア州のTerry McAuliffe知事でさえも、ニューヨークタイムズに対して公的勢力を擁護すると語り、その男たちが「我々の州警察よりもよい装備を持っていた」と語った。
https://qz.com/1053604/who-were-the-armed-camouflaged-men-in-charlottesville-who-have-nothing-to-do-with-the-military/

★次の記事「The complete story of what happened in Charlottesville, according to the alt-right」
シャルロッツヴィルで何があったのか─オルト・ライトの証言する完全なストーリー」
https://qz.com/1053220/charlottesville-attack-how-the-violence-unfolded-through-the-eyes-of-the-alt-right/
(に続く)

*関連記事
How Militias Became the Private Police for White Supremacists
http://www.politico.com/magazine/story/2017/08/17/white-supremacists-militias-private-police-215498





Thursday, August 10, 2017

アフガニスタンのシルクロードに渦巻く、怖れと嫌悪 Fear and loathing on the Afghan Silk Road - By Pepe Escobar

アフガニスタンのシルクロードに渦巻く、怖れと嫌悪 
─アフガニスタンの再建を試みる者は、誰しもその仕事を中断せざるを得ない─
しかし、中国の「一帯一路構想」(BRI)の成功は、その進展しだいなのだ
By ぺぺ・エスコバル ( 2017/6/21,Asia Times)

新たなるシルクロード(New Silk Road)、またの名を「一帯一路」の計画 (Belt and Road Initiative、BRI)とは、ヒンズークシ山脈を超えることがあるのだろうか? 

そのゲームについた名前は、<向こう見ずさ>だ。たとえ、それがいにしえのシルクロードを跨ぐ戦略的な地だろうと…また実質的に、BRIの重要な結節点である中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の500億ドルの計画に続く道であろうと─アフガニスタンはいまだに戦争の泥沼のなかにある。

2011年を忘れることはかんたんだ─カザフスタンとインドネシアで、2013年に習近平首相がBRI構想の開始を宣言する前でさえ、当時の国務長官のヒラリークリントンが、チェンナイ(*東インドの都市=マドラス)における彼女自身のシルクロード計画を称賛していた。国務省の描くビジョンがヒンズークシで一敗地に塗れたことは確かだ─なぜならそれは、戦さで疲弊したアフガニスタンというものを計画の根幹に想定していたのだから。

2017年のアフガニスタンでの状況の展開は、さらに失望を招くものだった。機能不全という言葉は、2014年の対立に満ちた選挙(*アフガン大統領選)から出現して政府と称しはじめた政権というものを、描写してすらいない。

2002年以来、米政権はこの、唖然とするような未完の「限りなき自由作戦Operation Enduring Freedom」(*)のために、7800億ドルを費やした。そこには完全に、何の成果もみられなかった─アフガニスタンで10万人の犠牲者が生じたこと以外は。(*2001年9月11日のオサマ・ビン・ラディンによるNYでの同時多発テロ犠牲者の報復を含む作戦として米が宣告した対テロ作戦名)

オバマ大統領による鳴り物入りの政策として、アフガン国家再建を目標に据えて行われた2009年の米軍兵力の増派は、予想通りの大失敗だった。GWOT(”グローバルなテロとの戦い”)の枠組みを海外緊急作戦行動(OCO)として再構築したこと以外に、それが成し遂げたものは何もなかった。そこではなにも「clear, hold, and build: 掃討し、押さえ、建設する」ことなどできなかった─事実上、タリバンは至る所に舞い戻っていたのだ。

鉱物資源が掘りたい?
それなら、タリバンに聞け

トランプ政権下の新たなアフガニスタン「ポリシー」とは、同国の東部に、何らの効果も得ることなくMOAB(Mother of All Bombs)爆弾を落とすことと、ペンタゴンの命じた、より一層の兵力の増派というものだ。「限りなき自由作戦」の継続は言うまでもない。

An Afghan policeman looks at the bloodstains of victims outside
  a mosque where a suicide bomber detonated a bomb
in Kabul, June 16, 2017
これは驚くべきことではないし─また、レーダーによっても、汎大西洋主義(*NATOなどの加盟国)の主な仲間の諸国でさえも関知できなかったことだが─中国政府のリサーチャーたちは昨今、北京で外国人らと会合して「アフガニスタンの再接続」をテーマに話し合ったのだという。

タリバン政権崩壊後の初代の駐カブール中国大使であったSun Yuxiは、2001年末に爆破テロで権力から追放されて、状況をこのように正確に要約した、「もしも、アフガンを通る道や、接続の可能性が閉ざされているのなら、BRI上の重要な動脈がブロックされているのも同然の状態で、この組織の体には多くの病気をもたらすだろう」と。

アフガニスタンを、如何に再接続し/再構築し/再建するかという課題は、北京のシンクタンクCentre for China & Globalizationなどにとっても眠れぬ夜をもたらす物質のようなものだ。

誰もが、アフガニスタンが最低でも1兆米ドル相当の鉱物資源─銅、金、鉄鉱石、ウラニウムや宝石類の上に鎮座しているだろうとの予測についてはご存知だ。だが、それをどうやって安全に掘り出せるのだろう?

 北京政府が抱く投資の安全確保上のジレンマとは、現在進行中のMes Aynak銅山のサーガによって華々しく描きだされているのだ。中国冶金科工集団有限公司は、2008年にカブールの南東40キロのその銅山を買い取った。彼らの投資とは、アフガンでも最大の海外からの投資プロジェクトである。タリバンはそれをこの先8年は攻撃しないことを誓約した。

そんななか、鉄道建設の最前線─それはBRIの鍵でもある─では、2016年に史上初の貨物列車が中国からカザフ・ウズベキスタンを経由して、アフガニスタンのハーラタンに到着した。その交易のフローとは依然として無視できないものだが、未だに定期列車の便は存在しない。

ロシアと中国が主導している上海協力機構(SCO)も、最終的にそこに加わった。その最近の頂上会議では、治安の「劣化」を警告しつつも─インドとパキスタン、そして今や全SCO加盟国による協力のもとで、SCOがアフガニスタンの「全アジア的」な解決を見出すための直接的な関与を行う、と宣言した。

The “Syraq” connection「シラク・コネクション」(*シラク:Syria+Iraq)

アフガニスタンとは、新疆自治区の隣人でもある─そして、同国の深奥の近寄りがたい一部の地域とは、ウイグルの分離主義者で、アルカイダとも繋がりの深い東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)の分子を匿っている(彼らが、ISISからは無視されているために)。
問題を更に複雑化しているのは、ヒンズークシ山脈を貫かねばならない新シルクロードというものが、究極、”Syraq(シリア+イラク)”の偽のカリフ公国(ISIS)の情勢というものに直接、関係せざるを得ないということでもある。

シリア・アラブ軍(SAA)は、イラク国境に向けて仮借なく進軍している。同時に、イラクの人民動員隊ユニットIraqi Popular Mobilization Unitsは、アル・ワリードでシリア国境に到着した。彼らのなかに我々は、米軍の姿を見かける─彼らはシリアで、al-Tanafを占拠している。しかし、ダマスカスとバグダッドの両政府は、al-Tanafの国境をイラク側から閉鎖することに合意した─このことは、米軍がヨルダンに戻る以外にどこにも行けないことを意味する。

ペンタゴンは、このことを軽視できずに賭けに出る可能性がある。ロシアの国防省は、こうした米軍勢力が、最後にはイラク軍とシリア軍部隊を邂逅させぬよう、高移動性迫撃ロケット砲システムHigh Mobility Artillery Rocket System (HIMARS)を用いるだろうともみなしつつある。

レバント地方を通ってBRIを延長すること─そして、古代のシルクロード同様に中国と地中海を陸路でつなぐこと─それは、中国政府にとっての絶対的命題だ。しかし、それにも関わらず─そのことはマイケル・フリン中将自身が(記録によれば)容認したとされる、究極的な事実に正面切って衝突する─つまり、オバマ政権が「希望的決断」を行って、ダマスカスの体制転換を促進するために、「Syraq」全土にわたってISISを「スンニスタン(スンニ派優勢地域)」に到達させることを目標に据えて、ISISを跳梁跋扈させるに至ったということだ。それを翻訳するなら─ISISにレバントのBRIを寸断させる、ということだ。

米国のディープ・ステート(諜報部門)の影響力あるセクターが、このプロジェクトを放棄していないのは確かだ。同時にトランプ大統領は、ISISとの戦いを放棄しない、とも宣言している。根本的な問いとは─シリア政府を撃ち、イランにいるその支持者たちを撃つという「サウド家の方針」が、米国でも優越性を獲得するか、という事だ。

1990年代半ばに、タリバンがアフガンのパシュトゥーン部族地域の戦争領主たちを追撃した際に地方の住民は彼らを支持した─なぜなら、彼らが道路や村々の安全を守ったからだ。彼らは、メッカにいる預言者の彼の敵との戦いを助けるために、天から来た天使のようにみなされた。

この「Syraq」の軍隊どうしの出会いとはとても重要だ、なぜなら、それは新シルクロードの鍵となる結節点を再編成する効果を生むからだ─つまり、テヘラン、バグダッド、ダマスカス、ベイルートといった、結節点となる都市の再編成を─。

「タリバニスタン」をめぐる私の旅(そのうちのいくつかはAsia Timesに書いている)において、私はタリバンが冷徹で、信仰心に篤く、道徳的で、ある種の重々しい曖昧さ(不明瞭さ)に包まれ、実質的に接近不能であるということに気づいた。
しかし、ヒンズークシ地域での、リニューアルされたグレート・ゲームの主な役者たちというのは、タリバンたちからは程遠い者たちだ。それは、「Syraq」のカリファテ(カリフ公国)が崩壊した後に、ディアスポラによって四散したジハード戦士たちなのだ。

ISISはすでに、イラクとシリアの隠遁地にいるジハード主義者たちをヒンズークシに向けて送りだしている。同時に、彼らは、多くの資金と武器を持つ数十名のパシュトゥーン人たち(=何千何万もの潜在的自爆テロリストの候補者たち)をも、活発にリクルートしている。

アフガン人以外にリクルートの対象となる新たな一団とは、チェチェン人や、ウズベク人、ウイグル人らを含んでいる─彼らには皆、ペンタゴンのMOAB爆弾でさえも入り込めない山間地域の景色に溶け込める優れた能力がある。

カブールの世俗化したアフガン人たちは、すでにアフガンが新たに再び変貌したカリファテの要塞になるのではないか、と恐れている。Islamic State Khorasan (ISK)を自称する者たちに対抗する救援部隊に加われるか否かは、SCO─中国、ロシア、インド、パキスタンが主導する─次第なのだ。さもなくば、ユーラシアの統一は、中央アジアと南アジアの交差点をめぐるすべての地域で生死にかかわる危険に遭遇するだろう。
 
http://www.atimes.com/article/fear-loathing-afghan-silk-road/


Thursday, August 3, 2017

サウド家に生じた白色クーデター?A coup in the House of Saud? By Pepe Escobar

サウド家でクーデターが起きた?
秘密は暴かれた─モハメッド・ビン・サルマンの昇格と、CIAのお気に入りだったナイーフ皇子の降格。それは、事実上の白色クーデターだった  By ぺぺ・エスコバル (2017/7/20, Asia Times)

アラブ世界で公然の秘密だったことは、もはや…米国においてさえ、秘密でも何でもない─モハメッド・ビン・サルマン皇太子 "MBS"の王位継承者昇格に伴い、先月サウド家に起きた深い<陥没>というものは、実のところ白色クーデター(*)だったのだ。(*White coup:王の命令による革命、クーデター)

一か月近く前に  [私は別のメディアeにも書いたが]、サウド家に近いある中東のトップ情報筋は私に、こう語った─「CIAは前皇太子、モハメッド・ビン・ナイーフ(Mohammad bin Nayef)の降格をひどく不快に思っている。モハメッド・ビン・サルマン(Mohammad bin Salman)はテロリズムを資金援助している。2014年4月に、UAEとサウジ・アラビアのすべての首長一族と王族が、米国にテロリズム喚起の責任を問われて排斥される寸前となったが─ナイーフ皇太子がサウジ・アラビアの政権を引き継いでテロを防止する…という約束のもとに妥協が講じられたのだ」。

その情報筋はさらに、私に─中東諸国の特定の地政学的グループの間で、その時期に広がっていた、という説をしつこく説いた─それによれば、カタールの若き首長Sheikh Tamim al-Thaniに対して、アブ・ダビ(*UAEの首都)の皇太子Mohammed bin Zayedがもくろんだ別のクーデターを、(UAEに居たブラックウォーターとアカデミ傭兵部隊[*]の協力のもとで)米国諜報機関が「間接的に」阻止したのだ、という。Zayedとは偶然にもMBSのメンター(導師)だったのだ。*共に総帥Eric Princeが率いる傭兵会社)

しかし、ドーハでクーデターが起きる代わりに、実際に起きたのはリヤドでのクーデターだった。その情報筋によれば、「CIAがカタールでのクーデターを阻止したが、サウジ・アラビア人たちは、CIAの選んだ人物で次期国王にもなる予定だった、モハメッド・ビン・ナイーフの降格でそれに応じた。サウジ人たちは恐れている。CIA(の手先であるEric Prince)がサウジにおいても傭兵部隊を王には向かわせるのが可能にもみえるなかで、王政はトラブルの最中にある。このことは、MBSによる防御的反応だったのだ」という。(*註)


今や、およそ1か月が経過して、NYタイムスの一面には、白色クーデターとリヤドでの体制転換の確認情報が溢れている─主に、お馴染みの「(米国の)現政権および前政権幹部の情報によれば」という、ただし書き付きで。


それは、突き詰めれば米国のディープ・ステートのコード=中央情報局が、信頼するパートナーで対テロ担当の元ツァールでもあったナイーフの追放にいかにひどく不快感を感じているかの再確認なのだ。その一方で、CIAはただ単に、尊大で経験も乏しく自信過剰のMBSのことを信用していない。

戦士にして皇太子のMBSは、イエメンとの戦争の指揮責任を負っている─そこには何千もの市民の殺害のみならず、悲劇的な飢餓と人道上の危機も生じさせた。もしも、それでは不足なら、MBSはカタール制裁というものの設計者だった─それには、UAEとバハレーンとエジプトが追随したが─いまや完全にカタール政府が、サウジとアブ・ダビの政府が実質的にでっち上げた法外な「要求」への譲歩を拒否したなかで、彼への信頼は喪失してしまった。

ナイーフは畢竟、カタールの封じ込めには反対していたのだ。


昨今、サウド家とUAEがすでにカタール政策に関しては撤回の道を辿っていたのは不思議ではない─米国の国務長官レックス・ティラーソンが地上にあって圧力をかけたからというよりも…主に米国諜報部による影芝居の活躍のお陰で─米国のディープ・ステート(諜報部門)はペルシャ湾地域での権益の安全を確保したわけだ─カタールのAl-Udeid基地をはじめとした権益を混乱に陥れないように。

向こう見ずな「ギャンブラー」


MBSはワシントンの政界では、いい古された「サウジ・アラビアは同盟国」というミーム(情報の遺伝子)のもとで、ベルベットの子供用手袋を嵌めさせてもらってはいても…あらゆる現実的な目的からみれば、最大の危険人物なのだ。

それはまさに、有名なBND(ドイツ諜報部)の2015年のメモがすでに述べていたことだ─その若き「ギャンブラー」は多くのトラブルを起こそうとしている。EUの金融業界は完全に震撼のただ中だ…彼の地政学的なギャンブルは、何百万の退職者の銀行口座を塵埃のなかに葬り去るかもしれない。


MBS kissing Prince Nayef in June 2017
BNDのメモは、サウド家がシリアでいかに征服軍(Army of Conquest)─それは基本的にジャブハット・アル・ヌスラ戦線(すなわちシリアのアルカイダ)のブラッシュアップ勢力で、Ahrar al-Shamの思想的な姉妹組織だ─の資金を賄っていたのかも詳細に物語っていた。

そのメモは、サウド家がいかにサラフィスト=ジハーディストによるテロを援助・扇動して武装させていたのか、を関連づけていた。そしてそのことはサウジ王国に…彼らが米国大統領のドナルド・トランプを同国に招いてレセプションの余興で)当惑を覚えるような剣のダンスの真ん中で踊るよう誘惑した後に…カタールをテロ国家だ、と自由自在に告発させるに至った。


MBSのカタール封鎖とは、アル・ジャジーラの報道を黙らせることとは関係ないが─それは、サウジのシリアでの敗北と関係がある─そして、カタール政府が(ノースドーム・サウスパーズの巨大ガス田からの液化天然ガスをヨーロッパに売るために)自らイランと同盟を組むベネフィットを優先して─「アサドは去るべきだ」という徹底抗戦主義者を捨てた、という事実とも関係するのだ。


MBSは─その病気の父君と同様に─ハンブルグでのG-20サミット会議をすっぽかした…カタール問題のはらむ当惑の重荷に耐えられずに─それは例えば、カタールの英・仏両国への投資国としての地位を考えれば、すべての責任を彼が負わされるからだ。MBSは「イラン内部での」戦争喚起をもくろんで、スンニ派対シーア派の激しい紛争の火種をターボチャージするとも約束した。

そして、さらにその先の道程にあるのは、MBSがいかにアラムコ石油会社のリスク満載の(民営化のための)最初の公募債の舵取りをするつもりなのか、という問いだ。


それは、アバヤで装った太ったレディ(サウジ王国の比喩)が歌を歌うまで
は終わりそうにない。http://www.atimes.com/article/coup-house-saud/

(*註:Sputnikのコラムで筆者はこうも書いている)

…その情報筋は付け加えた、「MBSは何処でも─イエメンでも、シリアでも、カタールでも、イラクでも失敗している。中国も彼に不満を抱く─彼が新疆地区でトラブルを喚起したからだ。ロシアも石油価格の低迷の影にいた彼に不満を抱いている。誰が彼に同盟するのか?唯一の同盟者は彼の父親だが、サルマン王は認知症で全く力がない」。

情報筋は頑固にこうも言った、「CIAがサウジ王国に反旗を翻す可能性は大きい」─それはトランプ大統領と米国のディープステートの一派の間の戦いが全く新たな段階に達したという事だ。 そうした謎解きには” Jared of Arabia”ファクターもある。カタールのクーデター未遂に関わった何らかのインサイド・プレーヤーがいたかどうかは、真面目に推測しようがないが…もしも、本当にそれが潰されたのなら…ジャレド・クシュナーならば内部情報を知っていたかもしれない─彼のコネクションを考えれば。

「 クシュナーは5番街666番地のビジネスで実質的に破産して、サウジの財政的援助を求めている。彼の義父のトランプでさえ、彼の窮状は救えない。だから彼はサウジの求める事ならばなんでもやるのだ…」

Wednesday, August 2, 2017

モハメッド・ダーランの擡頭と権力の正当性の争奪戦 In Muhammad Dahlan’s Ascent, a Proxy Battle for Legitimacy By PETER BAKER  

現在進行中ともいわれるダーランとの「ガザの権力分担」とは何なのか?─ 昨年(2016年11月)のNYタイムスの解説記事

モハメッド・ダーラン(*)の擡頭と、権力の正当性への委任状争奪戦(プロキシバトル)
By ピーター・ベイカー (2016/11/3, NYタイムズ)
  (*より正確には ムハンマド・ダハラーン)

モハメッド・ダーランの住む地は、パレスチナの彼の同胞たちが住む西岸・ガザの占領地帯からは1300マイル離れている。ここUAEのアブ・ダビの彼の広壮な屋敷には、豪華なソファと、丸天井にはシャンデリアがしつらえられている。無限に続く背後のプールの水面とは、その向こうに広がるぎらぎらと輝く水路へと注ぎこむかのようだ。

55歳のダーランが、パレスチナ人たちが未来の国家を思い描いた領土へと足を踏み入れてから5年になる。しかし、かつての有力者であり、亡命先では富豪となった彼は、パレスチナ自治政府大統領のマフムード・アッバスへの対抗からアラブ諸国リーダーたちが権力の移行を模索しているいま、この地域全体を跨ぐ陰謀の中心とみなされている。

イスラエル占領下の西岸では─心臓疾患を抱えて、後継者もない81歳のアッバスが、ダーランを支持する者ならば誰にでも激しい非難を向けている現在─日に日に、西岸地域自らがそれ自体との戦争状態を増幅しているようでもある。逮捕や、粛清、抵抗運動や銃撃戦(*ダーランが過去に行った)さえもが、波乱に富む過去を持つこの古い護衛隊員に新世代のリーダーたる正当性の獲得のための苦闘を強いる。

「私は知っている─アブ・マーゼンもその他の者たちも、ダーランの帰還を恐れているのだ」、とダーラン氏は言う─アッバスに関してはニックネームで、そして彼自身の名を三人称で呼びながら。「彼らはなぜ、恐れるのか?それはつまり彼が、この10年間に自分自身が何をしてきたかを知っているからだ。そして彼は、私がそれを知っていることを知っているのだ。」

パレスチナでは、ハマスが支配権を握った2007年にダーランがガザで治安部隊を率いていた際の、抑圧支配に関して彼を告発する人々がいる─そして、彼をイスラエルの手先だとみなす人々もいる。しかし、彼はアッバスにダーランの帰国を許すよう圧力をかけている、いわゆるアラブ・カルテット(エジプト、ヨルダン、サウジアラビア、UAEの4か国)にとってはお気に入りなのだ。

黒い髪に、ゆったりとした微笑み、1日に90分のエクササイズで無駄のない体形を保つダーランは、この地での最近のインタビューで精力的な魅力を振りまいている。彼は過去の彼自身の、情け容赦のない治安勢力リーダーとしての名声を否定して言う─私は危険な人物に見えるかな?─と、しかし彼はライバルを非難する時には非情になる。

失業が溢れている…とダーランは言う。学校や病院は絶望的な状態にあり、腐敗は蔓延している、アッバスはイスラエルの占領を終わらせることができず、ますます「独裁体制」を行使して反対派を弾圧している、と。

「これらの兆候とは、アサドの政権やサダムの政権が示していたものとも同様だ」と─シリアのアサドやイラクのサダム・フセインの名を挙げて、ダーラン氏は言う。「アブ・マーゼンがやったことは、権力のすべての残り滓を治安維持のマシーンに変えた、という事だ」。

ダーラン氏の声望の乏しさと、ガザ生まれのルーツが彼の西岸での人気獲得を難しくしていることを実感したアラブ諸国のリーダーたちは、静かに権力分担(パワー・シェアリング)の計画を練り始めた。それは、その他の人物、例えばヤセル・アラファトの甥のNasser al-Kidwaを次期大統領に据えて、ダハラーンとその仲間が彼のリーダーシップのチーム(指導層)に参加する、といったものだ。もう一つの可能性とは、マルワン・バルグーティだ─彼は民衆に人気のある人物だが、現在は殺人容疑でイスラエルで収監されている─ダーラン氏は、彼ならば支持できるという。

「私の言うことを書いてくれ─私は大統領に立候補したくはない」とダーランは言う、小さなパイプをふかしつつ、2時間の会話のあいだ英語とアラビア語をかわるがわる交えて話しながら。「このことは、明快になったかな?」

しかし、と彼は付け加える。「私は、どんなチームにでも参加する準備がある。私は兵卒になる積りだ。私は、何にだってなれる。ただしそこには、ヴィジョンと計画と、真のリーダーシップがなければならない。」

だが、それはKidwa氏や彼と似た人物が、そうした取引の提案を受けいれるということを意味してはいない。別のインタビューで、Kidwa氏は(彼は外務大臣を含め、様々な外交上の役割を背負ってきたが)ダーランを否定してこういった、「私は、彼が帰還する可能性は少なくとも現在のところ、余り高くはないと思う」と。「橋が燃やされたなら、それを再建することはおそらく困難なのだ」。

今のところ出馬すべき大統領選の予定はなく、地方選挙も遅れたままだ。アラブ・カルテットの圧力を別方向に向けるために、アッバスは最近、彼をより一層支持する周辺諸国、トルコとカタールを訪ねた。彼は、ダーラン氏を戦略的に出し抜こうと、ハマスのリーダーとも膝を交えた。

「現在のアッバスによる鉄の権力掌握に対しては、ライバルの誰もが彼に真に逆らって立つことなどできない」と、ワシントンのFoundation for Defense of Democracies の研究員で、近く刊行予定のアッバスの自伝の共著者Grant Ramleyはいう。「彼は、いまや彼の王朝の黄昏の中にある。そして、敵の膝をへし折ることにおいてはこの地域でもっとも狡猾な政治家の一人だ。」

アッバスは昨今、自らのファタハ党内から彼のライバルたちを追放し、その他の者たちを逮捕した。火曜日にはまた、彼はダーラン氏の同盟者らを追い出すための動きと解釈される今月末の党会議の開催も宣言した。

緊張は、時には暴力沙汰を招く。先月には正体不明のガンマンが、Fadi Elsalameenの家族の家を60発の弾丸で狙撃した。アッバスに対してかなり批判的なFacebookページを設けているElsalameen氏は、ダーランとは国際的イニシアチブをめぐって共同作業をしたことがあるが、自分は彼の仲間ではないとも表明した。

そのことは、ダーラン氏が真のパレスチナ人ではない、という事ではない。米国のCampaign for Palestinian Rights のエグゼクティブ・ディレクター、Yousef Munayyerは、ダーラン氏は民衆のあいだでは信頼が薄いという。「この人物は、外国勢力がひそかに汚い仕事をやらせるために利用する、怪しげな(いかがわしい)タイプの人物(shady character)だし、彼自身がそれを進んで請け負ってきた」、と彼はいう。

ダーラン氏はガザの難民キャンプに生まれ、10代でイスラエルに対する暴力的な戦いに参加した。11回逮捕され、イスラエルの刑務所で5年間ヘブライ語を学び、後にはガザでパレスチナの治安勢力リーダーになった。

2000年にはキャンプ・デービッドで、ビル・クリントン大統領が和平交渉の仲介を試みたときにも現場に同席した。クリントン氏は回想録の中で、ダーラン氏がパレスチナ側の「最も前向きな」交渉者の一人だったと述べた。

だが、ブルッキングス研究所の副所長でクリントン政権の外交官だったMartin S. Indyk(*)は、ダーラン氏は米国人にはかってアッバスと敵対させ彼を脇に追いやるよう促したのだという。「彼はカリスマチックで、頭が良く、操るのが巧く、ラマッラ―の古いファタハの護衛隊勢力にとっては脅威なのだ」。 (*Indykは米国の右派ユダヤロビーと密接な関係をもち、キャンプ・デービッドの和平交渉を潰えさせたともいわれた人物)

ガザでは、ダーラン氏は捕虜拷問の告発を受けた部隊を指揮し、『ダーラーニスタン』と呼ばれる組織(場所)を作っていたといわれる。しかし、ハマスが支配権を握ったその時、彼が海外に居たことから、彼は戦いを放棄したとも噂された。彼は西岸に移り2011年までアッバスの内務大臣を務めたが─その際に、両者は贈収賄の疑惑に関するやりとりで対立し、ダーランはアブ・ダビに逃れた。

彼はエジプトで、アブデル・ファタハ・アル・シーシ大統領に協力してムスリム同胞団の反体制勢力を鎮圧し、ナイル河ダム計画に関してはエジプト、エチオピア、スーダン間の外交交渉役を担当した。彼はイスラエルとも建設的な関係(強硬派の国防大臣アヴィグドール・リーバーマンとの関係をも含め)を持つといわれる。

イスラエル政府関係者らは、ダーラン氏について一つでもポジティブなコメントを言うならパレスチナ人からの信頼を損ねるがために、彼に関するいかなる論評も避けている。しかし、Institute for National Security Studiesのディレクターで元イスラエル軍諜報部門チーフのAmos Yadlinによれば、同国政府もダーランによる工作を見守っているという。

「彼は、アブ・マーゼン以後の時代にとって面白いオプションだろう」、とYadlin氏は言う。「それは、彼自身ゆえに、というよりも、彼がアラブ世界に持っているとても良いコネクションのためだ」。
ダーラン氏は、リーバーマンには一度も会ったことはないと述べ、汚職に関する告発も拒否したが、ガザで暴力的な戦術を用いたことについては否定しなかった。

「私は、赤十字のリーダーではない」、と彼は言った。「誰も殺されたことはなく、命を失った者も一人もいなかった。しかし、そこにはもちろん間違いもあった。」

彼はまた、蓄財をしたことも認めた。「私が否定しないことは二つある」、と彼は言った。「私が裕福であること、私はそれを否定はしない─決して。そして、私が強いこと、私はそれを否定しない」。彼はこう付け足した、「しかし、私は常に、私の人生のレベルを高めるためにハードワークをし続ける。」

彼は、ガザと西岸地域での慈善事業を賄うために、彼自身の資金やアラブ諸国のパトロンから得た資金を使った。ガザの住民のなかには病気の親類縁者への助けを得るために、Twitterの#Dahlanというハッシュタグを用いて(資金援助を頼み出た)人々もいる。
妻との間に4人の子供を持つダハラーンは、彼自身について、決して休暇を取ることのないワーカホリックだと描写する。彼は私に裏庭を見せながら、それを来客に見せて自慢する以外にそこで過ごしたことはない、とも言った。

「私は、達成することが好きなのだ」、と彼は言う。「私は、達成することに夢中なのだ」。

https://www.nytimes.com/2016/11/03/world/middleeast/muhammad-dahlan-palestinian-mahmoud-abbas.html

*註:関連記事 http://www.pbs.org/newshour/bb/middle_east-jan-june03-palestinian_04-23/
Meeting of the Minds


*7/27には「ガザのハマス幹部と在UAEのダーランがガザ議会でテレビ会議を行った」とか
https://www.nytimes.com/aponline/2017/07/27/world/middleeast/ap-ml-palestinians-gaza-deal.html
Gaza Power-Sharing Deal Moves Ahead With Parliament Meeting
ガザ議会で初のこの会合には数十人のハマスの議員、ファタハの親ダーランの支持者たちも参加した。APのインタビューでは、ダーランはハマスとの権力分担交渉がイスラエルとエジプトによるガザ封鎖を緩和し、深刻な電力危機を解決、ファタハとハマスの内戦の犠牲者の多くの遺族に賠償することを目的とする、と述べた。
昨今、アッバスはガザのハマスを困窮させ、権力委譲を促す強硬手段を行使、ガザ駐在の自治政府公務員の給与を不払いにしてイスラエルに電力供給等公共サービスを停止させている。
万策の尽きたハマスはダーランに助けを求めた。ダーランはエジプトを説得しガザの小発電所に燃料を輸送させ、ラッファ検問所を9月を目途に開放し、アブ・ダビ支配層の資金を戦死者遺族への賠償に充てる。アッバスに忠実なファタハのスポークスマン、Osama Qawasmiは、木曜日の会合を「小さく、個人的で、臨時的な党派的利権を反映したものにすぎず、ハマスのこのレベルの関係性には憐れみを感じる」、といって否定した。


*写真は昨年取材時(悪相になり顔の凹凸が増えたダーラン?

Sunday, July 9, 2017

「ザ・ダーラン・プラン」-ハマスも、アッバスもなしで?-The Dahlan Plan: Without Hamas and Without Abbas By Zvi Bar'el

モハメッド・ダーランをガザのリーダーに据えて、「ミニ・ステート」を作るのが企みなのか?
─パレスチナ難民の帰還権を受けいれない国家をつくるのが目的


「ザ・ダーラン・プラン」─ハマスも、アッバスもなしで─

そうだ、このプランはハマスにガザの治安を司る任務を維持させても、彼らの武装解除は行わない…しかし、モハメッド・ダーラン(*)によって、イスラエルはガザに和解を支持するパートナーを得る─ By ズヴィ・バレル(2017/6/29, Ha’aretz)   (*より正確には、ムハンマド・ダハラーン)

イスラエルが、200万人のガザ住民に電力を供給する、日々のわずかな割当て時間を勘定している間に、UAEとエジプト、ガザ、イスラエル政府のあいだではでっちあげめいた複雑な取決めが行われつつある。その目的とは、モハメッド・ダ-ランMohammed Dahlan(パレスチナ大統領でガザ政府の長マフムード・アッバスの政治的ライバル)に働きかけて、(エジプトとイスラエルが設置した)ガザ地域のほとんどの検問所の閉鎖を解くとともに、UAEの資金によってエジプト領側のラッファに新たな発電所を作り、その後、港も建設させるということにある。

もしもこの政治的実験が成功すれば、アッバスは暗い隅に追いやられて、ダ-ランが彼の地位を奪う動きに出るだろう─選挙によるか、あるいは彼がすでに持っている実質的なリーダーシップを追認する形で。エジプトはすでにディーゼル油を市販価格でガザに送ったが、パレスチナ自治政府が課した関税を支払うことはなかった(*アッバス政府が既に無視され税金も不払いとなった?)UAEは発電所の建設に15億ドルの予算割当てを確保している、そしてエジプトはまもなく、人々や物資が往来するラッファの国境をじょじょに開放するだろう。

このプランが完全に実施されるのかどうか…そして、アッバスとダ-ランの長年の不和対立のなかで、ハマスがダ-ランをガザ政府の長に据えること(そしてガザだけを西岸から分断する第一歩に出ること)に同意するのかどうか…を見積もるというのはいまだに時期尚早だ。その一方、もしもこのプランが実を結ぶのなら、イスラエル-エジプト両者が描いた夢の実現が可能となるかもしれない。

エジプトにとってこのプランとは、シナイ半島で暗躍するテロ・グループとハマスの協力関係を終わらせる可能性を秘めるとともに、ガザとの国境が閉鎖された状況を抜け出して商品をガザの市場へと開放する可能性ももたらものだ。そしてベンヤミン・ネタニヤフのイスラエル政府にとって、このプランのキー・ポイントとはダ-ランの指名だ─「ガザ州」の”長”としての彼は、防衛大臣のアヴィグドール・リーバーマンとも親しいのだ。 しかし、ダ-ランは今や、ファタハの古参勢力の抱く彼への敵対心からはすっかり転換した、ファタハの新リーダーシップ・コミッション(主導委員会)からの支持を得ているのだ。25日の報道では、ファタハの古参リーダーたちが、ガザで新たなコミッションに対する告発を行った─彼らが、反マフムード・アッバスの運動に対する掌握強化を狙うダ-ランに好意的な取りきめをした、として。アッバスへの手紙の中で、彼らはこれを一種の叛乱だと呼んだ─そして現今のリーダーシップ・コミッション(主導委員会)が政権の座について以降に生じているファタハの組織的な枠組の「完全な崩壊」に関し、警告を発した。ファタハの首脳たちは、コミッションが外部勢力とリンクしており、外部のアジェンダに沿って行動しているとだと非難している。

もしも彼が指名されたならば、それは、ガザと西岸地域の分断を確実にするだろう─それにより、その(パレスチナ国家への)未来の領土交渉は非常に困難になる。しかし、イスラエルは、ガザ地域に現状とは異なる合法的なパートナーを持つことになる。ガザの封鎖の解除とは、(エジプトがラッファの国境閉鎖を解いた場合は、余り意味をもたなくなるものの)イスラエルに対する国際社会からの圧力を減じるかもしれない…という新たな外交上の配当金をももたらす(それは特に、米国からの圧力を減じ…また、たとえ部分的でもイスラエルにとっての交渉の進展も可能にする。)

かくして、この状況にあらゆる相当の注意を払いつつ…我々はもしも、このプランが実施されれば、すべての側にメリットをもたらすだろうとも言える─アッバスと、国家の樹立を願うパレスチナ人たちを除けば。そうだ、このプランはハマスによる治安維持体制を温存し、彼らの武装解除はしないが、イスラエルはガザにイスラエルとの和解を支持するパートナーを得ることになる。ガザ地域へのカタールとトルコの影響力は排除されるが、エジプトとUAE(=イスラエルの新たな友)は、もしも合意が破られそうになったときには、強化(テコ入れ)にまわるだろう。

外交的な解決に関して、「経済第一(“the economy first”)」の考えを支持する者たち(たとえば、NetanyahuネタニヤフやLibermanリーバーマン、交通相のYisrael Katzなど)なら、誰もが、この合意に賛成するだろう。しかし、これまでにイスラエルからの音沙汰は何もない。同国の政府は、すでにガザの電力危機への自らの責任を逃れられないことを認識している─彼らは、ハマスに都合の良いことはすべてイスラエルには都合が悪く、ガザの住民を助けることはハマスを助けることになる…という既に失敗(誤り)とされた考えに取り憑かれてきた。イスラエルはむしろ…(もしも彼らが何も先んじてやる必要がないのなら、あるいはハマスに支配させるよう静観しているようにみられたくないなら…)この夏の次なる暴力的な衝突に備えるべきなのだ─イスラエルは随分前に、ハマスによるガザ支配とそれによるアドバンテージを認めていたのだとはいえ。

このプランによれば、イスラエルは、ガザに樹立される新たなる政府を承認する必要すらない(*ガザはイスラエルの「州」となり、パレスチナ自治領?ではなくなるから)…そして、それゆえにアッバスの立場を心配しているようにふるまう必要もない。ちょうど10年間(全占領期間の5分の1に相当する)が経過した現在、ガザは封鎖されている。今やそこには、ガザ住民を最も重要視するということ(ハマス主導者のステータスや、イスラエルの威光などではなく)のようなコンセプトの転換と、新しい戦略実行のチャンスがあるかもしれないのだ。

*<<読者コメントからの(抜粋)>>
・ベアー・クレイン:
そして、ハマスは自由に武器輸入できることになる。彼らは依然として銃やロケット砲を持っていられる。ダーランはこの記事の馬鹿な筆者を含めて、誰も皆、だますってわけだ。
・エドガーG.
UAEが15千万ドルの予算を、発電所を建設すべく確保した→
 どうせ6か月で故障して操業できなくなる。アラブ人はじきにパイプを盗み、銅線を盗み、バスルームの設備を盗むよ。

・ベアー・クレイン:
その通り。相手側に潜在的な友がいるように見える、というのは怖い状況だ。それは、あらゆる譲歩がなされる…という以外の可能性が、何ら考えられないという場合なのだ。譲歩することは現実で、全面戦争以外にそれを元に戻すこともありえない。外交努力はすべて蜃気楼か煙幕か鏡像にすぎず、今はそれがみえても次の瞬間にはみえなくなる。今やアラファト時代と同じなのだ。「アラファトをチュニジアから戻すな」というのが賢いスローガンだとされる…これが2度目のときだ。

・アハマッド・アミリ:
イスラエルは、彼らの諜報部門のエージェントに他ならない人間にガザを任して、パレスチナ人の間に内戦を起こすことがお望みなのだろう。

・ロバート・スキナー:
イスラエルは、自分たちが望む政府をガザに設置している。ロシアとイスラエルは、自分たちが望む政府をアメリカに設置している。我々はアメリカが、人民のための人民によるアメリカであるために投票せねばならない、イスラエルによってではなく、イスラエルのためにではなく、ロシアのためにロシアによるのではなく。76名の上院議員をグーグル検索すれば、彼らが悉くイスラエルへの忠実なサインを送っていることが解る。我々はアメリカのために働く人々を大統領オフィスに持たねばならない。イスラエルの不法占拠者とは、不法占拠者であって入植者ではない。イスラエルの入植地は違法であり、ジュネーブ協定に違反している。犯罪を支持してはいけない。
http://www.israpundit.org/the-dahlan-plan-for-gaza-without-hamas-and-without-abbas/

「イスラエル、UAE、エジプトが、ダーランをガザのリーダーに据えることを画策」
...ハーレツ紙曰く、このプランは、カタールとトルコの影響力を無力化することにある
(Al Jazeela 2017/6/29)

イスラエルのハーレツ紙の編集局員(ズヴィ・バレル)によれば、イスラエルとエジプト、UAEがモハメッド・ダーラン、55歳の元・ファタハ高官をガザのリーダーに据えるよう画策している。
ズヴィ・バレルは木曜日のコラムで、そのプランの目的はダーランにマハムード・アッバスとファタハ運動(イスラエル占領下の西岸地区の支配政党)及びPLO(パレスチナ解放機構)と交代させることにあるというが…ハマスが、かつてPA(パレスチナ自治政府)の治安維持勢力の長だったダーランを拒否する可能性もあるので、全面的な実現の可否は未だわからないという。
 
しかしもしも実現すれば、エジプトはラッファの国境を開放してガザの包囲を緩め、UAEは同国境のエジプト側での発電所建設に出資するという。
ダーランを長に据えることで「ガザ州」の実現が現実となる可能性がある…それは、イスラエルのネタニヤフ首相の政府にとって「その計画のキーポイント」なのだ、とバレルは言う。
バレルによればその目的は、ガザにおけるカタールとトルコの役割を無力化することでもあるという。

しかしこのダーラン・プランとは─「とりわけ、アッバスとダーランの長年の対立からみれば」、ガザを西岸から完全に分離させることになるともいう。
ダーランは、2011年にアッバスの転覆を図った容疑でファタハの支配勢力から追放され、2012年以来UAEに亡命している。彼はパレスチナ人の間では人気がない。アッバスは、PLOの事務局長(secretary general)であり、彼の実質的No.2でもあったYasser Abed Rabboを、ダーランと繋がっていたとして解任した。

The controversial Mohammed Dahlan By Neville Teller
論議を呼ぶ人物、モハメッド・ダーラン By ネヴィル・テラー(2016/8/9, Jerusalem Post)

 何年もにわたって、論議を呼ぶ人物、モハメッド・ダーランの周囲には陰謀や反・陰謀の噂が渦巻いていた─パレスチナのカリスマチックな政治家で、自治政府の大統領マフムード・アッバスの最大の敵である彼は、アッバスにとって代わる可能性も大いにある。

この数週間、状況はどちらかといえば悪化している。たとえば、ダーランの名前はトルコでRecep Tayyip Erdogan大統領の政権転覆をもくろんで起きた、クーデター未遂事件に関与したとして挙げられた。その仮説とはすなわち─そのクーデターが、エルドアンがみずから大統領の専制的権力を獲得しようと、不正な手段による政敵の粛清を正当化すべく画策した─といった説への反論として主張された。

ダーランを、その陰謀に結びつける証拠は間接的なものでしかないが…2016年月には、事実トルコの新聞Gercek Hayat  紙が─ダーランがエルドアンに対してもくろまれた多国籍の陰謀(UAEが主導し、ロシアとイランが支援するという)を監督superviseしていたと報じた。

そして当時、7月27日のトルコ側のメディア報道によれば、トルコは、ダーランがクーデターに何らかの役割を果たしていたかどうか捜査していた。トルコの与党、正義進歩党(AKP)の党首Ahmet Varolは、ダーランがエルドアンの宿敵である米国在住の説教師でクーデターの首謀者とされた、Fethullah Gulenの追随者らと密接な繋がりがあった、と主張した。AKPの党首は、ダーランの関与の物的証拠はないが、捜査は進行中であるとし、「我々は我々の国に害を与えようとした者の処罰には躊躇はしない」、とも述べた。

ダーランがこの特別なパイのなかに指を突っ込んでいたかはさておき、彼のもつ、遠大な国際的影響力というものに疑いはなかった。ダーランは、長年UAEに住み、アブ・ダビのMuhammad Bin Zayed皇太子のアドバイザーも務めている。彼はモンテネグロのMilo Djukanovic首相・セルビアのAleksandar Vucic首相の「友人」だとされる。2010年にダーランが妻と共にモンテネグロの市民権を取得した際、Djukanovicは議会で彼について、アブ・ダビの王家とのあいだの橋渡しをする友人であり、結果として、この国に目覚ましい投資を呼び込んでいる、と述べた。その後、ダーランは2013年にはセルビアの市民権を手にしたが─その際には、セルビアに対してUAEからの何百万ドルもの投資を約束していた。

パレスチナの政界で広く抱かれる見方では、ダーランの外交への関与とは彼がPA大統領マフムード・アッバスの明らかな後継者としてのステータス強化の戦略の一貫だとみられている。ハマスの前首相Ismail Haniyehの政治アドバイザー、Ahmed Youssefによれば、「ダーランにはパレスチナで誰よりも高いポジションにアクセスする一層のチャンスがあるかもしれない。これはイスラエルが、彼と彼の持つUAEやエジプト、サウジ、ヨルダン、シリアの反政府勢力等との特別な繋がりというものに(比較的)満足していることを考慮している。パレスチナ政府関係者の国際的な繋がりは彼がリーダーシップへの梯子を登らせることを許す可能性がある」という。

ヨルダンのAl-Mustaqabal紙のエディター、Shaker al-Jawhariは、ダーランは地域の広汎なアクターたちから支持を得ている、と信じている。「彼の影響力というものは、彼が彼の支持者らに分配している資金のお陰で、レバノンやヨーロッパ諸国にまで及んでいる。このことは、彼の力を強め、アブ・マゼン(マフムード・アッバス)の真の競合者ならしめている」という。

 “Middle East Eye”のウェブサイトは、ダーランが主謀したとされる、もう一つの陰謀の噂にも信憑性を与える。それはエジプトとヨルダン・UAEが、ダーランをPA自治政府の次なるリーダーに据えようとするプランに関わり、ハマスもダーランとの長年にわたる歴史的な不和を不問に付すことへの用意がある、と論ずる。(彼は、1995年から2000年にかけ、ガザの治安担当相だった折に、イスラエルに対する武力作戦に関与した、として何百名ものハマスのメンバーを逮捕していた)。アッバス後(ポスト・アッバス)時代の計画とは、彼の仇敵であるダーランにパレスチナの大統領と、PLOとPAの首長の座を与えるというものだ。UAEはイスラエルとの間でダーランを政権に据える戦略を討議し、主役である3カ国は最終的な形態の合意に達した際、サウジ・アラビアにそれを通知することになっている。

6月24日、ハマスの政治局長のハリド・メシャルは、ドーハのホテルで記者会見を開いた。彼は、「この地域には、陰謀が存在している…外部から誰かを、ガザとラマッラーにパラシュート降下させる…という陰謀だ」と宣言した。その場にいたジャーナリストたちは、彼がモハメッド・ダーランの事を話しているのだ、とわかった。5月30日に、アヴィグドール・リーバーマンがイスラエルの新たな防衛大臣に任じられて以来、この陰謀に関する噂が広がっている…ダーランをパレスチナの次のリーダーにすることとは…それは或いは、共謀なのか?

パレスチナとイスラエルの情報筋によれば、2015年1月に、当時の外相・リーバーマンが、パリでダーランと「PA政府の件を話し合うべく」、秘密裡に会合したという。リーバーマン=ダーラン合意─その真偽は不明だが、それはダーランに汚名を着せて、彼のライバルに攻撃の弾薬を与えるのに十分だし、彼らがそれを躊躇することはあり得ない。

ガザでは、ダーランのハマスとの関係が…彼がエジプトのアブデル・ファタハ・アル・シーシ大統領とあいだに培った繋がりのお陰でめざましく改善した。ガザを拠点とする運動のリーダーたちはダーランが、アル・シーシと彼らの関係修復のために助力してくれるよう期待した。彼らはまた、ダーラン基金からのガザへの資金流入(開発や貧困層対策に用いる)を歓迎した。
ガザのハマスのリーダーたちは、たとえダーランがスポンサーでも、気前のいい財政援助を拒否する余裕はない。このような国家的プロジェクトが、彼がパレスチナの政治マシーンの主導権を握るチャンスを鼓舞し、確実化するのは明らかだ。

ダーランのもっとも手ごわい障害物とはファタハの古参勢力だ。2011年6月にダーランは、会計上の腐敗と殺人の容疑でファタハの支配層から追放された─アッバスは、彼をパレスチナのリーダーだった故ヤセル・アラファト殺害の容疑で告発した。ダーランは腐敗の容疑で、PAの欠席裁判で裁かれた。
 
果たしてこの賭けで、ダーランの強さは彼の弱点に打ち勝つことができ、彼はアッバスの後継となりうるのだろうか?─噂の通りの恐るべき外部の利権勢力に支援されて…勿論、そのシリアスな賭けが実現すれば、西岸地域とガザで行われる来るべき地方選挙が、ダーランの政治的未来への価値ある示唆を与えてくれることだろう。
http://www.jpost.com/Blogs/A-Mid-East-Journal/The-controversial-Mohammed-Dahlan-463624

*パレスチナ専門家N教授による見解
CIAとエジプト現政権、イスラエルがグルになって、そんな計画を企むこともありえるが、実現性は僅かだろう。ダーランは信用が置けないが、相当な「やり手」なのは事実。
CIAとつながりが強いと以前から噂され、アラファート毒殺に関与、また、ガザ地区でクーデタを企て、ハマースが予防的に彼の治安警察部隊を粉砕したと言われる。
彼がパレスチナ治安警察のなかにかなりの支持者を持っていたのは、過去の話。ガザ地区のイスラーム教徒は、彼の治安部隊がデモに発砲して多数を死傷させたことを忘れてはいないだろう。

関連情報 :「ザ・ダーランプラン」 の記事中のイスラエルがガザに計画中の「港」に関して)

■イスラエル交通相がガザ沖人工島構想■

同日のロイター通信によると、イスラエルのイスラエル・カッツ情報・交通相が
ガザ地区沖に構想している人工島計画が関心を集めている。

カッツ交通相の計画では、人工島は陸から約5キロ沖で、面積 252ヘクタール、
ガザ地区とは橋で結ばれる。人工島には、旅客・貨物港、貨物集積場、都市ガス
や電気の関連施設、さらにはレジャーボート用のマリーナを設置。将来の空港用
地も用意される。
人工島の周辺海域はイスラエルが管理するが、人工島とこれに通じる検問所の警
備は、国際部隊に委ねるというもの。
人工島構想を説明するビデオは、今月、イスラエルの閣議で公開され、閣僚の多
くが賛意を示したが、リーベルマン国防相は否定的だった。
ハマースのサミ・アブー・ズフリ報道官は、カッツ交通相の構想には直接言及し
なかったが、「ガザに港をつくることは、封鎖を終わらせ、住民の生活改善に役
立つ」とコメントした。(6/29 Reuters

   ─パレスチナ最新情報-JSRメルマガ20170706 より─
 
 
「ダーランとハマス高官がカイロで密約を交わした」(6/27)
リーク文書によれば、モハメッド・ダーランがガザのリーダーになる Leaked document says Muhammad Dahlan to become leader in Gaza Stripk (抜粋)(2017/6/27, Maan News)
 
ハマスと、ファタハの支配するPAとの紛争が高まるなかで、Ma’an Newsが入手したリーク文書によれば─ハマス高官とモハメッド・ダーランとがエジプトのカイロで会談した結果、ダーランがガザの長に指名される可能性が高まったという。
 
その文書は“A National Consensus Document for Trust-Building”と題され、ハマスのリーダーYahya Sinwarと、ダーランがエジプトが仲介した会談で作成された。ハマス政府高官らは、パレスチナ自治政府(PA)に政治的に対抗するフロントラインを張るべく、ダーランと協力関係を結んでいる。
 
2006年のパレスチナの選挙において、ハマスの手強い敵だったダーランは、ハマスによる政権獲得後に長引くファタハとハマスの内紛が続くなかでは、ハマスと政治的同盟を結ぶことなど考えられなかった。しかし、政治アナリストたちはダーランとハマスが共に西岸でアッバスの率いるPAを拒絶する─という共通利益によって同盟を結んだのだ、と指摘する…
     
アル・シーシ大統領の仲介でPAとHamas の高官がエジプトで会談
 
エジプトとパレスチナのリーダーらが、予想されるガザの動揺を前に会談

Egyptian, Palestinian Leaders Meet Amid Likely Gaza Shakeup


カイロのエジプト政府とイスラム武装勢力・ハマスの和解の兆候のただ中で、エジプトとパレスチナのリーダーらが日曜日(7/8)にカイロで会談した─この動きは、ガザの政治的風景を動揺させ、パレスチナの現・大統領を脇に追いやる可能性がある。

マフムード・アッバスに近い高官らは、パレスチナのリーダーがアル・シーシ大統領と会い…浮上しつつある、ガザのハマス支配層と亡命中のアッバスのライバルでガザの元有力者モハメッド・ダーランとのパワー・シェアリング(権力分担)の合意の明確化を話し合ったとみられる。
 
この合意の元で、ハマスはガザの治安担当を継続するが、ダーランは最終的にガザに戻り、外交関係を担うという。

カイロでは会談後いずれのリーダーもメディアには口を閉ざし、エジプト大統領のスポークスマンも大まかな一般論に終始したが─二人のリーダーはパレスチナの国家設立への最近の進展と和平交渉について討議したという。
 
ダーランは、2006年に議会選挙でのハマスの勝利後に生じた、ハマス対ファタハの街頭での武力衝突の背後の主要人物だった…。その1年後にハマスのグループはガザの支配権を暴力的に奪取した。

ダーランとハマスは不倶戴天の敵だったが、この何か月かは両者が共通の利害を抱きはじめている。ダーランが抱く…いつの日か亡命から帰国してアッバスの後任となるという野望が─アッバスがガザに対する財政的圧力を増大している現在、ハマスの抱くアッバスへの絶望感の高まりとも偶然に一致している。
 
(中略)
エジプトは長らく、ハマスがシナイ半島北部の過激派勢力にサンクチュアリを提供してきたと非難してきたが…このところ、エジプトとハマスの関係性は雪解けに至っている。ハマス高官曰く、両者はガザ-エジプトの国境線の治安対策について交渉を行った。エジプトは、シナイ半島のイスラム過激派がこれ以上、ガザを避難所にせぬよう、望んでおり…これに応じてハマスはエジプト国境付近にバッファーゾーンを作ることになった。その見返りにエジプトは、ガザの政権に発電所のための燃料を送り、ガザで住民の不満を募らせている長引く電力危機を緩和するという。
 
エジプトによる燃料輸送は、アッバスがハマスにかける「財政的圧力」の効果を弱めるかもしれないが、しかしアッバスはそれを望んでいる…のみならず彼は─ガザの電力料金支払いのための補助金を削減し、支払い(の肩代わり)も控えることで(電力危機を生じさせ、)ガザの民衆のハマスに対する支持を徐々に失わせ、ハマスにガザ地域の委譲を促そうとしている。
 
アル・シーシとアッバスのカイロ会談に先立ってあるエジプト外交官は語った─
シーシは、エジプトはいつまでもガザの封鎖を続けられない、とアッバスに訴えると思われる、また、アッバスに対しては権力の委譲後も、ガザでSenior role(上級顧問などの役)に就かせることを約束するだろうと。
 
ダーランは、アッバスのファタハ勢力の元リーダーであり、2010年にパレスチナの大統領に追放されて亡命した─それ以後、彼はアラブ首長国連邦とエジプトに対して強い繋がりを持っている。
政府高官らは、彼らが聞いた話をこう語った… この交渉の最初のステップとしてダーランは5000万ドルを2005-6年のハマスーファタハの市街戦の犠牲者の遺族に対して支払う計画だという─その補償金支払い業務は、ダーランの部下であり、同じく亡命していたガザの元ファタハのリーダーSamir Masharawiに手がけさせるという。
http://hosted.ap.org/dynamic/stories/M/ML_EGYPT_PALESTINIANS?SITE=AP&SECTION=HOME&TEMPLATE=DEFAULT
Mohammed Dahlan(ウィキペディア)
https://en.wikipedia.org/wiki/Mohammed_Dahlan
 

 

 



Saturday, July 8, 2017

ガザの電力危機の責任とは?Palestinians also to blame for Gaza electricity crisis By Amira Hass

アッバスの政府がイスラエルへの電力料金支払いを停止し、暫く前から、ガザ地区の電力供給は1日3時間程度なのだとか。アッバスは何故、自らの国民を犠牲にするのだろうか

ガザの電力危機は、パレスチナ人にも責任がある
─ ガザの人々を犠牲にして、シニカルに衝突する、パレスチナの2つの対立するリーダーシップを許すべきでない ─ By アミラ・ハース (2017/6/26Ha’aretz

我々は、パレスチナの2つの「政府」というものが、ガザ地区を闇に突き落とした責任について論じたい。この記事はイスラエルを、彼らが現在ひき起こしている危機への責任…この破滅的な恐ろしい災難の連鎖への責任から解き放とう、というものではない。イスラエルは、事実上のこの地域の支配者なのだ。イスラエルによるガザの包囲というものは、海沿いのこの地域を未曽有のレベルの貧困に陥れた。イスラエルは、発電所の変圧器や燃料タンクを破壊し、発電所を含めた電力施設の迅速な復旧や修理に必要とされる建設用資材や、原材料の搬入をも制限した。
しかし我々は、パレスチナでガザに住む自らの人民を犠牲にしつつ、ライバルとしてシニカルに対立しあい暴力的に衝突している2つのリーダーシップの責任を問わないわけにはいかない。この不快な喧嘩のなかで、電力の問題は特に複雑化している。以下に、その主要な問題点を列挙しよう:

電力の口座料金の徴収:
ガザはラマッラーのパレスチナ自治政府の国庫(財務省)に未払い電気料金の債務を負っている。イスラエルの包囲は、ガザのほとんどの住民を貧困に陥らせ、その8割の住民の暮らしを公的補助金に依存させた。イスラエルの包囲により、多くの者たちが単純に支払い不能になった。しかしそこには、騒ぎに便乗して支払いを怠る者たちがいる─それはつまり、ハマスの公的機関や、自治体やモスク、そしておそらくこの包囲を生き延びているいくつかのビジネス事業者たちだ。

ラマッラーの自治政府は、すべてを吸収できる裕福な叔父さんなどではない。イスラエルが西岸地域に課していた、移動や開発の自由の制限は、その地域の経済的発展を大いに阻害した。ハマスの当局者たちは、彼らが望むなら住民たちからどうやって複数の名目で税金を徴収できるかを、よく知っている。彼らはなぜ、ガザ地区の電力料金徴収と支払いのために、ラマッラーの政府の国庫から移動すべき金の獲得にもっと努力しないのだろうか。

課税:
 パレスチナ自治政府は、ガザの民間発電所の操業に必要なディーゼル油を輸送しているようだが、しかし彼らは過去に約束していた燃料油に対する全面的免税の措置を行っていない。ガザの住民たちは、彼らの貧困状態が全面的な免税措置を正当化するとも主張する。ハマス当局は、課税による収入はラマッラ―の政府の国庫に行ってしまうとも主張する。

ラマッラーの政府は、彼らが、ガザ地区の公共部門の職員の給与や、健康福祉サービスのための費用を多大な割合で負担している、という。その地域開発のための予算は、大きな割合(国際援助に頼る割合は減少し続けているが)で、ガザに割当てられている。彼らは、ガザでは税収や同地域への輸入品にイスラエルが賦課する関税の収入が、いずれにせよラマッラーの国庫に集められ、届くと主張する。パレスチナ自治政府はハマス政府が、これ以外にも更なる税金を商業者や輸入業者らから徴収している、と主張する。
 
ガザ地域では数年にわたり、電力料金の請求金額がガザに赴任するラマッラー政府の公務員給与の源泉から差引かれていたということは明言する価値がある。

リマインダー(確認事項)
彼らはその地で、働かないことを条件に給与を得ていた─それは、自治政府のマフムード・アッバス大統領が、失敗に終わった試みに伴って冒した致命的な過ち─ハマス政府を引き摺り下ろすために冒した、多くの過ちのうち最初のものだった)。 http://www.haaretz.com/middle-east-news/palestinians/.premium-1.797751


ガザ電力危機で、国連特使がハマース幹部と会談(関連情報)
【6月29日(木)】
ガザ電力危機解決のため、国連のニコライ・ムラデノフ特使は、ガザでイスマ
イール・ハニーヤ元首相らハマース幹部と会談した。アル・ハヤート紙によれば、
同特使は、ガザの火力発電所稼働のための4項目提案を示した。
 
この提案は、(1)発電所用燃料にパレスチナ自治政府が課している各種の税
EUが負担する、(2)電力会社による料金徴収率(現在、30%)を改善するため、
新たな役員会を任命する──など。(6/30 Times of Israel

<注> ガザ地区唯一の火力発電所を経営する電力会社、パレスチナ自治
政府(ラーマッラー政府)と事実上のガザ政府という3者の間には、複雑な関係
があり、この関係が、電力危機解消のネックになっている。電気料金の低い徴収
率は、ガザ地区住民の貧困率の高さとも相関関係があると考えられる。なお、こ
の発電所は、燃料油切れのため4月から稼働を停止している。

ガザ地区へエジプトからディーゼル油
ガザ地区石油委員会責任者、ハリール・シャクファによると、エジプトとハマー
スの間の会談で、エジプトからのディーゼル油70万リットルの輸入が決まった。
燃料油はラファハ検問所から搬入され、石油スタンドと火力発電所に供給される。
6/24 Maan News
  ─パレスチナ最新情報-JSRメルマガ20170706 より─


 

Saturday, May 13, 2017

トランプ:それはFoxネットワークと同じくクレージーなのか?それとも彼は、タダのクレージーなのか?-Trump: Crazy Like a Fox, or Just Crazy? By Thomas L. Friedman

Trump: Crazy Like a Fox, or Just Crazy? By Thomas L. Friedman
トランプ: それはFoxネットワークと同じくクレージーなのか?それとも彼は、タダのクレージーなのか? Byトーマス・フリードマン(2017.5/3, NYtimes)


大統領就任以降の100日間は、ドナルド・トランプの頭をおかしくしたのだろうか?

私はこの問いを、医者として聞いているのではない。私は医学的な診断をしているわけではない。私はこの問いを、新聞の読者として尋ねている。我々はトランプの100日間のあらゆるインタビューを読んだわけだが…それらは、まさに異様だった。

トランプは我々に、だし抜けにこういった─彼にとって、北朝鮮のリーダーと直接交渉できることは「光栄だ」、と…何週間にもわたって相手に戦争の脅しをかけていた、その後に。彼は、だし抜けにこういった、インフラ予算のためにガソリン税の設置を考える、と。彼はだし抜けにこういった、米国の最大手の銀行各社の解体を考慮中だ、と。彼はまたこうも主張する─オバマ・ケアの代替法案には、人々が従来からもっていた医療保険への保護策も含まれると…そんなものはありもしないのに。

世界中の独裁者らのあいだで、彼の称賛を受けない者はほとんどいない。そして彼は、よく知られた虚言を繰り返す─バラク・オバマが彼を盗聴した、という話を─そして、報道記者たちに向かって、彼らが真実を見出すべきだと語る…彼自身が大統領として、電話一本でFBIから真実を聴取できるはずなときに…そして、そのような事実の訴えを主張し続けるのかと問われた時には、「私はどんなものに対しても支持しない」などと答える。

これは、政治的なストラテジーなのか、それとも、精神病の症状が明らかになりつつあるのか?私にはわからない─しかし、そのことは私に、この次の100日間には絶対にどんな出来事も起こり得るだろう、と告げる─良い事も、悪い事も。トランプにとっては明らかに…ギアの入れ替えをしながら、いかなる事に関する、いかなる相手とのいかなる交渉でも、可能となるだろう。

トランプとは常に、予測不可能な、現在進行中の仕事のようなものだ…なぜなら、オフィスに出勤する前に、彼は何のホームワークもやってこないからだ…それが今や自分は予測していたよりもはるかに多くの問題を見つけている、などと、彼が我々に語る理由なのだ─そして、それは、彼が彼の閣僚たちのメンバーのほとんどを知らなかったからでもある。彼らとは、一種の急ごしらえのバスケットの選抜チームのようなものだ…トランプの核にある無知さ加減や、不安定さ、不作法ぶりを大目にみよう、という意志で結ばれている以外には、何のビジョンも共有していないような。そして、彼らは自分の主要責務には、トランプによる行為を最大限に牽制しながらも、同時に彼にリードされながら仕えたい…などと考えている。

彼の最初の100日間には、その同盟者と敵対者たちとが共に、トランプとこの国を、彼のもっとも過激で誤った選挙公約の実践から救出した。彼の外交政策チームは、彼にイランとの核交渉の破棄をとどまらせ、またテル・アビブの米国大使館のエルサレム移転も思い止まらせた。

北朝鮮の大のミサイル好きの独裁者は、彼が中国に対して…同国が為替操作者だと宣言して貿易戦争を始めることを止めさせた─なぜなら、トランプは北朝鮮にたいする牽制と戦争回避のためには、彼にとって中国が必要だ、ということを発見したからだ。

ボーイング社とGE社は、トランプに輸出入銀行の排除を止めさせた…それは、米国の輸出業者を大いに不利にしてしまう、という可能性があった。連邦裁判所は、彼のイスラム教徒への入国禁止令の実施を止めさせた。国境沿いの州の共和党員らは、メキシコ国境における彼の壁の建設をブロックし、その他の共和党員たちは、彼の強権的なオバマ・ケア撤廃と、その代替策の施行をブロックした。NAFTAの締結以来メキシコへの輸出高が飛躍的に拡大している米国の農業者たちは、彼がその貿易交渉から手を引かないよう説得した。

次の100日間には、誰が我々を守るのだろうか?私自身の事をいえば、民主党のことは頼りにしていない。彼らは、弱すぎる。私がもっとも懸念する事柄については、実際のところ、私はカリフォルニア州を頼りにしている。私は、カリフォルニアの市場規模や、野心的な目標と立法能力が、米国で今日、カリフォルニアをトランプに対する最も強力な反対勢力(野党勢力)にしている、と信じている。

…どのように?トランプは、2025年までに乗用車の燃費を平均でガロンあたり51マイルとする、と定めた、オバマ時代の基準を破棄したがっている─現状ではそれは、ガロンあたり37マイルなのだが。しかし、最近LAタイムスが伝えたように、Clean Air条例の元では、カリフォルニアは「二酸化炭素排出基準を、連邦政府の求める基準値よりも厳しくでき、他の多くの州もまたカリフォルニアのルールを適用することになる」、という。

米国に販売される車の3分の1以上が、カリフォルニアが定めた排ガス基準の対象となるのだ。トランプは米国の自動車製造業界への規制を緩和して、一層、彼が求める燃費の悪い車を製造させることができる…しかし、彼らがカリフォルニアで車を販売したいという限り…それは出来ないのだ。トランプは、それを訴えることもできるが、それには何年も要する。

それは、カリフォルニアの企業も同じだ─アップル社は今やその操業の96%を海外で、再生可能エネルギーによって行っている─そのうち、米国と中国を含む24か国では、その100%がそうなのだ。トランプの石炭回帰キャンペーン(「make-America-cough-again(アメリカに再び、咳をさせよ)」は、アップル社を石炭エネルギー利用に戻すことはあり得ない。

そしてまた、Energy Innovationの設立者、Hal Harveyはこう言う、「カリフォルニアは、再利用可能エネルギー利用によるポートフォリオを要求している─2030年までに、電力の50%を、風力・太陽エネルギーとその他の再生可能エネルギーに代替することを。その他の15%とはすでに、既存の原子力・水力発電から得られているが、我々の電力エネルギーのグリッドというものは、13年以内に65%を脱炭素化(二酸化炭素排出ゼロ)できることになる。

カリフォルニア州議会の院内総務、Kevin de Leonは私にこう語った、「カリフォルニアには、米国・カナダの石炭業界を合わせた雇用よりもはるかに多くのクリーンエネルギー関連の雇用がある。そして、現状におけるカリフォルニアの全米トップの雇用の伸びは、トランプの言葉がすべて虚偽であることを証明している。あなたは、クリーンエネルギーの環境基準と技術革新、雇用形成と、GDPの伸びを徐々にアップさせることができるのだ─それらを、すべて同時に。

カリフォルニアはまた、厳しい国境管理などの網の目のごときイニシアチブを掲げた、トランプの強権的な移民政策へのレジスタンスにおいてもリードしている…この国で責任を全うしつつ、生産的に暮らしている不法移民のための医療保険制度や、教育、職業機会なども提供しながら。

「我々は、それをはっきりと宣言した─我々は、トランプの手から我々の経済的繁栄を守り、我々の価値観を守る」…とLeonはいう。彼の立法議会は最近、トランプによる訴訟から彼ら自身を守るべく、前司法長官のEric Holderを雇ったのだ。Holderは、カリフォルニアの、(そして私の)国防長官なのだ。

 https://www.nytimes.com/2017/05/03/opinion/trump-crazy-like-a-fox-or-just-crazy.html

Sunday, February 26, 2017

トランプのアドバイザーたちは、新たな南北戦争を望んでいる?…

トランプのアドバイザーたちは新たな南北戦争を望んでいる?彼らには、それをさせてはならない (By ポール・メイスン) 
Trump’s advisers want a new civil war ? we must not let them have it  By Paul Mason
(2017/2/6, The Guardian)
Dangerous men ... Steve Bannon and Newt Gingrich


スティーブ・バノンとニュート・ギングリッチの二人は、米国の歴史に対する危険なファンタジーを抱いている─彼らの抱く未来への恐ろしい結論

米国では、論議を呼び、分裂を醸し出す大統領が選ばれた。幾つかの州政府は、彼の意志に対し反抗している。人々の間の不満感の高まりが、数箇所の州で低レベルの暴力行動を生じさせている。…そして今や、何が起こるのだろうか…?

我々は以前にも、ここに来たことがある。1861年には、新たに選ばれた大統領、エイブラハム・リンカーンが、ボルチモアを迂回して(就任演説を行うべく)ワシントンDCへと向かう隠密の列車の車内で意気軒昂(わくわく)としていたことだろう。彼が、権力の座につくや否や…まもなく5年に及んだ南北戦争が始まったのだ。(*リンカーンは就任直前、北東部各都市を遊説して回っていたが、暗殺の陰謀の噂されたボルチモアを迂回し、ワシントンに向かった。彼の大統領就任とともにアメリカ南北間に溜まっていた膿が南北戦争という分裂に発展─戦争終結数日後に彼は暗殺された)

アメリカの内戦では敗北を喫したものの、米国のレイシストの南部勢力は、何十年にもわたって狂気じみた「オルタナティブな歴史」を描いた小説を読みながら、自らを癒してきた…その中では、物事が異なる展開を遂げていた。今や、「タイム」誌はホワイトハウスにおけるドナルド・トランプの首席補佐官で、最も親密な側近でもあるスティーブ・バノンが、アメリカの次なる歴史のフェーズが1861年~65年の紛争の時代と同様に、破滅的でトラウマチックなものとなる…とも信じていることを暴露した。

スティーブ・バノンが、ホワイトハウスを支配している─それは、恐るべき事態なのだ。

彼が選ばれたこと…その事に関する吟味はなされず、確定も行われていないが…その力は強大なものなのだ─すべては、経験不足で気もそぞろな、ドナルド・トランプのお陰で起きたことだ。

南北戦争に関する、「もしも…だったならどうなっていたのか?」といったストーリーは1950年代に、ポピュラーな文学作品となって出現した─それは、アパルトヘイトのジム・クロウ法の制度が黒人抵抗勢力からの挑戦を受け始めた時期だった。ワード・ムーア(Ward Moore)の1953年の小説 " Bring the Jubilee”では、南部同盟が南北戦争に勝利するのだが、(同時に)奴隷たちも開放する。それは、小説“South Had Won the Civil War(南部は戦争に勝利した)”においても同じだ…それは、左翼的作家、McKinlay Kantorが1960年に出版したものだ。

こうした小説や…南部同盟の勝利というファンタジーを描いた20世紀の他の小説では…南部は勝利するが、彼らは産業資本主義を解き放つために奴隷制を停止することも強いた。そのサブテキスト(背後の意味)というものを解き明かすのは難しい事ではない─それは、白人のアメリカ人の兄弟同士の戦いは無意味なものだったし、経済的発展というものはいずれにせよ、奴隷制の問題を解決するに違いがなかった、という考え方だ。

しかしながら、80年代以降には新しい米国の右翼が物事を異なる目で見ていた。当時、上院の議長だったニュート・ギングリッチとは今やトランプの親密な支持者だが、ビル・クリントンの弾劾への流れを止めさせ、南北戦争に関する…極度に不吉な代替的な歴史を描いた3つの小説を、共著で著していた。ギングリッチがウィリアム・フォルスチェンとアルバート・ハンサーと共作した3部作の最終章、「Never Call Retreat(退却を決して求めるな)」では北軍は戦争に勝利するのだ」が、それとなく、南軍が和解を取りつけたことが暗示される。シャーマンの北部連邦軍がアトランタを破壊すべく立ち止まった時、南軍の司令官ロバート・E・リーは南軍に降伏するよう説得する…空想的に描かれたこのリーは「わが敵方の軍の忍耐は限界に至りつつある」…と南部同盟政府に告げる。「我々は我々の国を未来の何世代にもわたって傷つける恐ろしいつむじ風を刈りとった」、と。…そして、リンカーンはゲチスバーグでの演説を行い、奴隷の所有者らと彼らの信奉する白人至上主義のイデオロギーとも和解したことが暗示される。

あなたが今日の状況との相似性に考えをめぐらしている間に、2015年12月にバノンが、彼のラジオ・ショーのなかで(彼が運営する)Breitbartのウェブサイトの世界観というものを説明した、この言葉についても考えてみてほしい─「戦争だ、戦争だ、我々はそれに耐えている…米国は戦争している、米国は戦争状態にある。我々は戦争状態なのだ…」。

そして、バノンとギングリッチ─この両人の抱く米国の歴史のダイナミックスに関する思想が、危険極まりないたわ言としか言いようのない─この二人の男が、世界最強のオフィスに影響力を及ぼしているのだ。バノンは文化的戦争を本当の戦争に変えよう、という夢想を抱き、ギングリッチは未破壊の南部のサバイバルを夢想している。彼らと比較したなら、トランプの抱く夢想とは、女性と金(gold)と高層ビルをめぐって回っているだけにみえて、その想像力ははるかに危険性が少ないものだ。

Breitbart のスター(記者・キャスター)Milo Yiannopoulos に反対するUCバークレー校での暴動の握り潰しや、白人至上主義者と反トランプ支持者の間で繰り返される衝突などによって、事態のエスカレーションへの潜在的可能性が明らかになっている。ミシガン州の共和党職員、Dan Adaminiはこうツイートした、「左翼の反対派デモの群衆に対しては"Kent州"方式の解決法がとられるべきだ」─それはつまり、1970年にオハイオ州の州警備隊が行ったように彼らを射殺せよ…ということだ。

反対派の新世代が、ポスト-1968年時代の神話を持ち出すとき、そこには大きな相違があると指摘するのは、意義のある事だ。…つまり、今回我々は、ケント州の4人の学生を殺害して政治的危機を招いたような、既存の秩序を擁護する冷血な保守派に立ち向かっているのではない。今回、我々は、米国の制度機構が爆発することを望んでいる人々に直面している。…それがすなわち、バノンのような輩が信じている、「第4の展開理論(Forth Turning theory)」といわれるもののなかで起こっていることだ。

それを認めるのは恐ろしいことだが、我々はそうすべきだ─アメリカの右翼の広汎な勢力は、新たな南北戦争を望んでいる。彼らは何年もの間、そのための武器を集積してきた、そして彼らのそうした選択を指し示すもの…ハンティング(狩猟)目的というカモフラージュ…が、彼らが何を考えているかの大きな手がかりにもなる。こうした状況で、アメリカの左翼やマイノリティ、あるいは女性にとっての選択肢とは…抵抗することだ…しかし、彼らが欲しがっている物を、彼らに与えてはいけないのだ。

先週、トランプ陣営から起こったもっとも大きな叫び声とは、反モスリムのビザ発給禁止令に対する司法省の停止命令に触発されたものだ。もしも、進歩的勢力が運営する州や都市が彼らの憲法上の権利を駆使して、トランプに逆らい始めたならば、依然として、もっと大きな叫び声が引き起こされることだろう…サン・フランシスコ警察がFBIの対テロ作戦への協力を停止したように。

トランプに対する平和的な不服従行動の大衆的広がりはリアリティなのだ。司法による憲法の擁護と下院での決然たる抵抗とが結合したなら…それはホワイトハウスを、こうした空想家たちのためのPadded cell(衝突を緩和するクッション防護壁付の部屋)にすることができるだろう─南北戦争バージョン2.0の司令部の掩蔽壕(command bunker)ではなく。

https://www.theguardian.com/commentisfree/2017/feb/06/some-of-trumps-advisers-want-a-new-civil-war-we-must-not-let-them-have-it

サタデーナイトライブのパロディではBannon=死神に?
'SNL': Trump and Bannon call world leaders https://www.youtube.com/watch?v=8awCl0KMvwQ



Saturday, February 25, 2017

「ディープ・ステイト」のトランプに対する攻撃を応援するのは、民主主義崩壊への処方箋なのか? Greenwald: Empowering the "Deep State" to Undermine Trump is Prescription for Destroying Democracy 

米国における「ディープ・ステイト」とは
"Deep state" in the United States(Wikipedia)
米国の著名な人物たちは、何十年にもわたって、「ディープ・ステイト(deep state)」、「国家の内部の国家」といったものに対する懸念を表明してきた。彼らはそれが、民主的国家としての米国の政権を支配している政党に関わらず、公共政策に影響力や支配力を行使しているのではないか、と疑念を抱いてきた。 歴史上、「ディープ・ステイト(deep state)」という言葉は、しばしばトルコなどの国の例を引合いに語られる─その国では、影の政府が国の政策の重要な側面に影響力や支配力を行使している、とされている─米国では、トランプ政権が諜報部門からの情報のリークに直面して、官僚機構のコントロールに苦闘している状況から、この言葉が注目を浴びてきた。

フィリップ・ジラルディによれば─権力の中枢とは、軍産複合体と諜報部門、そして、ウォール街がその中心をなしているともいうが、ビル・モイヤーズはそこに金権政治家とオリガルキーの存在を挙げている。
さらに、ピーター・デール・スコット教授は、「巨大石油企業」やメディア産業などもキープレイヤーである、とする…。また、デヴィッド・タルボットは、国家安全局の官僚、特にアレン・デュレスなどの名前を挙げる。
ワシントンの元・政府職員のマイク・ロフグレンによって書かれた関連書籍(*)では、シリコンヴァレー企業や、「政府を構成する重要要素」、「ウォール街」などにも言及しながら、そこでは、「国家」の非・共犯的性格というものについても強調している。  (*Mike Lofgren "The Deep State: The Fall of the Constitution and the Rise of a Shadow Government", 2016.9)

政治家学者のマイケル・J・グレノンは、こうした傾向というものは、国家の政策が選挙によって選ばれた政府の高官ではなく、官僚組織によって形作られている─という状況の結果であると信じている。

トランプ政権における「ディープ・ステイト」
トランプ政権下で、「ディープ・ステイト」という言葉はメディアや幾人かの政治的人物に関して用いられている─特に、トランプの国家安全保障問題担当顧問に任命されたマイケル・フリン氏の辞任を招いた、ワシントン・ポストとニューヨークタイムズに対する諜報機関による情報のリークの後には─こうしたリークや、内部的離反などを通じて政策をコントロールする、諜報部門や行政執行官僚などを指して用いられている。
https://en.wikipedia.org/wiki/Deep_state_in_the_United_States


グレン・グリーンウォルドが語る:「ディープ・ステイト」のトランプへの攻撃は、
民主主義崩壊への処方箋だ
Greenwald: Empowering the "Deep State" to Undermine Trump is Prescription for Destroying Democracy (Democracy Now! 2017/2/16)


  トランプが大統領補佐官の職に任命したマイケル・フリン中将が、大統領選挙期間中に、私人の立場でありながら、ロシアとの非公式の会話による交渉を行っていたという疑いで解任された。このことは、CIAとFBIがフリンとロシア側になされていた会話を傍受し、その機密情報をニューヨークタイムズとワシントン・ポストにリークしたことによって露わになった。

これに対してトランプは、こうした諜報機関の行為を極めて違法な行為だといって非難し、それを暴露したメディアをも攻撃した…。
我々は、トランプ政権が11月の選挙投票日の前後にロシアとの交渉の会話を交したとされ、拡大しつつあるスキャンダルに目を向けてみたい。

1月初旬に、民主党上院議員のチャック・シューマーは、The Rachel Maddow Showに出演して、諜報部門がドナルド・トランプに対する反撃を行っているのではないかと語った。

(ビデオの抜粋) 
チャック・シューマー上院議員:
たとえば、もしもあなたが諜報機関と対決したならば…彼らは、日曜日以降に6つの手段を用いてあなたに反撃を仕掛けてくる。…だから、彼(トランプ)が鼻っ柱の強い反抗的なビジネスマンであったにせよ、彼がそんなことをするのは…実に間抜けなことであるわけだ。

エイミー・グッドマン:
…これは、1月に上院の少数党院内総務・チャック・シューマーが述べた言葉であり─
…そして我々は、ピュリッツアー賞を受賞したジャーナリストで、The Interceptの共同設立者でもあるグレン・グリーンウォルドと語ってみたい、と思う。彼は、最近のツイッターでこう述べた、「The leakers who exposed Gen Flynn’s lie committed serious and wholly justified- felonies” 
(Gen.Flynnの嘘を露呈させた情報の漏洩者(リーカー)たちは、シリアスな─そして(しかし)完全に正当化される─重罪を犯したのだ)と。

グレン・グリーンウォルド:
フリンの、ロシアの大使及び他のロシア外交官たちとの会話の内容を誰がリークしたとしても、それは、法的には極めてシリアスな犯罪とみなされる─それは、民主党のオバマ政権の最後の日々においても、重要機密をリークしたチェルシー(ブラッドレイ)・マニングやエドワード・スノーデン、(トーマス)・ドレイクなどの人々が重罪として処罰を受けたのとも同様の状況なのだ。 そして、リークされたその機密情報を掲載し、公表したニューヨークタイムズや、ワシントンポスト、NBS などのメディアも同じく重罪とされている。私自身の見方では、8年間のオバマ時代やブッシュ時代もそうだったが、政府内部の人間が、公共の役に立つ情報を暴露したという場合には、たとえそれが違法であっても…それは、正義の行為…英雄的な行為として称賛されるべきものだ、と思う。民主主義の透明性を維持する為のものとして。

今回、トランプの周囲の者たちは、漏洩者をローライフ(下等なやから)といって激しくこきおろしたが、そのことは、民主党政権が行った行為と同じものでもある。NSAの盗聴能力も、このフリンの一件で証明されたわけだが、彼らは(はたして)この盗聴行為を違法に行っていたのだろうか?それとも彼らはルーティンのなかでやっていたのか…あるいはその会話をアクシデントとしてキャッチしたのか?…といったことは我々には分らない。彼らは、フリン中将をターゲットに据えて盗聴してはいなかったが、ロシア側の政府上層部の会話をターゲティングして盗聴していた、とも述べている…その真偽のほどは分らないが…)

エイミー・グッドマン:
「Breitbart News」など(のメディア)を含むトランプ支持者のなかには、米国の諜報機関が、大統領に対する”ディープ・ステイト”によるクーデターを画策した─といって非難する者たちがいる。一方で、トランプに批判的な者のなかには、そうした活動を公然と支持する者たちが存在する。
The Weekly Standard誌の創業者で、著名な共和党アナリストであるビル・クリストルも、こんなツイッターを発した…、「明らかに、(この件では自分は)ノーマルで、民主主義的で、憲法に基づく政治というものを強く志向している。しかし、もしもそれがそういうポイントに達したなら、自分はトランプの国に対抗する”ディープ・ステイト“の方を贔屓したい」、と。

グレン・グリーンウォルド:
「ディープ・ステイト」という言葉には…詳細な、あるいは、科学的な定義などありはしないが、一般的にはワシントンの恒久的な権力の中枢の党派的勢力(faction)たちを指している。彼らは、たとえ選挙で選ばれる大統領が交代しても、変わることなくそこで権力を行使し続ける。彼らは、権力というものを概して闇のなかで秘密に行使しているがために、彼らの存在というものに民主主義制度上の信頼性が問われることは…もしもあったとしても、非常に稀なのだ。

それは、CIAとかNSA、その他の諜報機関のようなものを指しているが…それは、実質的に虚偽の情報を発する…詐欺やプロパガンダのための機関としてもくろまれた長い歴史を有する、というだけでなく、世界で最悪の戦争犯罪や、残虐行為、暗殺部隊などをもくろんだ長い歴史を持つものだ。こうした存在である彼らが、政治的にはそれに従属している筈の政権上層部から分離して力を行使するということや…実際にそうした存在に反抗する形で力を行使していくことには…ビル・クリストルなどの人物だけでなく、多くの民主党員も、彼らの信義の念を吐露して協力を誓いながら…喝采を送っている。
そして、あなたにとってこれは、単なるロシアに関する問題というわけではないのだ…。これは大統領選のキャンペーンの初期の頃にまで、ずっと戻って見直さねばならない事だが、そこには、諜報機関を率いるメンバーたちがいた─例えば、Mike Morellのような人物…彼はオバマ大統領の元でのCIAの現職長官だった。そして、Michael Hayden─彼は、ジョージ・ブッシュ政権下でCIAとNSAの両方に勤めていたが、ヒラリー・クリントンへの支持を非常にはっきりと公言していた。実際、選挙期間中にMike Morell はニューヨークタイムズ紙に、Michael Haydenはワシントン・ポストにヒラリーへの賛辞を投稿して、ドナルド・トランプはロシアに雇われた、とも述べていた。CIAと諜報機関は、最初からクリントンを熱烈に支持しており、トランプに熱烈には反対していた。そしてその理由とは、彼らがヒラリー・クリントンのポリシーを、トランプのそれよりは好んでいたからだった。

過去5年間におけるCIAの主要なポリシーの一つとは、シリアにおいて、アサド政権を政権交代させるために行う代理戦争だった。ヒラリー・クリントンは、単にそれだけでなく、オバマがシリアの戦争への米国の深入りを許さなかったことへの批判的立場に立ち、飛行禁止区域を設定して、ロシアにも対抗するよう主張した。ドナルド・トランプは、これとはまさに正反対の見解だった。彼は、我々はシリアの政権を誰がとろうとも、関知すべきではないともいった─我々はロシア人のやることを許すべきであり、そしてISISやアルカイダ、その他の敵を殲滅するために彼らへの助力さえ行うべきだ、と表明した。それゆえに、トランプのアジェンダとは、CIAが望むこととは完璧に正反対といえた。

クリントンのそれは、まさにCIAの望むものだった、それだから彼らは彼女を支援した。そしてそれゆえに、彼らは選挙期間中を通じて、何か月にもわたりトランプを弱体化させようとした。そして今、彼が選挙に勝利すると、彼らは、彼の弱体化を情報リークによって陰から狙うというよりも、アクティブに、彼の転覆を狙い始めた。彼らは彼に情報を渡さないようにしている、という訴えがある─彼らは、彼がそうした情報を手にするには値しない人物で、信頼にも値しない、と考えているからなのだ。彼らはその政策を実行するために彼ら自身を強化しているというわけだ。
今や私は、トランプが大統領の地位にある事は極度に危険だ、との考えを抱き始めている。あなたはニュースを見て─ニュース放送のなかで、その主要なトピックをみては、その事の理由を幾つも目にしているというわけだ。彼らは、環境を破壊しようとしている。彼らはセーフティ・ネットを解体しようとしている。彼らは億万長者たちを力づけようとしている。彼らはモスリムや、移民や、大勢の人間に対して頑迷なポリシーを実行したがっている。それに抵抗することは重要だ。そして、そこには多くの偉大な抵抗の手段もある…例えば彼らを抑え込むために、法廷に訴えるということだ、市民の抵抗運動などに…そして、最も重要なこととしては…民主党に、大統領選のすべてのレベルで彼らが崩壊してしまったそのあとで、彼らに自己批判を行わせて、いかに米国のもっと効果的な政治勢力となるべきなのかを自らに問いかけさせる、ということがある。それは現在、抵抗勢力がやっていることではない。その代わりに彼らがやっていることというのは、ドナルド・トランプよりもたちの悪い唯一の勢力の一派と、敵対しようとしていることだ…それが、つまりディープ・ステイト、CIAであり…その残虐行為の歴史だ…そして彼ら(ディープ・ステイト)というものは、殆ど、ソフト・クーデターを手掛けているのも同然な存在だ、という…そこでは、彼らは選挙で選ばれた大統領たちがその政策を実行することを阻んでいる、と。

そして自分が思うには、それをやることは非常に危険なことだ。もしもあなたが、一方でCIAとディープ・ステイトの両方が危険な存在だと信じて、その一方でトランプ政権というものも危険な存在だと、(私もそう信じているように)信じていようと、その両者には大きな違いが存在する…つまり、トランプは民主的に選ばれた者であり、(しょせん、)民主主義による統制支配の下にある(ちょうど司法機関もその事実をデモンストレーションして、メディアもそれを示し、市民たちもそれを示しているように)。しかしその一方で、CIAとは、人々によって選ばれた存在ではない。彼らは民主的なコントロールの対象では殆どありえないのだ。

そしてそれゆえに、CIAや諜報機関が自らを強化して、選挙で選ばれた政府の部門の弱体化を企むということは、狂気じみた行為だ。それは民主主義を、それを守るという口実のもとに、一夜にして破壊する処方箋なのだ。そして…それでもそれは…それがネオコンではなくても、民主党内の多くのネオコンの同盟者たちというものが、今や要求し、喝采していることだ。そして、彼らがそんなことをするのを見ていることは、信じがたいほどワープ(飛躍)した、危険なことだ。

エミー・グッドマン:
そして、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事によれば、今や諜報機関の担当者らは、トランプ大統領に情報を全て渡すことを避けている、何故ならば、彼らは、彼が何をするのかを心配しているからだと…他の国々の諜報機関もまた、トランプが情報を手にしたら何をするかわからない、とも懸念している─特にまた彼が、ロシアにいかなる情報を共有させるかを懸念している…のは勿論のことなのだ、という。

グレン・グリーンウォルド:
…ああそうだ、そもそも、まず最初に、ここにはメディアの問題がある─もしも、あなたがウォール・ストリート・ジャーナルの記事をみたなら、それは過去6か月間に、他の色々な目立ったロシアに関する記事というものと、ほとんど同じようなものだといえて…それらの多くは、完全に嘘だったことが証明されたわけだ。そうした記事というものは、匿名の政府職員たちが極端に曖昧な事を述べたことに基づいた記事だった。ウォール・ストリート・ジャーナルは、このようにさえ述べているのだ─「我々は誰がこれを行っているのかを知らない、情報を抑えているという事を。我々はどれほどの情報開示が抑えられていたかを知らない」。

2番目に、ドラルド・トランプがロシアの何らかのエージェントかスパイである、といった説…あるいは、彼がロシアに脅迫されていて機密情報をクレムリンに渡し、米国のエージェントを故意に危険にさらしている、といった考えというものは、考えられないほどにクレージーな言い分で─そんなことが真実であったと証明されたことは、一度もない。それは、私にグレン・ベック(*註・かつてのFOXの扇動的な看板キャスターだが今は引退している…)が、オバマに関してよく言っていた事を思い出させる…彼が黒板の前に立って、そうした不安定なチャートを…こうした、証拠のないワイルドな陰謀説のチャートというものを、しばしば描いていたようなことを。

我々はロシアが、民主党大会とジョン・ポデスタのEメールをハッキングしたとか、ドナルド・トランプとロシアとの間に不適切な繋がりがある、といった訴えについては─シリアスかつ、冷静に、しっかりした構成の捜査を行わねばならない。そして、それは公表されるべきであり、それによって我々が情報を知ることができなければならないのだ。しかし、メディアのもっているこのオブセッション(強迫観念)─それが誰であったにしても、誰かがドナルド・トランプとロシアについて彼らに囁いたなら、その情報をリークする、というオブセッション (なぜならば、彼らはそれが、彼らの記者たちに膨大な数のリツイートを発させて、それが、さらにまた…自分がまさに聞きたいと思っていた事を聞いたと思った人々による膨大なリツイートのトラフィックを発生させる…ことを知っているが故に)─というのは、まさに最悪のヒステリーに火を注ぐようなもので…そしてメディアは「彼らがそれと戦うつもりだと称している…」などといった偽ニュースさえも、生じさせている。こうしたことは、シリアスな捜査にだけ値するものであり、それは我々にとってまさに今、できていないことなのだ。

ナーミーン・シェイク:
ああ、あなたの同僚たちは、The Interceptに最近の記事を書いている、「実際に、こうした全ての「ナンセンス」な事柄に対して…、トランプが、大統領としての権力を用いて、それを直ちに明らかにしてくれたならば、良いだろうに…政府が傍受した、ロシアと彼の周囲の人間たちとの間のすべてのコミュニケーションに関する機密情報を開示させてくれたなら…」と。

そう…グレンさん、あなたはトランプはそれをすべきだと思うのか?
 グレン・グリーンウォルド: 

私が思うには、それは面白いポイントだろうという事だ─なぜなら、たとえばそこには色々な説があるのだ…フリン中将とロシアの外交官との会話や、こうした会話の記録(トランスクリプト)が何を反映しているようにみえるのか、といった事に関しては、しかし、未だに誰もその記録を見たものはいない。我々はその小さな断片の数々を目にしてはきたけれども。我々は全体の記録は、見ていないのだ。

そしてその記事を書いた私の同僚のJon Schwarzが、そうした機密を直ちに開示する力がトランプ大統領自身にある、といっていることは、絶対的に正しい。でも、そこにはそうした決断や、それが公表される可能性への見直しなどもまったく行われていない。

その一方で、過去4年間に私自身が(*エドワード・.スノーデンによる)機密情報のリークをめぐる論議の中心人物でもあった記者として、人々が、「大統領は今や、政府が行うことの可能な、最もセンシティブな情報の傍受を実行すべきだ」…などと言うことを聞いていると、それは、本当に異様なことに聞こえる…クレムリンの内部にいるロシア政府職員の会話を、どうやって盗聴するべきか、そして、それをすることが何の問題もないかのように、その盗聴で得た情報を公共の場にポンと投げ上げよう…といったような事を、人々が言うのを聞くのは。

私は、あなたは今やここでこの酷く不快な、ダブルスタンダードを目にしていると思う、つまり、対テロ戦争以来、機密情報とは聖なるもののように扱われて、それを漏洩する者は誰であろうが、裏切者(反逆者)、悪魔的な存在とみなされ、ごく長期にわたって収監されるべきであった、というなかで…今や、そうした機密情報がおもちゃのようなものに過ぎなくなったということ…もしもそれが何らかのアジェンダに役立つのならば、我々が面白がってそれを宙空に投げ上げたりしても何らの問題もないものになっているとは。そして、私が思うには、それがこの議論が進展するに伴って私をうんざりさせていることの一つなのだ…。
https://www.democracynow.org/2017/2/16/greenwald_empowering_the_deep_state_to